朝日、毎日、日経3紙社説が追加経済対策に注文~真の景気対策は早期解散・総選挙なのに…
10月10日各紙朝刊は不動産投資信託(Jリート)のニューシティ・レジデンス投資法人の民事再生法適用申請、G7を控えた米国のもたつきぶりなど、暗いニュースが目白押し。黒田東彦アジア開発銀行総裁の「アジアの金融機関はサブプライムローンをほとんど所有していないので、1997年のアジア通貨危機のような大混乱には陥らない」と語った都内での講演などは小さな扱いで、見落としてしまいそうだ。
ただ、そんな中で朝日、毎日、日経が社説でさすが大新聞と褒めてもいいような論を展開していたのでメモしておく。いずれも麻生太郎首相の指示で自民党が検討を始めた第二次補正予算への注文。「選挙目当てのバラマキ型は百害あって一利なし」というような内容である。
毎日新聞社説<追加経済対策/国民の先行き不安取り除け>は「景気の悪化を回避、あるいは緩和するため何らかの対策が必要なことは間違いない」としながら「押さえておかなければならないことは、経済の先行き不安を除去することだ。緊急対策がいう『安心実現』である。具体的には、年金や医療など社会保障制度の再構築、非正規労働の正規化や新規雇用の創出、賃金引上げなどである」とする。
そして、「自民党内で議論されている追加対策の柱は、企業向けの投資減税、株式市場対策としての証券優遇税制拡充、高速道路通行料の1年間大幅引き下げ」として、各項目を検討。「これで日本経済は改善するのか。現状ではその効果は限定的と言わざるを得ない」と断定する。
駄目な理由として、
①企業へのてこ入れで景気を良くするという、供給側に立った政策。企業の設備投資支援は最小限必要だが、需要が盛り上がらない中では供給過剰が拡大する
②需要拡大には短期的には安定雇用の確保・拡大や所得増が効果的で、根本的には先行き不安の払拭が必要であり、1年限りの定額減税より基礎年金の国庫負担引き上げを財源も挙げて確約することが有効
③雇用支援は緊急対策でも重要項目なのに具体性に欠けており、効果的施策を盛り込むことができるかどうかが焦点
④株価対策としての証券優遇税制拡充は筋違いで、税制に歪みをもたらす。株価が上がる保証などなく、結局は金持ち優遇になるだけだ
⑤高速道路通行料金の大幅引き下げは選挙対策色が強く、大衆迎合
――の各点を挙げていた。
毎日新聞2面<追加経済対策/財源論置き去り/総選挙にらみ/首相「地方に配慮を」>では自民党の保利耕輔政調会長が9日の麻生首相との会談後、追加対策の歳出規模を「08年度補正予算案(1兆8000億円)を大きく上回る」と語った、とあった。
財源としては国債償還に回す予定の国の財政投融資特別会計の余剰金約3兆円を定額減税と高速道路料金の大幅値下げに振り向ける案が浮上しているそうだが、それだけでは不足するうえに、年末には09年度からの基礎年金の国庫負担の3分の1から2分の1への引き上げ分の2兆3000億円の財源手当ても必要になり、また、景気悪化で08年度税収の大幅落ち込みが予想されるため、相当規模の赤字国債が避けられなくなるのではないか、と書いてあった。
1997、98年の橋本龍太郎政権の苦い経験は「悪夢」「トラウマ」として与党幹部の頭にこびりついているだろう。大型景気対策になるのは間違いない。
そんな現状を批判した毎日社説だった。
しかし、雇用にしても医療、年金の拡充にしても効果が出るのは相当先の話だろう。麻生首相の言うような「壊滅状態の地方経済をどうしてくれる」という緊急対策を求める声をどう説得できるか、が難しいところだろう、と思う。
もう少し深く考えると、毎日社説が主張するような正統的で構造改革的な手法は強い政権でしか実行できないのではないか、と思う。
つまり、追加経済対策を行うにしても今の自公の漂流連立政権では無理だと思う。
結局は、「政治は何もできない」という政治不信を払拭し、日本に新しい権力構造を現出させるためにも、早期解散、総選挙が唯一の景気対策という気がしてならない。
社説紹介に戻ろう。
朝日新聞社説<追加経済対策/「安全網」の再構築こそ>も基本的に毎日新聞社説と同じトーンだった。
「麻生政権の考え方は、まず減税や公共事業など財政出動による旧来型の景気対策ありきと見受けられる」と批判。
「公共事業や減税を大盤振る舞いした小渕内閣の路線へ、まるで逆戻りしたようだ。『困った時の常備薬』。そんな皮肉を言いたくもなる。バブル不況から脱出するために景気対策を連発した結果、国だけで550兆円もの国債残高が積み上がり、財政が身動きできなくなってしまった」とあの忌まわしい時代を思い起こさせる。
550兆円である。その結果、ケインズ的手法が通じなかった、という苦い経験則を残しただけとなった。
そして社説は「財政に余裕があるならまだ分かるが、使える財源はごく限られている。今回の不況はまだ始まったばかりで、先が長く底も深そうだ。なけなしの財源は、いちばん効果的なときに有効な方法で使わねば意味がない」と安易な財政出動という誘惑を一刀両断、斬り捨てている。
「いま取り組むべきなのは、少子高齢化が本格化していくのに備えて、社会保障を組み替え、維持していくことではないか。『安全網』の再構築なしに国民の安心は得られない」という部分は毎日社説と同じ。
「遠回りのように見えるが、それが結局は内需を充実させることにつながるに違いない」というのは、先ほどの「迂遠過ぎるではないか」という批判への回答にもなっている。
朝日社説は民主党の前原誠司前代表が代表質問で主張した道路財源を社会保障に大胆に注ぎ込め、という論に賛成する。
そのうえで、「金融危機のあおりで資金繰りが厳しくなってきた中小企業へ、信用保証で資金を回す。雇用確保や内需型への転換に努力する企業に対し、応援する政策も有効かもしれない」と具体策を提案していた。
言いたいことは「薄く広く予算や減税をばらまくのではなく、効果があがりそうな分野へきめ細かく対策を打つ。そうした対策づくりを求めたい」という結論部分なのだろう。
敗戦直後に片山連立内閣で経済安定本部が日本中の知性を集めて発足し、知恵を絞って、傾斜生産方式導入を決めた。庶民生活の困窮対策を一時的に置き去りにした製作だった。しかし、この将来を見据えた政策立案と実行が朝鮮戦争という「天佑」に恵まれたこともあって戦後復興を生んだ。
いまこそ、その経験を生かす時だろう。日本中の知性が集結し、立場の違いを乗り越えて、日本の未来を見据えた骨太の政策を作るべき時だ、と思う。
日経新聞社説<経済急変に政府・日銀は実効ある対策を>もトーンは同じだった。
日経は金融政策にも言及し「日本の政策金利は年0.5%と非常に低いので金利を下げなかったのは理解できる。しかし金融・経済情勢が著しく悪化していくような場合には、一層の金融緩和策をためらうべきではない」と注文した。
そのうえで、日経社説は「情勢をよく見て効果のある政策を選ぶべきだ。バブル崩壊後、公共事業中心に事業規模で合計約140兆円の経済対策を実施したが、あまり効果はなく、結局、金融機関への資本注入による不良債権処理が決め手となった」と昔を振り返る。
追加対策として浮上している定額減税の具体化、設備投資減税、中小企業の資金繰り支援、新たな証券優遇税制については「ここで大切なのは一時的な需要の喚起・負担軽減に役立つだけでなく、中長期的な経済体質の改善や生産性向上につながる対策をとることだ」と、目先の対策を拒否。
「たとえば農業や漁業の効率化に資するような形での補助金とか、地球温暖化対策に役立つ省エネ機器、太陽電池関連機器への補助、優良な中小企業への手厚い資金繰り支援などはやり方しだいでは意味があろう」と主張した。
さすが日経新聞、産業の内容に関しては具体的できめ細かい。
そのうえで、「半面、一時的な効果に限られる定額減税の規模は慎重に考えるべきだ。経済と財政の実情を考えるなら、効果の薄い政策に多額の資金を注ぎ込むのは裂けるべきである」と釘を刺していた。
追加経済対策については新聞各紙は案外冷静だった。前のめりになっていなかったので安心した。
熱狂が支配すると政府は判断を間違えるし、大衆民主主義的な「パンとサーカス」政策は結果として、ろくなものはない。
今回の社説に直接関係はないが、コメの流通について触れておく。
有毒物質が入った輸入米が日本国中に出回った事件は、早くも忘れ去られようとしているが、あの事件で一番驚いたのはコメの流通経路の複雑さだった。
農水省の官僚は消費者に顔を向けずに、このような儲かりそうもない流通業者たちを温存しているのだ。
村山・橋本政権で揺れた住専への公的資金投入問題では自民党が農家ではなく農協の幹部の顔色ばかりうかがっていることが明るみに出ていた。大きな社会的事象が起きるたびに、日本社会の隠された矛盾が明らかになるのだが、今回の有毒米事件が問いかけた課題を軽視してはならない。
必要なことははっきりしている。
この不必要な流通システムを簡略化し、構造改革することだ。
そうすれば、農水省の役人も半分は不要になり、消費者行政の対応に異動させることができるだろう。
時代の要請に応えられない霞が関システムを変えることができない自民党・公明党連立政権を早く終わらせ、政権交代させることが必要だ、という思いは有毒米事件で強まった。
世界金融危機はグローバルな課題であり、日本も影響を蒙ることは間違いない。今後も苦しい状況が何度も出てくるだろう。しかし、これは不良債権処理を終えている日本にとって最大のチャンスであることも間違いない。
こうした客観的状況を忘れずに、政治家は危機に前向きに対処してほしい。
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