ホテルバーでの飲食を難詰する前にやることはあるはずだが…~新聞各紙への注文
新聞各紙が麻生太郎首相について毎夜毎夜、高級ホテルのバーで葉巻を吸いながら、酒を飲んでいるのはけしからん、とそろって「ケシカラン罪」で”起訴”しているのを見て、実は「さもしいなぁ」という気がしていた。
どうして、さもしい気がしたのか、私自身、どちらかといえば中の下程度の月給生活者なのに、おかしなことだ、と自分で自分の気持ちを不思議に思っていたのだが、毎日新聞10月27日朝刊を読んで、その解答らしきものが少しだけひらめいたので、書いておく。
毎日新聞2面コラム[風知草]<アフター5の悩みごと>である。
筆者の山田孝男専門編集委員は、
<麻生の気分をめぐるこれらの逸話が映し出すものは、解散日程をめぐる麻生の逡巡と、資産家首相のアフター5という格好の話題に群がるメディアの天下太平である。>
とやっぱり、こんな質問しかできない政治記者を「天下太平」と軽蔑しているようだ。
そして、政治学者・高坂正尭氏が「宰相 吉田茂」で麻生首相の祖父、吉田茂元首相について述べた言葉をそのまま引用していた。
「要するに、国民は白タビや葉巻や暴言などを通じて、彼が強い信念を持ち、変動する時代のなかで筋を通してきた人物であることを感じとり、そうした人物を必要としていると判断したのであった」
である。山田氏のコラムの結語は、
<麻生は民心をつかめるか。信念を明らかにする刻限が近づいている。>
だったが、それはさておき、当時は吉田茂のワンマンぶりに対し、まだまだ高給取りであり、地位もプライドも高かった新聞社の政治記者がいつも噛み付いていた時代だった。いわゆる「大記者」が跋扈していた時代である。反吉田で党人派といわれた河野一郎氏らの大幹部政治家と談合し、吉田引き摺り下ろしを画策した記者もいた、と聞く。
その当時の雰囲気を知って、高坂氏の文章を読むと、味わいが増すだろう。
あれだけ嫌われながら、長期政権を保てたのは、「永田町の論理」ではあったものの、その裏には庶民たちの「嫌いだけども、子供たちの将来の生活のために、今は我慢しよう。吉田はけしからんが、東条よりかははるかにましだ」という諦念と期待感がないまぜとなった複雑な心理があったのだと思う。その点をリアリストである高坂氏が見事に見抜いて、ズバリと書いた点が、時代の波に流されない秀逸さだったのである。
翻って、今の政治はどうなのだろうか。
日本が今にも沈没するかのような経済週刊誌の広告が電車の中吊りや新聞広告で目に飛び込んでくる。テレビをつければ、株の値下がりと円高を騒ぎまくるキャスターの声がうるさい。
本当にそうなのか? 少なくとも表面上だけ見ていては、誰も「本当はどうなのか」を考えていないように見える。
円高だ。それも円独歩高である。確かに輸出産業を直撃しているし、その下請け企業も苦しい。政府は対策を取らねばならない。しかし、原油価格は下がっており、円の値打ちが上がったということは、原料価格がなお下がる、ということでもある。円高メリットを最大限生かすためには、東京外為・証券市場の拡充が不可欠でもある。
「内需拡大が必要」「外需依存から内需への転換」と念仏のようにとなえているのに、具体策が出てこない。政府の対策を見れば、公共事業への依存ばかりが目立つ。なぜ、今、有効性が否定された公共事業なのか? それしかないから、仕方ないじゃないか、という回答が聞こえてきそうだが、そんなことはない。
以前も書いたが、医者不足解消へ国費をつぎ込むべきで、少子化逆転へ女性の働きやすい環境を今年から整備すべきなのだ。そのための補正予算だったら、反対する政党が逆に批判されるだろう。即効性がない、という反論が出るかもしれないが、そんなことはない。
と力説しても、そうはならない。
この堂々巡りのイライラ感を解消してくれるのは麻生首相なのか? それとも、自民党政治では無理だから、混乱必至でも解散総選挙に突入して、がんを切除する荒療治が必要なのか?
本当に問われているのはそこの部分なのだと思うのだが、メディア、特に政治部記者にはその理屈が分かっていないのではないか? もともと政治記者は政局には強かったが、経済音痴がそろっているというから、そのような下世話な記事が中心になるのは、ある程度仕方ないのかもしれないが、もう少し中長期的視点でものを見ないと日本はもっともとおダッチロールする。
その意味では日経新聞10月27日朝刊4面[世界この先 500年の歴史に学ぶ]は良かった。
<16世紀~銀を制したスペイン>、<18世紀~「世界の工場」英国が君臨>、<20世紀~「米国の世紀」行く末は?>の項目別に<覇権国家の栄枯盛衰>を綴り、<画期的な発明・発見/社会に大きな変革>の記事では<時代切り開いた技術革新>を特集。それに今注目を集めている<バブル生成と崩壊>も1項目に入れて、長期的なスパンで1ページ特集を作っていた。読ませた。読者の思考を刺激して、新たな方策を考え出す糧にしようという発想が素晴らしかった。
ポール・ケネディではないが、こういう危機の時代こそ、過去に学び、そこから教訓を得て、新たなパラダイムを創出すべきなのだ、と思う。「大国の興亡」だって、アメリカが沈んでいた時に、過去に学ぶために出版したんだったなぁ、と思い出したりした。
麻生氏の毒にも薬にもならないプライベートの行動ぶりに一斉に注目して、紙面に大々的に掲載するよりは、このような前向きな特集をどんどん展開するよう、他紙にも望みたいものだ。
それに、政治家って結果責任が問われるんでしょ?
麻生政権って、できた時にはフラフラの、いわば、点滴を抜いたら死んでしまうような「選挙管理内閣」だったと思うのだけれども、そんな弱体政権にもかかわらず、麻生首相は本気で日本の危機管理をやろうとしているのか、できると信じているのか? それとも一連の言動は総選挙向けのパフォーマンスに過ぎないのか? その見極めこそ大事なのではないか。
政治記者はそこに思い切り踏み込んで、麻生氏の本心と実現可能性を徹底的に抉り出してほしい。それが政治報道だと思うのだが。
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