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2008年8月28日 (木)

<ドル防衛で日米欧が秘密合意―3月の金融危機時>~日経特ダネ+産経・田村秀男氏<狂乱マネー>での財務省批判

 日経新聞2008年8月28日朝刊1面トップは<ドル防衛 秘密合意/日米欧、3月の金融危機時/協調介入を準備/基軸通貨に危機感>という大特ダネだった。「サブプライムローン問題をきっかけにした米金融不安でドルが急落した今年3月、米国、欧州、日本の通貨当局がドル買い協調介入を柱とするドル防衛策で秘密合意していたことが明らかになった」という衝撃的な前文である。

 米証券大手ベアー・スターンズの経営危機が表面化した3月中旬、金融システムの動揺が収まらず、世界的なドル安、株安に歯止めがきかなくなってきた。

 危機感を強めた米国の意向を踏まえて3月15、16日の週末を使って、為替政策を担当する米、日両国の財務省、欧州中央銀行(ECB)などの当局者が断続的に電話で緊急協議を実施し、ドル買い協調介入の勧め方などを擦り合わせた、という。

 介入を決断するにあたって特定の防衛ラインは設定せず、投げ売りが膨らんでドル暴落の恐れが強いと判断すれば機動的にドルを買い支える案を軸に検討。介入金額は未定だったが、相場を見ながら各中央銀行が東京やニューヨーク、ロンドンなどの市場で円やユーロを売ってドルを買う売買を繰り返す枠組みとしたとみられる、とある。米欧間ではスワップ協定ができているそうだが、この際は日米間でも通貨スワップ方式で米が円売り・ドル買いに必要となる円資金を日本が供給する方針も確認され、必要に応じてこれを活用する段取りだったそうだ。

 当時、ドル安・円高で1㌦=100円の大台を突破し、一連のドル防衛で合意した直後には1㌦=95円台まで急落。ドルは対ユーロでも連日最安値を更新したが、その後ドルがやや持ち直したため、市場介入は見送られた、という。

 記事にあるように米欧日は2000年9月から約8年にわたって協調介入を実施していない。日本単独の為替介入も2004年3月を最後に停止している。10月に米ワシントンで開く7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも為替安定での協調姿勢を確認する可能性が大きい、と書いてある。

 日経新聞5面トップ<米、苦渋の「介入」主導>は特ダネの解説記事。

 この中で、7年半も協調介入を見合わせていた日米欧がテクニック面で綿密に打ち合わせたこと、市場介入を停止して4年になる日本でも手落ちがないように市場での通貨売買を委託する日銀と財務省とでシミュレーションを重ねていた、とあった。

 為替介入の歴史も書いてあった。米国は1985年に経済大国として台頭する日本からの輸出を抑え貿易赤字を縮小するために「プラザ合意」によるドル高是正を主導。1987年には行き過ぎたドル安反転のために「ルーブル合意」にも加わったが、1990年代以降は「為替相場は市場が決める」との姿勢を強め、市場介入には極めて慎重になっていた。

 円相場の乱高下に苦しんだ日本は1990年代以降も為替市場介入を繰り返した。2000年から2004年までの巨額の円売り介入は深刻なデフレ対策として金融緩和を補完する狙いがあったが、他国からは「輸出振興のために円安に誘導している」などの批判も強く、2004年3月を最後に介入を中止した、という内容だ。

 この秘密合意が明るみに出て、その後の理由の不明だった動きが説明できるようになった、というのが、この解説記事の一つの眼目だろう。

 <秘密合意を境に、米国はドル防衛の姿勢を鮮明にし、4月11日にワシントンで開いたG7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は7年7カ月ぶりに為替急変動への懸念を明記。その後、ポールソン長官は介入検討にも言及し、6月の大阪G’財務相会合や7月の洞爺湖サミットでも米側は「強いドルは国益」発言を繰り返した。>

 <米国が危機感を強めたのは、世界的なドル資産離れが進んでいるため。各国金融当局が保有する外貨準備に占める米ドルの比率は1999年のユーロ発足時に70%を超えていたが、今年3月末には63%にまで低下。ドル以外の通貨も台頭し、基軸通貨の地位も揺らぐ恐れが出てきた。>

 <基軸通貨の暴落の世界経済への影響は計り知れない。ドル建てで取引されることが多い原油、穀物価格などの高騰につながる。また、自国通貨をドルに連動(ペック)させている湾岸諸国では、自国通貨も急落し、輸入価格上昇、インフレのリスクも高まる。>

 などの指摘である。

 米国の経済、金融がここまで深刻だったのか、というのが最大の驚きだった。金融秩序の安定のために、これらの動きは水面下で行われた。米連邦準備制度理事会も表面上は「世界恐慌につながるような事態ではない、大丈夫だ」というメッセージを出し続けていたから、「米国って相当に懐の深い国だなあ」と思っていたのだが、関係者はこの春、地獄の釜の蓋が開く恐怖に震えながら、事態を注視していたわけだ。

 8月25日から27日まで開いた米民主党大会は大統領候補のバラク・オバマ上院議員(47)と副大統領候補のジョゼフ・バイデン上院議員を選んだだけでなく、政策綱領案として、公共事業拡大など総額500億㌦(約5兆5000億円)の経済対策を打ち出した。公共事業で雇用を創出するのが目玉らしい(日経新聞27日朝刊)。このような「バラマキ」は果して有権者に訴える力があるのか、疑問も沸いたが、米国経済の想像以上の疲弊は、なりふり構わない政策を必要としているようだ。

 この秘密合意は約5カ月後に明るみに出たわけだが、それまで日本のマスメディアは米金融危機をどう報じてきたのだろうか? ここまでの危機意識はあったのだろうか、それともバーナンキの「大丈夫」発言で一安心していたのだろうか? 日経新聞の社説などで、ちょっと振り返ってみたい。

 3月16日日経社説<証券会社を救済したFRB>はFRBがベアー・スターンズ救済に動いたことを「決済を担う銀行ではなく、証券の取引を業務とする投資銀行の救済は極めて異例だ。米金融危機の根深さを物語る」と重く受け止め、今回救済は米国で第5位という大型投資銀行だからではなく、ベアー破綻が「次のベアーはどこだ」と疑心暗鬼を生み、山一証券などの大型破綻を引き金に急速な信用収縮を起こした10年前の日本の二の舞を避けるためだった、と推測。金融機関同士の再編で金融危機を乗り切ろうとしているFRBの手法に「いまここにある金融危機を克服できるかどうかである。疑わしい」と断定。経営責任の明確化と自己資金不足の金融機関への公的資金投入の必要性を訴えた。

 3月18日日経社説は重要な論説の際に、いつもは2本で構成する社説を1本にする「1本社説」で<金融有事に日銀総裁人事なお迷走とは>。3月19日に任期切れとなる福井俊彦日銀総裁の後任人事がなお迷走していることについて「株安、ドル安の震源地である米国は事態収拾の抜本策をとるべきだが、日銀総裁人事の決着も急務だ。福田康夫首相と小沢一郎民主党代表は、金融市場の危機増幅の共同責任を問われている」と政治無策を厳しく断罪している。17日はアジア、日本株急落、日経平均株価が終値で1万2000円を割り込んだ。円は一時1㌦=95円台に急進、12年7カ月ぶりの円高・ドル安水準を付けた日である。「17日に政府・与党は福井総裁と武藤敏郎副総裁の再任案を打診したが、民主党は拒否した。新たな総裁候補を示して決着を急ぐのではなく、参院で総裁就任を否決された武藤副総裁の再任を持ち出したわけだ。首相のメンツの問題もあろうが、収拾策としては理解しづらい。」「首相の存在感が希薄で、指導力も弱い――政治の迷走がさらに続く懸念が市場の不安をあおっている。」と政治がリスクを増幅していると非難しているのだ。

 3月19日日経新聞社説<国民不在のあきれた与野党の迷走劇>は福井総裁後任に政府が田波耕治国際協力銀行総裁(元大蔵事務次官)を起用する人事案を国会に示したが、民主党は不同意方針を決め、日銀総裁空席がほぼ確実になった、という情勢を「日銀総裁人人事が政争の具となり、福田首相も小沢一郎民主党代表もそれを解決する答えを見いだせない。」として「国際社会での日本の信用失墜は計り知れない。福田政権にとっても大きな打撃となる」の結びだった。

 日経社説は3月20日<総裁空席が示す政治の深刻な機能不全>は副総裁の白川方明氏が総裁代行となったこと、<利下げ頼み際立つ米経済運営>は金融に亀裂が入っている現状では金利下げは資金はうまく回らないので景気浮揚効果は限られている、として公的資金投入を再度提起していた。3月22日<白川代行率いる日銀の課題>は米国の金融危機が「日本に機器が連鎖するような事態を念頭に置き、対応策は用意しておくべきだろう」。3月31日<株価下落が突きつける日本企業の課題>は「150兆円。先週末までの1年間に失われた、東京証券取引所第一部に上場する株式の時価総額だ。日経平均株価が25%下落し、カナダの実質国内総生産(GDP)に匹敵する価値が消えた。サブプライムローン問題の震源地である米国の株価が1年前の水準にとどまっているのと比べ、日本の不振ぶりが目立つ。」と企業業績の話。4月2日<日銀短観が映す土俵際の日本企業>は1日に発表された日銀の企業短期経済観測調査の分析。

 米国経済がテーマだったのは4月4日<長引く懸念も出てきた米経済の低迷>。2日の議会証言で米連邦準備制度理事会のバーナンキ議長が米国が景気後退に陥る可能性があることを初めて認めたことを中心に「景気が実際に後退すれば、同時テロがあった2001年以来のことになる。だが、短期で終わった前回の不況と異なり、今回は低迷が長期化するとの見方もある。日本経済に向かう米国からの寒風は一段と強まるとみておいた方がよさそうだ」とする。4月8日<白川総裁誕生で空席は解消するが…>は政府が7日、白川氏を総裁に昇格させ、副総裁に渡辺博史・一橋大学大学院教授を充てる3度目の案を国会に示し、白川総裁がほぼ確実になったことで、11日に開くG7財務相・中央銀行総裁会議に日銀総裁不在は避けられたが、政治に何度も翻弄されているように見えるのは遺憾だ、という内容。4月9日<日銀人事をもてあそぶ民主党>は9日の衆参両院本会議で白川総裁決定となるものの、民主党が渡辺博史氏を不同意方針とするなど、方針が一貫しない民主党への批判一色。

 4月10日<制約多い日銀新体制、今こそ構造改革を>は新日銀総裁誕生にあたっての社説。「米欧で続く金融市場の動揺は底が見えない不気味さをたたえている。米欧の実体経済が冷え、その余波が日本に及ぶ恐れを否定できない。一方で世界的に原材料価格が高騰し、日本の物価にも影響が表れ始めた。」との現状認識に基づき「白川氏は8日、国家での所信聴取で『米国では1930年代の大恐慌以来の深刻な金融市場の動揺が続いている』と述べた。正しい認識だ。」として「米景気後退が輸入減少を通じ、日本の景気後退を招く恐れは十分ある。」との危機認識を示した。

 4月13日<危機拡大の防止へ行動が試されるG7>はG7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明で日米欧当局がより強い危機意識を持って問題に取り組む決意はうかがわれたが、市場を覆う不安をぬぐえるものではなかった、と辛い採点。ただ、「目新しいのは国際金融システムの安定性と絡めて『主要通貨の急激な変動』による悪影響に懸念を示した点だ。声明が主要通貨の動向に懸念を表明したのは7年半ぶり。」「背景には金融危機の深刻化に伴い、ドルへの信認が揺らぎ始めたことがある。」との部分に注目していたのはさすがだ。

 中国経済についても4月13日<人民元の上昇を構造改革へ>結びつけよ、と提案し、4月17日<中国経済なお過熱の懸念>と注視をやめてはいない。4月19日<景気減速を改革加速のきっかけに>は「『景気停滞下の物価高』に陥るリスクが世界的に高まってきたとみてよい」として、企業の経営改革を求めると同時に、政府の経済改革が望まれるとして①経済連携協定(EPA)締結②医療、農業分野での規制緩和③外国人労働者受け入れ④地方への権限移譲――を求めている。

 4月20日<損失処理を加速した米金融機関>は損切りなどの対応の早さを評価。4月21日<根が深い食糧危機、国際協調で対応急げ>、4月26日<Jパワーで中止命令出す前に>、4月27日<日本の中小企業を元気にするために>、4月29日<金融不安に伴う資源高の影>は金融緩和で資金が相場変動幅の大きく投資リスクも大きい商品市場に流れること、相場過熱を抑えるために商品先物投資を規制すると、ファンドの危機という別の金融不安につながるそそれがあること、などを紹介し、「これ以上インフレを加速させない金融政策へ切り替える環境を整えるべきだ。」と要望している。

 4月30日<今こそ長期的視点に立った経営を>、5月1日<政策の機動性掲げた白川日銀>は30日に出た半期に一度の「経済と物価の展望リポート」で機動的な金融政策運営を掲げたことを評価している。

 5月2日<難所にさしかかった米国の金融政策>はFOMCが4月30日にFF金利の誘導目標を0.25%引き下げ、2.0%としたが、2人の委員が利下げに反対したことを取り上げ「合意形成が難しくなってきたことをうかがわせる。」と懸念。「住宅バブルの調整にはかなり長い時間がかかり…一連の金融緩和策がすぐに景気を刺激するわけではない。」「一方、財政による景気対策では、円換算で11兆円規模の税の還付が今週始まったが、消費をどの程度持続的に押し上げるかは不透明だ。」として、金融機関の損失処理や資本増強を加速させることの重要性を説いた。

 5月4日の社説は[低炭素社会への道]シリーズ。5月5日と6日は[改革停滞を憂える]シリーズ<グローバル競争に耐える制度を早く>、<行財政の効率化へ地方分権の断行を>だ。5月10日<気にな米の保護主義傾向>は民主党の2人の候補がFTA批判を展開していることへの懸念。5月12日<国内消費が鈍り、海外依存強める米企業>は多くの米企業が新興国を収益源として逆風を乗り切ろうとしている、という紹介。5月17日<先行き厳しさ増す経済に細心の注意を>は1-3月期の日本音実質GDP成長率が年率換算3.3%と予想をやや上回ったことの解説。5月18日<企業は減益の予想を経営改革のバネに>くらいで5月は終わり。

 6月1日<重み増すユーロと欧州中銀の役割>は6月1日で欧州単一通貨ユーロの番人、欧州中央銀行が創立10年を迎えるのを機に要望したもの。ユーロ紙幣や硬貨の流通開始は2002年1月だった、と。今、ユーロ採用国は15.ユーロ圏の人口は約5億人で経済規模は米国に肩を並べる、と。為替という障壁がなくなったことで、域内貿易が拡大し、域内産業の競争も活発化し、ユーロ誕生以来約1600万人の新規雇用が創出されたという。

 6月4日<対アセアンFTA批准を急げ>、6月6日<首相は歳出抑制の方針を堅持すべきだ>、6月8日<日本企業は株主とどう向き合うか>、6月11日<原油高対策は金融の問題になった>。

 6月12日は第2社説だったが、久しぶりに<ドル防衛 真価試される米当局>のテーマ。ポールソン米財務長官、バーナンキFRB議長らが市場介入の可能性に言及。「口先介入」で一応は市場がおさまったが、「基軸通貨であるドルは、今や取り扱い要注意だ。各国間の緊密な情報交換と協調行動が欠かせない」と結んだ。

 6月15日<インフレ対応の難しさ示したG8会合>は大阪で14日に開いたG8財務相会合は原油や食料の価格上昇を「重大な試練」と指摘し、世界的なインフレ圧力の高まりに強い危機感を表明したが、世界経済に成長率低下のリスクが残っていることも確認して、インフレと景気悪化という二つのリスクに直面した各国の経済運営が難しい局面を迎えていることを浮き彫りに下、という内容だった。6月16日<物価、復興、株安――難題増す中国経済>、6月17日<日豪連携は戦略的に重要だ>、6月19日<歳出入を一体で改革する方針を貫け>、6月21日<功よりも罪が目立ったねじれ国会>、6月21日<分権改革の後退は許されない>、6月22日<最低賃金引き上げに必要な労使の努力>、6月24日<産油国も米中もさらに対応が必要だ>はサウジで開いた主要産油国と消費国の緊急閣僚会合で原油価格高騰への懸念を共有し、協調行動が必要との共同声明を発表、サウジが増産すると発表したことの評価。6月25日<資源高に揺さぶられるアジアの株安>、6月26日<コンビニ深夜規制より大切な事がある>、6月28日<骨太方針は予算要求書に変質したのか>、6月29日<社長再任が問われた株主総会>と、見出しを読み直すだけでも当時の空気が肌で感じられるようだ。

 6月30日<一段と難しさを増す米金融政策>はFRBが先週開いたFOMC後の声明文で「成長の下振れリスクは幾分和らいだようにみえるが、インフレとインフレ期待の上振れリスクは増した」の認識を示したが、これは、サブプライムローン問題の深刻化を受け、FRBが昨年9月から政策金利であるFF金利を下げ続け、合計3.25%の利下げでFF金利は年2%、物価上昇率を差し引いた実質FF金利はマイナスという思い切った金融緩和を実施したが、消費者物価上昇率が4%台に乗せ、インフレ圧力がくすぶっていることを重く見た声明だ、として警戒警報を鳴らしている。

 7月1日<何のための税制改革かを明確にせよ>、7月2日<体力が試される日本の景気と企業>、7月3日<定住外国人の教育訓練に政府も支援を>。

 7月4日<世界的株安の警告を真剣に受け止めよ>は「金融危機の懸念がぶり返した」という問題意識で書かれた1本社説だ。「住宅価格の下落は止まっていない。米金融機関は住宅ローン関連で巨額の損失を計上してきたが、住宅価格の下落が追加損失を招き、経営悪化につながるとの懸念が再燃した。銀行の財務体質の悪化は貸し渋りにつながる。」ということだ。原油高などによる消費者心理の冷え込みと、この金融危機再燃懸念という二つの要因が影響しあって「負の連鎖」を生んでいる側面もある、という。インフレ懸念から欧州中央銀行は3日に13カ月ぶりに政策金利を引き上げたが、FRBは金融不安を抱え利上げに動けない。米欧間の金利差拡大に着目してドルを売る動きが加速すれば、金融市場に混乱が生じかねないので、

 「無秩序のドル下落は望まないとのメッセージを日米欧が共同で発するなど、協調に揺らぎがないことを示すべきだ」

 と主張した。この内容こそ、8月28日の日経新聞特ダネが明らかにした、日米欧ですでに3月に合意していた内容だったわけだ。

 7月6日<サミットは歴史的合意へ政治決断を>、7月7日<洞爺湖会談は日米関係を癒したが・・・>、7月8日<サミットは金融市場の不安に応えよ>は「ブッシュ大統領は会談後の記者会見で『強いドル』に言及している」のに、日米首脳会談で触れられなかったといわれるが、どうか、と。7月9日<経済運営では根拠なき楽観>はG8首脳会議の首脳宣言で「世界の経済成長に引き続き肯定的」と総括したことを根拠なし、と断じた。7月10日<G8は洞爺湖で問題解決力を示せたか>は原油高騰、食料価格の上昇、地球温暖化の三つの危機への対処ができたか、と問い、G8だけでは対処できない時代になった、と結論付けている。

 そして、7月12日<金融不安長期化に備える米金融当局>は10日の議会証言でバーナンキFRB議長が3月に緊急措置として実施した証券会社向けの直接貸付制度を当面維持すべきだ、と発言。ポールソン財務長官も賛同して、FRBの権限拡大の必要性を訴えた、という事実。そして、今、株式市場を揺さぶっている米政府系住宅金融機関であるファニーメイとフレディマックの経営不振が金融不安の新局面となっている、との認識だ。7月15日<米政府は公的資金注入を打ち出したが>は住宅価格下落で傷ついた自己資本強化のためにファニーメイ、フレディマックに公的資金を投入するとの緊急声明ポールソン財務長官が13日に出したことがテーマ。議会が政府に同調するかどうか、注視している。

 7月19日<長銀破綻の責任はどこにあったのか>は長銀元頭取の粉飾決算・違法配当事件への最高裁の逆転無罪判決が題材。7月23日<活力高める雇用改善は構造改革から>、7月25日<なお道遠い米金融システムの安定化>は週内にもファニーメイなど2社救済の住宅関連法案が成立する見通しになったことを受けた社説。「米国市場の不安はとりあえず収まりつつある」が、「米国の金融システム全体への信認が回復したわけではない。米当局には問題の後追いにとどまらない積極的な対応が求められる」とした。

 7月26日<アジア経済連携の再構築を>、7月29日<米老舗ファンド上場の意味>は世界大手の買収ファンドである米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が年内にも株式をニューヨーク株式市場に上場する。2年前からの「ファンド革命」で経済のインフラとしての役割が増したものの、サブプライムローン問題で逆風が吹いているファンドだが、株式上場で、買収した企業を改革して価値をあげていけるか、に注目したい、という内容だ。

 7月29日<金融市場の小康で調整する原油市場>、7月30日<大胆に歳出組み替え力のある予算を>、7月31日<誰が世界を保護主義から守るのか>はWTO閣僚会議決裂がテーマ。8月2日<出口見えぬ米国経済の調整期>、8月5日<ばらまき型の経済対策なら意味がない>、8月8日<外需依存経済の限界示した景気後退>、8月11日<サブプライムが変えた世界経済の風景>は2007年8月9日のフランスの大手銀行BNPパリバのファンドが国際的金融不安の発火点になって1年という節目で書かれた。サブプライムローン問題が想定外にリスクが分散されており、被害総額が時とともに増えていることを懸念。危機連鎖防止ができるかどうか、が最大の問題だ、としている。

 8月14日<マイナス成長は改革を促す警報だ>も4-6月期のGDPが年率で実質2.4%減と1年ぶりのマイナス成長になり、日本経済が後退局面入りしたことを裏付けた、というニュースの解説的な社説だ。8月18日<成長の転換点迎えた自動車産業>――くらいが、先週火曜日までの社説である。

 まあ、このようなバチッとした証拠がなくても、経済に詳しい人は同じような対処策を考えるものなのだなあ、というのが感想である。

(8月30日追記)

 28日~30日、産経新聞朝刊に田村秀男編集委員の[狂乱マネー]㊤㊥㊦が連載されていた。その㊦でこの「ドル防衛秘密合意」をリークした財務省官僚を徹底批判していた。田村氏は国際金融関連の評論では第一人者である。㊦は後回しにして、㊤から、その主張を見てみよう。

 8月28日朝刊3面㊤<破綻したドル主導型モデル>では、まず今の米国中心の国際金融システムの説明をしてくれている。

 <米国は世界標準、つまり「基軸通貨」ということで原油などの商品や製品をいくらでも買える特権を持つ。ドルを世界にむやみに垂れ流せば単なる紙切れになる。しかし、カネが米国に流れ込んでくれば、その分ドル需要が高まるので価値は下がらない。この仕掛けが米国の金融・証券市場であり、2002~03年ごろから急速に膨張してきた。>

 田村氏が以前から、機会があるたびに繰り返し説明しているドル還元システムである。金とドルとのリンケージを切った米国は、紙幣の信用の裏付けとして金保有をする必要がなくなり、お札を刷りたいだけ刷れるようになった。ただ、お札をあまり刷ると、徳川時代のインフレと同じで、物価が異常に高騰するなどの副作用が大きく、限度がある。しかし、米国はこの「限度」を事実上なくす方策として、金融市場、証券市場の国際化を推し進めた。この結果、世界に出て行ったドルは高金利というエサに釣られて、米国に還流するようになり、そのドルを使って、借金、クレジットで米国民が新規住宅を買う、住宅を買えば大型家具も売れる、景気は良くなる、という繰り返しをしながら、バブルを膨らませてきた、というような内容である。この日はそこまでは書いていなかったが。

 <米国に外部から流入する資本は、戦後最大の株式暴落(ブラックマンデー)が起きた1987年当時でも国内総生産(GDP)の5%程度に過ぎなかったが、20年後、低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機が発生した2007年には15%に達した。この原動力になったのが、住宅ブームである。世界のカネを引きつけ、さらに住宅価格を押し上げ、個人消費を盛り上げた。それが中国など新興国、さらに日本の輸出を拡大させてきた。>

 住宅ローンは証券化されて売り買いが容易になったが、相場変動のリスクが発生するので、このリスクの歯止め策としてデリバティブが急速に膨張し、米銀のデリバティブ資産は貸し出しなど通常の総資産の18倍にのぼる。主力の顧客がファニーメイ、フレディマックだが、両機関はデリバティブで巨額損失が表面化し、経営危機に陥っている。原油や穀物の先物相場もデリバティブの一部だ。その相場高騰は住宅バブル崩壊で逃げた余剰資金が殺到したためだ。まさしく「デリバティブは大量破壊兵器」(全米最大の投資家、W・バフェット氏)といえる、というのが田村氏の説明。

 <現在の世界の経済困難は歴史上かつてなかった「ドル金融主導型モデル」の破綻である。住宅バブルにより作り出された米国の消費市場もまたバブルであり、住宅バブル崩壊とともに縮小するのは当然の調整過程だ。>

 と、金融危機と実体経済の危機が不可分のものであることを強調しているのは、非常に厳しい見方である。

 8月29日朝刊経済面の㊥は<敗北自覚なし…日本の弱さ>はショッキングな話から始まる。

 <その国の通貨の購買力を示す実質実効相場で、国際通貨基金(IMF)統計に出ている90カ国・地域の通過のうち、シドニー五輪が開かれた2000年以降の8年間で、日本円の下落率は2番目に大きい。最大の下落を記録したのは、アフリカ・ブルンジ共和国のブルンディである。ツチ族とフツ族の凄惨な民族殺し合いの内乱を経験した国だ。>

 日本はツチ族、フツ族並みだ、というのである。

 <ユーロ高のドイツ、ドル安の米国も原油高などで輸入コストが上昇するのと並行して輸出単価を引き上げているのに、日本では円安でしかも輸出単価は8年前に比べてほとんど横ばいにとどまる。輸入コストの負担増は現時点では年間で二十数兆円、消費税換算では10%程度に相当する規模だ。これでは貧しくなる個人の消費はさらに細る。>

 <円安による輸出促進は、構造改革との両輪で日本経済を再生させるはずだった。ブッシュ政権第1期目の米財務長官だったJ・テーラー氏の回想録によると、小泉改革を強く支持するブッシュ大統領の意向で、米財務省は03年の日本音大規模な円売り・ドル買い介入政策を容認した。ところが06年の小泉首相の退陣後は政権が代わるごとに改革機運が退潮し、結局、円安に安住して輸出依存の経済体質に戻ってしまった。設備投資や内需も自動車など輸出産業次第だ。>

 なるほど、テーラー回顧録には為替介入問題が相当のページ数を使って書いてあったなあ。

 <竹内淳一郎・日本経済研究センター主任研究員はそれを「出島景気」と呼ぶ。サブプライムローン危機以降、出島という輸出部門が米国や新興国など輸出先の需要減の直撃を受けて吹っ飛んだ。>

 <日本の弱さとは、国際的な富の争奪戦で負けているのに、その自覚がないことだ。与党内部では、財政のばらまき派が台頭している。「ばらまき派が復活すれば、『改革の可能性なし』ということで株など日本売りに加速がかかる」と米大手証券アナリストは警告する。若者や家計、地域が活気づく改革の方向を定め、それを実行するためには霞が関に眠る埋蔵金を含めた財源を動員する確かな政策を打ち出すべきだ。>

 そうかぁ、田村さんは「上げ潮」に近い人なのかな? と思う文章だった。

 8月30日朝刊経済面の㊦は<時代遅れの「円売り介入」>。ここで、日経新聞特ダネに関する田村氏の怒りが爆発する。

 <決め手に欠ける総合経済対策の弱点を補おうとしたのだろうか。財務官僚は古証文まで引っ張り出した。この3月に日米欧の当局者で「ドル防衛秘密合意」があったという情報を日経新聞にリークした。最近のドル高・円安に駄目を押す動きとも読める。>

 <もとより、財務省の財務官は「介入好き」である。1990年代、榊原英資氏は「ミスター円」、2003年には溝口善兵衛氏は「ミスタードル」と市場から揶揄された。いずれもドル買い、円売り介入を推進し、外需依存の企業を後押しした。今回の秘密合意も「日本側が率先して米欧の当局に働きかけたに違いない」と市場関係者はしらけている。>

 という批判である。日本の経済成長を牽引してきた「出島景気」の推進役に力を取り戻させるため、つまり、外需依存成長を確実なものにするための古証文リークだ、というのである。

 なるほど、そう読むのが通の読み方なのか、とまたまた教わってしまった。

 <日本が対米協調するとすれば、外貨準備を使って米住宅公社2社の優先株を購入するなど、ワシントンの公的資金を補填するのが現実的である。この案は7月、当時の渡辺喜美金融担当相が提唱し、米金融専門家からも高く評価されたが、財務官僚は一蹴した。>

 でも、これは紙切れになりそうな優先株に日本のおカネを使うことだから、野党が猛然と批判するだろうし、財務省がやりたくてしょうがなくても、踏み切れなかったのは当たり前ではないでしょうか?

 <日本はこれまでの漠然としたドル買い・円売り介入による円安政策を改め、具体的なターゲットに絞った対米金融協調に限定して米金融市場の早期安定を図る一方、国内の改革路線を明確にして証券市場活性化を急ぐべきだ。世界の余剰資金が集中する米国がそれを再配分するシステムが続く限り、米国の危機が世界に増幅して伝わるマネー狂乱は今後も収まりそうもない。>

 なるほど、ファニーメイとフレディマックの優先株購入はこういう意図だったのですか。

 でも、そうした大きな絵図面を日本の国会や有権者は果して理解してくれるか、疑問ですね。もう少し、国際金融について国民的常識をレベルアップする必要があるのではないか、と思います。学校でも教わらないし、新聞を見ても難しそうだから、途中で読むのをやめてしまう。ああ、こんなものか、と庶民でもわかるような説明はできないのでしょうか? 「ねじれ」国会は自民党一党支配時代の様々な矛盾を明るみに出しました。円価値の暴落という「日本敗北」をもう少し喧伝して、常識アップにつなげたいものです。こんなところが田村論文の読後感でした。やっぱり、田村さんは深い、という印象でした。

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