<竹中平蔵vs.山口二郎>対論は自民vs.民主代理戦争以上に面白かった~中央公論08年11月号[特集 政治崩壊]
久しぶりに中央公論を読んだ。11月号。[特集 政治崩壊]の広告を見たら、佐々木毅学習院大学教授が<自己管理できない政党が日本を蝕んでいる>のタイトルで論文を書いている、とあったので、読んでみたくなった。多くの論文と総選挙シミュレーションがあり、盛りだくさんだった。
肩が凝らず、面白く読めたのは、竹中平蔵慶応大学教授と山口二郎北海道大学大学院教授による<徹底討論 漂流する日本を救うシナリオを探せ!/新自由主義か社会民主主義か>と題した対談記事だった。
小泉構造改革を押し進めた政策マンであり、アメリカ仕込みの経済学者・竹中氏(1951年生まれ)と、ヨーロッパ社民政党の研究を十数年間続けている政治学者・山口氏(1958年生まれ)の徹底討論である。
党首討論と違って、お互い自分の意見を主張しながらも、さすが学者らしく話がかみ合っているところが面白かった。政治家もこういうハイレベルな討論をしてほしいものだ、と思った。
興味深かった部分だけを抜き書きしておく。
◆小泉政権前に自民党は崩壊のプロセスをたどっていた
山口氏 小泉、竹中路線が構造改革を断行した。支持基盤の再編を伴うもので、何よりも政治家の頭の中を入れ替える作業が必要だったが、その方向に自民党全体がモデルチェンジできなかった。多くの自民党議員は「小泉人気にあやかろう」程度の認識だったが、小泉氏が予想外に力を持って本気で規制緩和をやり出し、その結果、自らの地盤がどんどん掘り崩されたので、危機感、反発が噴き出し、党が”股裂き”状態に陥った。
竹中氏 小泉氏が登場する前に自民党はすでに崩壊のプロセスをたどっていた。”失われた10年”を止められなかった自民党はもはや統治能力を失い、まさに崩れ落ちようとしていた。その時に、小泉氏が登場して改革の旗を振り、当面の危機から救った。ところが、安倍首相が登場したころから党内に「揉め事をつくるな」という空気が生まれ、安倍氏はそういう意見を受け入れ、郵政造反組の復党まで許した。小泉時代に芽を出した生まれ変わるチャンスをみすみす摘んでしまった。不良債権処理や郵政民営化に本気だったのは、小泉氏と私と、あとはほんの一握りの人たちだけだった。今回の総裁選を見ていると、改革派がますます肩身が狭い状況に追い込まれているのを実感する。
◆対立軸ははっきりしているか?
山口氏 従来の自民党は財界の言うことも聞き、一方で国民各層への再配分にも気を配るヌエのような存在だったからこそ、長期政権たりえ、結果として政権交代を阻んできた。しかし、小泉首相は明確に「小さな政府を目指す」という軸を立てた。おかげで、私が標榜する再分配重視の「中道左派」という対立軸を立てやすくなった。ところが今度、麻生首相が出てきて、どうやら「小さな政府」はますます軌道修正されて、民主党が今掲げている方向と大した違いがなくなりそうだ。
竹中氏 民主主義がどういう対立軸のもとに機能すべきかと、については山口氏と大きな差はない。ただ現状認識に差がある。私は「小さな政府」にして、任せるべきは民間、市場に開放すべしと、考えて、具体策も「骨太の方針」で提示した。しかし、対立軸はいまだに出てきていない。米国型かスウェーデン型か、だ。「骨太」が前者に近いものならば、「スウェーデンのように消費税を25%にしても、誰もが満足できる福祉を国が提供する」といった方向性を掲げた政党が日本にはない。自民党も民主党も真の対立軸を示せていない。
山口氏 ここまで格差が先鋭化すると、医療・教育とかのミニマム保障さえ危機にさらされており、民主党が改革路線への対抗として打ち出した「生活第一」はそれなりに意味のあるアジェンダだ。世界標準の2大政党制を作るのだ、という志を持って、論争を挑んでほしい。
◆政策と政局~短命政権で本格的改革は無理だ
山口氏 一方で日本では政策論争と政権交代の”仕分け”がつかなくなっているのは大きな問題だ。この間、野党として政権奪取に軸足を置くのは仕方ないが、これだけいろいろな問題が起きているのに政策論争らしきものはほとんど行われていない。
竹中氏 何か抜本的政策を打ち出そうとするとすぐに政局になってしまう。ここ20年ほどで首相が14人入れ替わっている。議院内閣制の本家、英国では首相は10年前後の長期政権だ。一定の期間が与えられないと思い切った政策は実行できない。サッチャーも金融ビッグバンを成し遂げるのに7年かかった。郵政民営化も準備段階を含めて4年かかった。小泉長期政権だったからできた。
山口氏 英国では保守党と労働党の政権交代自体が10年の単位。10年野党であることに耐える。労働党は18年間野党暮らしだったが、その間、世代交代を図りじっくり政策を練り直して「第三の道」というアジェンダを掲げて返り咲いた。こういうメカニズムがうまく機能するか否かが政党政治の質を規定する。
◆自民党も民主党も政策立案能力がない…官僚の跋扈を許す体質
山口氏 日本でそうならない理由は、自民党に関して言えば、1993年の細川政権で下野した教訓から過剰に学び、とにかく政権にあるためには何でもあり、という”機会主義”に陥ってしまった。小泉改革ですら政権維持の材料にした。個人的にはここまで機会主義に染まった政党にはいったん退いてもらう。そうしないと、あるべき政党システムをどう構築していくかという議論にさえ入れない気がする。
竹中氏 民主党も政権を奪いたい人間の集団に見える。民主党も政権を取ると、結局自民党と同じメンタリティに陥りかねない。自民、民主にかかわらず、今の政治集団は政策立案能力をほとんど喪失している。
政治の内部にいて最も実感したのは、どんなに抜本的な改革でも突き詰めれば細かい行政手法の積み重ねだということ。そうしたノウハウは官僚が独占している。あれだけ非難されても官僚の跋扈がやまないのはそのため。政治家の顔ぶれが替わっただけではこの壁を突き崩すのは難しい。
実は不良債権処理も郵政も政治や民間サイドに具体的なプランや知恵はほとんどなかった。とはいえ、現役官僚を引き込めば、いいようにやられるだけなので、優秀な元官僚やいわゆる「脱藩官僚」を10人ほど集めて”ゲリラチーム”をつくり、具体策を詰めた。やってみて再認識したのは、「政治家にはこういう能力はない」という冷厳な事実だった。
山口氏 90年代には竹中氏と同じ課題に仲間として取り組んだ。官僚支配と自民党の族議員政治こそが日本をおかしくしている元凶である、と。そこに竹中氏は経済学の立場から、私は政治学の立場から批判の矢を放ち、一定の世論形成に成功した。
私はデモクラシーによって既存の縦割り行政にメスを入れ、資源の配分を変えるべきだと訴え、竹中氏は官と民の境界線を引き直し、市場原理も大胆に取り入れることで官僚制の病理を是正しようと目論んだ。
竹中氏 誤解を解きたい。我々がやったことに「新自由主義」とのラベリングが横行しているが、それは事実ではない。郵政民営化はオランダでもドイツでもイタリアでも実行されたが、だから新自由主義だなどと評された例はない。不良債権処理の時も「自由にやらせてほしい」と主張する銀行に、ルールを強化してたがをはめたのが我々だ。私のどこが新自由主義者なのか。「この人はアメリカ一辺倒」というようなレッテルを貼って実質の議論を封殺することの弊害は計り知れないものがある。
◆小泉構造改革の光と影
山口氏 「改革」という大変聞こえのいい言葉を小泉、竹中両氏が独り占めして経済財政諮問会議などから出す政策をすべてこのパッケージに包んだ。そこには地方交付税の引き下げとか医療費の削減とか、国民生活に直接影響する施策がたくさん内包されていたのに、それらがまともに吟味されることなく通ってしまった。小泉氏は改革の中身を一度も体系的に説明したことがなかった。「郵政民営化が構造改革の一丁目一番地」と言いながら、じゃあ二番地はどこなのかという説明を聞いたことはない。
竹中氏 改革には不良債権処理のようなリアクティブ(守り)のものとプロアクティブ(攻め)なものがある。郵政民営化が成った後の二番地として財政投融資の改革が必要だ、とさまざまなところで述べ、本に書いた。だから体系は示している。しかし、メディアはワン・ワードしか報じない。社会保障にしろ「三位一体」にしろ、改革は道半ばだ。
山口氏 社会保障は道半ばというが、医療費抑制は小泉改革の柱の一つではないか。あれを断行したことで、医師不足、救急崩壊など、いろんな問題が顕在化したのは事実だ。
竹中氏 医療費の抑制は財政的な課題だ。しかし、その結果をどう負担し、配分するかはすぐれて厚生労働行政の仕事だ。はっきり言えば大臣がしっかりしていれば現在とは随分違った姿になっていたはずだ。全体を一律に削るとかではなく、現存する無駄を省いて必要な部分にはさらに手厚くするといった方策が十分可能なのだ。役人に丸投げするからああいうことになる。見識ある人物が厚生労働大臣に就任し専門家を集めて改革に乗り出せば、事態はドラスティックに変わる。残念ながら今現在もあそこにはそういう人材がいない。→ものすごい舛添批判!!
山口氏 日本は諸外国に比べ医療、教育の公的支出がそもそも小さい。これをさらに切り詰めれば現場で歪みが生じ、ナショナルミニマムの確保さえ危ぶまれる事態が想像できる。公共セクターの役割を考えた時、日本は人口比で公務員の数は少ないし、租税負担率は低く政府の予算規模も小さい。初めから小さな政府だ。
竹中氏 これも誤解があるのだが、小泉改革で公共部門の対GDP比は決して減っていない。医療費も抑えようとしているが、減ってはいない。財政をぶった切ったというような捕らえ方が間違いなのは数字を見ても明らかだ。「小さな政府にした」のではなく「大きな政府にならないように必死で耐えている」というのが正しい理解だ。
これと格差の拡大は関係ない。格差は大きな政府の国々でも拡大している。小さな政府を志向するのは政府を信用していないからにほかならない。政治の中に入って、ますます確信を深めた。「大きな政府」になどなったら、この国はえらいことになる。→彼らの用語「政府」とは官僚制のことを指しているらしい
ただ、予算規模は小さいが、日本は米国の5倍の資産を持っていることを忘れるべきではない。GDPは米国の半分だが、GDPサイズではおよそ10倍の資産だ。持たなくてもいい資産で肥え太った大きな政府ということもできる。財務リストラも喫緊の課題だ。
山口氏 財政赤字はそんなに深刻な問題ではないと?
竹中氏 売れる資産は売って、借金を返すことを考えるべきだ。ただし、赤字が増え続けていることは事実だ。ここは正していかなければならない。
山口氏 小泉氏が断行した「改革」の結果、医療とか介護とか教育とかの多くの現場で資金の投入が滞った結果、担い手が疲弊しきっているというのは厳然たる事実だ。無駄を省くのはいいが、民営化できない世界もある。ミニマムの保障の部分で不安感が増大するようでは、国民が将来に対する希望を持てるはずがない。何のための改革か、と思わざるを得ない。(これが社民党的な小泉改革批判の定例パターン)
竹中氏 政府でしかできないことがある、というのは全くその通りだ。だからこそ徹底的に無駄を省いて必要なところに集中的に資源を配分できるようにすべきだと主張している。政府系金融機関、中小企業金融は各国持っているが、日本のように各省にあまねくぶら下がっている例は皆無だ。こうした無駄を放置したまま国民、特に若い世代に負担増を強いれば、それこそ希望が持てない国になる。(これが小泉構造改革派の定型的な反論パターン)
山口氏 現状は省くべき無駄が放置されたまま、削ってはいけないところばかり手を突っ込んでいる気がする。(同)
竹中氏 そんなことはないが、「改革が道半ば」で、まだら模様なのは残念ながら事実だ。だからもっと全面的に強力に推し進める必要がある。(同)
山口氏 私は改革はスクラップ&ビルドだと思う。削るのはあくまでも行政需要がなくなったと判断できる部門。そして新たに需要が生まれた例えば介護のような分野にちゃんと資金を入れる。「まず削減ありき」「パブリックセンターはできるだけ小さくして民間へ」というやり方では国民との齟齬がますます拡大するように思う。→これは学者の論としては正論だが、「行政の無駄の研究」で明らかにされているように、「無駄」はない、というのが各省庁の公式見解であり、それを支える族議員がいるから、この方式では削減はできない。
山口氏 市場メカニズムを否定はしないが、行き過ぎを感じる。労働は規制緩和によって本来市場メカニズムになじまないはずの「人間」そのものまでが商品化され、コストカットの対象にされてしまった。構造改革路線の間違いが表面化した典型例だ。
竹中氏 私は逆に労働市場こそ最も改革が必要な分野だと認識している。働く時間や働き方などを選びたいという労働の多様化のニーズが非常に高まってきた。これに応える方策として派遣労働のようなあり方もそれ自体は認めていいと思う。問題は主として日本の労働法規の歪みに起因する正規雇用と非正規雇用の格差だ。格差を解消するためには正規・非正規を問わず「同一労働・同一賃金」にして、雇用保険や年金なども同じ条件にすればいい。オランダがやったことを採用するのだ。安倍首相にも進言したが、折悪しく、「ホワイトカラーエグゼンプション」が騒がれる事態となり、労働分野の改革は躓いてしまった。現状では部分的に自由化されたため、余計に歪みを生んでいる面もある。改革を急がないとならない理由だ。
山口氏 欧州の中道左派も最近はグローバル化の波に抗うのは無理だという現実を前提に、長期安定雇用のモデルは現実的ではないとして、政策を作っている。そこで「柔軟化」という考え方が出てくるが、そのためにはボトムつまり失業給付とか職業訓練だとかの政策的な支えを整備する必要だあるというのが共通認識になっている。結局、企業の人件費抑制のために規制緩和がいいように利用されて、メチャクチャな低賃金労働が急速に増えたのが現実だ。
竹中氏 法律の問題もあるが、労働監督官現場で機能していないのが大きい。ここがしっかりしていれば、サービス残業など許されないはずだ。
山口氏 監督官が人手不足に陥っている実態がある。レフェリーが絶対的に足りない。
竹中氏 その通り。他方、地方農政局など何もやらないでぶらぶらしているような人がゴマンといる。そこを削って仕事のあるところにまわすというのが我々の言う改革だ。改革が不十分だからこんな状態になっている。
小泉改革は増やすべきところを増やし、減らすべきところを削るというまさにスペシフィックな政策だ。「新自由主義だから」ウンヌンではなく、そういう各論を議論しようと言ってきている。いっそう詰めた議論をしないといけないと痛感する。
山口氏 各論を議論すべき、ということだが、自民党も民主党も日本の進むべきビジョンをぜひとも明確に示すべきだと思う。個人的には「第2のニューディール政策「」が必要だと考える。産業に関しては環境問題とか資源エネルギーとか、日本にとって重要な課題であると同時に世界の中でリーダーシップを取れる分野でもある。
竹中氏 まったくその通りだ。特に環境分野では世界最先端の省エネ技術を持つわが国は問題解決に大きく貢献できるはず。というより、欧米の技術では地球を救うことはできない、と言っても過言ではない。だからチャンスはある。総選挙ではそうした国の進路についても、ぜひマニフェストに掲げて、競い合ってほしい。
以上が略述だ。
面白いのはやはり、竹中、山口両氏が昔の仲間で共通の言葉を持っているから、論点がかみ合っていることだろう。学者だから歯に衣着せずに物言いができることもある。
国会論戦なども、これが一つの原型で、バリエーションを繰り返しているのだ、と思う。その意味で、肉を削り落とした骨そのものの形を知るのに参考になった
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コメント
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投稿: おけら | 2008年10月28日 (火) 22時47分
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投稿: 立川求人情報 | 2008年10月29日 (水) 10時46分