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2008年9月 5日 (金)

パッシング、ミッシングと言うなかれ~福田辞任、外交への影響は?(毎日新聞、日経新聞から)

 毎日新聞9月5日朝刊オピニオン面[論点―福田政権が残した外交課題]で進藤榮一・筑波大名誉教授(国際政治経済)は<アジア外交の転機へ>として、福田首相は「「わずか1年弱の在任中に、ポスト冷戦後アジア外交の転機を着実に作り上げていた」として、その突然の退陣を惜しんでいだ。それはいいのだが、進藤氏の論文に「『ジャパン・ミッシング(日本見えず)』が、今、国際社会で日本を評する合言葉になっている」とか、「ジャパン・ミッシングを反転させジャパン・バニッシング(日本消滅)に至らせない唯一の道」などの言葉が頻出したのに違和感を持った。
 中国が力をつけてきて、米国の有力者が日本を通り越して直接中国を訪問する「ジャパン・パッシング」、日本の存在が見えない、まるで国際社会で日本がないような感じ、という「ジャパン・ナッシング」など、口の端にのぼりやすい言葉が一時流行した。何となしの雰囲気を表す言葉なので、寿命が尽きることなく、ミッシング、バニッシングに”進化”しつつあるようだ。
 それにしても、きちんとした国際政治学者だったら、そんなイメージだけで論じるのではなく、その言葉をもう一度ひっくり返して、言葉と現実とのギャップを示すか、言葉通りの”ミッシング”ぶりを分かりやすく説く努力をしてほしかった。
 本当に世界から笑いものにされているのか? と冷静な分析を書いたのが同じ毎日新聞5日朝刊の2面[発信箱]を書いていた福本容子・経済部記者だった。<それほど嘆くこともない>の見出し。情けない福田辞任記者会見について、
 <「こんな簡単に首相が辞めてしまうと世界から笑い者にされる」というコメントが産経新聞にあった。どんな笑い者になっているのだろう、と欧米メディアのニュースサイトをのぞいたら、「グスタフ(ハリケーン)」、米共和党副大統領候補ペイリン氏の長女17歳が妊娠、バンコクに非常事態宣言、グーグルが新サービス……話題にさえなっていない。無視された寂しさを覚えていると、英紙フィナンシャル・タイムズの社説に出くわし、そうか!と思った。>
 と書く。ロンドンだかどこだかで特派員経験がある記者で、英語が得意だから、英米の新聞が読める。福本氏によると、そのフィナンシャル・タイムズは、
 <首相がまた1人去っても、自民党政治は変わらない、という皮肉っぽい趣旨なのだが、「日本という国はすばらしくうまくいっている。優れた公共サービスにインフラ、低い犯罪率など他国の政治家が熱望してやまないものばかり」とある。首相が突然辞めても、昨年のように12日間、実質不在になっても、社会の安定が揺らいだり、通貨が暴落したりしない。我々が思うほど海外は日本の政治に関心がないのだが、それは、彼らにとって日本が相当な安全・安心の国であり、特段心配の必要なし、ということでもある。あとは、政治をちゃんとするだけなのだ。>
 と書いているのだ。海外事情に詳しい経済記者の分析だ。事実関係に間違いはないだろう。
 日本人は自虐的だから、昔から、こういう時は、欧米のジャーナリズムから批判してもらえば、何か安心していたのではないか。そんな「途上国心理」が「パッシング」「ナッシング」などの便利な言葉を流行させたのではないか、と思った。やはり、実際に海外の新聞をじっくり読んで、事実を書いてほしいのだ。
 同じ毎日新聞朝刊[論点]特集に話を戻す。
 草野厚・慶応大学教授(政策過程論)が寄稿した<存在感そぐ短命内閣>のほうがディテールの数字をあげて説得力があった。
 <国際社会での存在感が一層薄らぐ>のは、<次期首相は90年代以降12人目だ。首相が猫の目のように変わるイタリアの延べ11人を抜く。その間、米国は3人、英国は4人、独仏も3人だ>
 という数字の裏付けがあって初めて説得力を持つ。
 <資源小国日本が国際社会で生き残るための政策が手つかずだった>の後には、<市場の開放は進むどころか停滞気味だ。例えば現在の対日投資残高の対GDP比はわずか3%程度。これは、英国44.6%、ドイツ25.1%はもちろん、米国の13.5%にさえ大きく遅れている>
 と数字の裏付けがあった。これも「なるほど」と思う。
 毎日新聞[論点]で最も光ったのは数字的な話ではないが、大きな枠組み、構想の必要性を短い行数でまとめて提言していた田中均・日本国際交流センターシニアフェローの<米新政権と協議急げ>でだった。
 この中で田中氏は、
 <新しく選ばれる自民党の首相は時を浪費することなく、臨時国会の冒頭衆院を解散し、総選挙で国民の信を問う責務がある。国民の信任を受けた政権を一刻も早く成立させ、強力な施策を展開していくのが日本の政治指導者としての責務である。それだけ日本の危機は深刻である。>
 と、臨時国会冒頭解散の必要性を訴えた。なぜ冒頭解散か。
 <日本の国力は低下している。政治の混迷は国力の低下以上に国際社会での日本の影響力をそいでいる。国力以上の力を発揮するのが外交の力である。政治のポピュリズムに流される日本に強力な外交など望むべくもないし、1年程度で終了する政権が外交上の成果をあげるはずがない。>
 と、外交の力の源泉となる政治の安定の必要性を説いているのだ。
 そして、新しい政権が取り組まなければならない外交の中心課題は三つだ、として
 ①米国との関係の調整=今こそ日本は国連を中心とする集団的安全保障体制に参加すべく集団的自衛権の解釈の一部見直しをすべきだ
 ②東アジアとの関係の調整=中国やインドを巻き込んだ東アジアの安定的秩序の構築が日本の最大の課題。さまざまな多角的枠組みの創設に日本は主導権を取るべきだ
 ③朝鮮半島問題=拉致問題の解決を図る上でも日本は北朝鮮と平壌宣言に基づく包括的交渉を開始すべきだ――を提案している。
 先ほど問題視した「日本パッシング」という言葉が登場していたのが日経新聞9月5日朝刊1面企画[福田辞任ショック㊦]<日米同盟の劣化許されず>だった。秋田浩之編集委員は米ロ対立激化の中、日本の立ち位置が難しくなっている、として、次のようなエピソードを紹介している。
 <ロシアは硬軟両様で対日攻勢を強めつつある。「米国と中国が手を組み、日本をパッシングしようとしている。そうなれば、日ロが手を組むしかない」。ロシア外務省高官はこう語り、日米同盟に揺さぶりをかける。ロシアはエネルギー協力などで日本に秋波を送るが、「アジア方面の軍備増強も進めている」(日本の安保当局者)。一方、米英からは日本に対ロ連携を求める声が高まる。先月下旬に英国のウォレン駐日大使が福田首相を訪れ、ロシアに強硬姿勢で臨むよう促した。米ロ対立は日本の立ち位置を難しくする。>
 神経戦である。外交の現場はいつもこのような神経戦を繰り返しているのだ。秋田氏は自分の歴史認識を次のように書いていた。
 <資源を持たない日本は明治維新以来、当時の超大国と組むことによって国難を切り抜けた。日露戦争での日英同盟、米ソ冷戦における日米同盟はその成功例だ。逆に、米英中ソを敵に回し、自らが「帝国パワー」になろうとした第二次世界大戦では砕け散った。>
 今の「反米」世相への気遣いなのか、次のような文章も付け加えてはいるが。
 <何でも米国の言いなりになることが同盟強化の道筋ではない。だが、イラク戦争に反対した独仏やカナダもアフガンには派兵している。給油を続けるのか、代替案を探すのか。臨時国会は国際貢献に「ゼロ回答」で終わる結末にしてはならない。>
 「日本パッシング」などの言葉はこのように、諸外国にうまく使われるだけなのかもしれない。大体、言葉には霊力がある。うかつに口の端にのせれば、その言葉は独り歩きを始めかねない。福本記者のリポートをじっくり読んで、日本の実力に自信を持ち、政治の行く末を腰をすえて考えようではないか。総裁選の馬鹿騒ぎに忙殺されずに。

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