朝鮮有事の日米作戦抜本見直し+韓国独自の新計画~読売新聞11月11日朝刊、朝日新聞10月30日、6月4日朝刊などから
朝鮮半島をめぐる動きがあわただしくなってきたのか、それとも、そう感じた新聞記者が取材を重ねて今頃多くの記事が出てきているだけなのか、内実は分からないが、最近、新聞に朝鮮半島有事に関する記事が目立つようになった。
読売新聞11月11日朝刊1面<朝鮮有事/日米作戦抜本見直し/空港選定など十数項目>は日米安保関連の動きを報じていた。
記事の前文は、
<朝鮮半島有事など周辺事態や日本有事に備えた自衛隊と米軍による「共同作戦計画」に関し、日米両政府が抜本的な見直し作業に着手したことが分かった。複数の関係者が10日、明らかにした。有事に米軍が使用する民間空港の選定や、負傷兵の搬送・受け入れ態勢整備など十数項目が検討課題として挙がっている。両政府は北朝鮮の金正日総書記の健康悪化説を受け、朝鮮半島情勢を巡る不安定要因が増したと見て、見直し作業を加速させ、来年秋までの完了を目指す方針だ。>
というもの。計画の抜本見直しは2006~07年に続き2度目だが、両政府は計画そのものの存在を公表していない、という。
◆朝日新聞が6月に報じていた日米密約の存在
これは朝日新聞6月4日朝刊1面<朝鮮有事の密約文発見/米軍活動に事前協議不要>が特報したように、現実対応の中に日本国憲法や各種法律とそぐわない措置が入っているため、すべてに秘密のベールを被せたものとみられる。
この朝日新聞記事は朝鮮半島有事の際に米国が在日米軍基地を日本側と事前協議せずに使用できることを記した日米間の密約「朝鮮有事議事録」の公文書を名古屋大学大学院の春名幹男教授(国債報道論)が今年2月に米ミシガン大学フォード大統領図書館で入手した、というもので、関連する米公文書から密約の存在は確実視されていたが、全文が明らかになったのは初めてだが、「日本政府は密約の存在を一貫して否定している」としている。
これは藤山愛一郎外相(当時)とマッカーサー駐日米大使(同)との間で署名された1960年6月23日付の議事録で、ニクソン政権末期の1974年、朝鮮有事の際の在日米軍基地使用に関する米政権内の議論を記したメモランダム(覚書)に添付する形で保存。フォード政権への引き継ぎ資料と見られ、秘密扱いだったが、2005年3月に機密指定を解除された、という。
この内容は1960年6月23日に開かれた日米安保協議委員会準備会合で両氏が述べた声明を2ページにわたって記録したもので、この中で藤山外相(当時)は「在韓国連軍部隊に対する攻撃によって生じる緊急事態における例外措置」について「岸(注:信介)首相(当時)から権限を与えられた」としたうえで「直ちに着手することが必要とされるような軍事作戦のため、日本における施設及び地域(注:いわゆる米軍基地)を使用してもよい」との「日本政府の見解」を述べ、両氏が署名した形になっている、という。
また、1974年のメモランダムは、この議事録の内容を「朝鮮有事の際、日本政府との事前協議なしに在日米軍が軍事作戦に着手することを容認するもの」と説明した上で議事録全文を添付。同議事録の延長を日本側から取り付けるべきか、検討している、という。
朝日新聞の記事にあるが、この日は新安保条約の批准書交換の日で、この批准書交換を見届けて岸首相は辞意を表明する。春名教授の「岸首相の辞意表明直前に、まさに駆け込みで密約を結んだのだろう」と推測している。密約全文は6月発売の月刊「文藝春秋」に掲載される、とあるので、この文藝春秋を見れば、詳しいことが分かるはずだ。
朝日新聞記事は<朝鮮有事密約については、米国立公文書館の国務省ファイルの中で「非公開合意の要約」として言及されていることが00年に判明したが、当時の森首相は「日米安保に密約は一切ない」と存在を否定した。>とあった。
また、我部政明琉球大教授(国際政治学)の「周辺事態法ができ、実態としても法的にも密約の必要がなくなり、機密解除したのだろう。当時の日米のやり取りから、米側にとって在日米軍基地の最大の目的が朝鮮半島有事と直結していたことが分かる」というコメントも掲載されていた。
日米両政府は1960年1月、日米安保条約改定の際の交換公文で、在日米軍の配置や装備の重要な変更や、日本からの戦闘作戦行動の基地としての施設・区域(注:在日米軍基地のこと)の使用は、日米で事前協議を行うことを申し合わせたが、事前協議は今まで一度も行われたことがない。
朝日新聞朝刊4面解説で、石合力記者が
<密約の扱いについて米政府は、議事録に言及した74年のメモランダム(覚書)で、日本側にこの問題を直接提起せず、明確な延長を求めない方針を決定。この時点で密約の存在が日米間であいまいだったことを示している。このため、現在でも日米が密約を堅持しているとは考えにくい。96年の日米安保共同宣言以来、日米は周辺事態への対応策を検討。06年12月には朝鮮半島有事での日米共同作戦計画「5055」の策定作業も始めており、「実態が密約以上に先行している」(春名教授)状況にある。>
と書いている。日米共同作戦計画「5055」は2006年から策定作業が開始されたようだ。
そして、11月11日の読売新聞朝刊にあるように、2006年~2007年に計画見直し(ローリング)が行われ、今回は2回目のローリングだ、という。1回目のローリングと作戦計画立案は同じことを言っているのではないか、と思う。というのは、例の「ソウル火の海」発言のあった朝鮮半島危機の1994年、日米は共同作戦計画を策定しているはずだから、その改訂作業という形式を取ったのではないか、と思うのだ。
読売新聞が報道したローリング内容を見ておこう。読売新聞は今回の検討内容として10項目を例示していた。
①緊急事態で米軍が使用する民間空港・港湾の選定
②飛行制限などを含めた空域管理
③負傷米兵の搬送や受け入れなどの医療支援態勢
④米国が捕虜とみなす人物の日本政府としての取り扱い
⑤米軍や自衛隊による電波の優先利用に関する調整
⑥化学・生物・放射線物質・核兵器(CBRN)攻撃への対処
⑦日米間の情報共有の強化
⑧米軍防護優先施設の精査
⑨相互後方補給支援の検討
⑩戦没者と行方不明者の取り扱い
そして、読売新聞記事は、
<民間空港・港湾の選定では、米軍が周辺事態のレベルに応じて計30カ所前後の施設の使用を提案、昨年春から調査が続いているが、日本側は金総書記の健康不安説などを受け、関係機関との調整を急ぐ。医療支援、電波利用、CBRN攻撃への対処などで関係省庁の役割分担などを明確にする。>
と結んでいた。
このように、まだパラパラではあるが、有力紙上に軍事共同作戦についての記事が掲載されるようになって、「金正日総書記健康悪化の影響」といわれているものの具体的な姿が見えてくるようになった。
黒井文太郎氏が「週刊現代」に米韓合同軍事計画について書いていた時には、当然、この話も知っていたのだろうと思うが、そこで黒井氏が日本政府の対応を批判、日本は有事への備えが全くできていない、と書いていたのは、具体的には上にあるような項目で、有事の際に地方自治体や民間事業者との調整に時間がかかり、緊急対応ができない仕組みになっていることを憂えているように思う。
◆韓国独自の「忠武計画」
朝日新聞10月30日朝刊は<北朝鮮混乱に対応策/韓国、新計画策定へ>で韓国の李明博政権が「戦争状態には至らないものの、北朝鮮の国内が混乱する非常事態」に備えた独自の対応策の検討に入ったとして、北朝鮮からの難民収容、北朝鮮在留の韓国人を狙った人質事件への対処方法などの検討に着手したことを報じた。ソウル支局の牧野愛博記者の記事である。
1968年に発生した北朝鮮による韓国大統領府(青瓦台)襲撃未遂事件を契機に当時の朴正煕政権が策定に着手したのが忠武計画だ。豊臣秀吉による朝鮮侵略軍を破った忠武公、李舜臣(イ・スンシン)将軍の名前にちなんだ命名で、戦争で寸断された道路や電気、水道などライフラインの回復など韓国政府が戦時に取るべき行政措置を網羅し、マニュアル化したものだ。国民動員令など有事立法に基づいて運用されるが、平時での適用は想定していない、と記事にあった。
つまり、あくまで「戦時」対応だったので、戦争一歩手前の事態にどう対処するか、が金正日総書記の健康悪化説で浮上。2月に発足した李明博政権は盧武鉉前政権のような北朝鮮との融和一辺倒ではないので、政府内の声が高まって検討に着手した、という。
北朝鮮難民への対応では、収容所や食糧、韓国ですでに撲滅した伝染病のワクチン確保などが内容。また、北朝鮮の開城工業団地や金剛山、開城の観光事業に関わる韓国人が帰国できず人質になったり、付属施設が略奪に遭うケースも想定し、対応策を練る。
対応策には軍事的措置は含まれず、軍事的な措置は1999年に基本的な想定と戦略方針を定めた概念計画「5029」を「実戦」に耐えうる作戦計画に格上げすることで、対応する、と書いてある。記事によると、
<5029が想定する①大量破壊兵器の管理不能②大量難民の発生③飢饉など人道問題の発生④北朝鮮内での人質事件の発生⑤内戦の発生――の5ケースも見直す>
という。
ただ、様々な問題を抱えているのが韓国の実情だ、と牧野記者は解説記事で書いている。<米との調整が課題>と題した解説記事を見てみよう。
まず、忠武計画など対応策作りは概念計画5029の見直しが前提になるうえ、大量破壊兵器(WMD)の拡散阻止に強い意欲を示す米国との間で、政策の優先順位をめぐる調整が残る、という。韓国政府元高官の「韓国で実戦に耐えうるのは北朝鮮との戦争に備えた『5027』と忠武計画しかない」と言う。作戦計画は概念計画を具体化し、兵員移動や武器供給、戦傷者の治療など細部に至る行動を定めたもの。忠武計画は5027と連動した戦時の韓国の国民生活を守る非軍事計画で、年次演習を通じて内容を点検、更新してきたという。
一方、5029は北朝鮮の不安定な状況を憂慮した米国が提案。1997年の米韓定例安保協議(SCM)で策定に合意し、99年に概念計画が完成した。米ブッシュ政権が2004年、5029を実戦に即した作戦計画に格上げするよう求めたが、当時の盧武鉉政権が北朝鮮を刺激することを恐れて拒否、宙に浮いていた、という。
李政権は米韓年次軍事委員会(MCM)などで5029の見直しを進めるが、想定する5ケースは約10年前のものだ。
1999年に392人だった南北往来数は2007年には1万2700人に拡大。南北非武装地帯を抜ける道路2本も開通した。忠武計画は韓国に逃れる北朝鮮難民を20万人と想定するが、大きく変動する可能性かある、としている。
韓国統一省によると、開城工業団地事業などで北朝鮮域内に常駐する韓国人は10月29日現在で1636人にのぼるうえ、一時滞在者や観光客もいる。5029も韓国人人質事件を想定しているが、練り直しを迫られるのは確実だ、という。
一方、5029は混乱を北朝鮮内にとどめることを主な目的として作成された。戦争状態でなければ、相手国への軍事力行使は国際的な非難を浴びる可能性があるからだが、米国は現在、WMDの拡散防止を優先する政策を取っている。テロ集団などがWMDを奪った場合、軍事力行使も辞さない、と表明している。難民を追う朝鮮人民軍が軍事境界線を越え、朝鮮休戦協定に違反する事態が生じることへの懸念も示しているという、と記事は米国の「前のめり」っぽい対応を書く。
だが、韓国政府はまず北朝鮮政府にWMD拡散阻止を求めるなど、可能な限り軍事力の行使を控えたい考えが強い。北朝鮮と国境を接する中ロとの調整もこれからで、日本を含め他国の介入次第では5029は姿を変える可能性がある、という。また、忠武計画と異なり、非常事態は主に北朝鮮内で進行するので、混乱が少ない半面、状況の把握が難しいという課題も抱えている、とあった。
黒井文太郎氏の例の本にあったように、軍事境界線にずらりと並ぶ多弾装ランチャー砲に怯える韓国、原爆がテロ勢力に渡り、NYやワシントンDCでの原爆爆発という悪夢に怯える米国とでは、国益が違うから、今後、大きな調整が必要だろう。
そして、日本の最大の国益は北朝鮮が弾道弾ミサイルに原爆を搭載しないことだ。
北朝鮮がその能力を開発したら最後、キューバ核危機下のケネディ政権と同じ状況が日本で持ち上がる。
当時のアメリカはソ連に核戦争の脅しをかけてキューバから核兵器を撤去させることができたが、それはアメリカがソ連以上に強力で多くの核兵器を保持していたからだ。
今の日本はアメリカの核の傘に守られているのだが、アメリカの最優先事項はテロリストがアメリカに小型核爆弾を持ち込み、爆発させないことだ。北朝鮮が原爆を何発か持っている現状は許容している。また、韓国にとっては「同胞の住む韓国に原爆を落とすことはない」と本音では安心しており、ソウルを狙う多弾装砲だけを恐れており、北朝鮮のノドンへの核搭載は日本の安全保障問題で韓国の問題ではない、と思っている節がある。
つまり、日米韓協調と一口で言うが、3国の国益は全く違っているのだ。この3者が今展開しようとしている「ゲーム」で麻生政権が有利なポジションを確保することこそ、真の国益ではないか、と思うのだが…。
| 固定リンク
« 米韓連合軍の軍事作戦計画(オプラン)~黒井文太郎氏の「週刊現代2008年10月25日号」記事から | トップページ | 韓国大統領「金融危機」を説明+内海氏のインタ+中国暴動~毎日新聞、日経新聞、産経新聞11月11日朝刊から »
「朝鮮半島・中国」カテゴリの記事
- 朝鮮日報は朝日新聞とFT紙の金正雲訪中説を誤報としながら中国政府の秘密主義を批判していた~7月12日朝鮮日報(2009.07.12)
- 武村正義氏の中国での大活躍(?)~北京週報6月12日(2009.06.12)
- 北朝鮮軍30万人が脱北者を監視・狙撃。中国に脱北者強制送還をやめさせろ、と姜哲煥記者~朝鮮日報7月11日、産経新聞7月12日(2009.07.11)
- 北朝鮮は1月からサイバーテロを準備した、と~朝鮮日報7月11日(2009.07.11)
- 中国人の日中ウインウイン関係論、大賛成だ~人民日報7月10日(2009.07.10)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 塩川正十郎氏の政界再編論は興味深い~読売新聞09年7月14日朝刊(2009.07.14)
- さすが公明党は取りこぼしなしVS共産党は投票率アップの直撃受ける~7月13日産経新聞、朝日新聞、毎日新聞ウェブ版(2009.07.13)
- 臓器移植法改正A案が成立=解散前の異常な議員心理が原因だと~朝日新聞、読売新聞、毎日新聞ウェブ版から(2009.07.13)
- 7月21日の週に衆院解散→8月18日公示→8月30日総選挙投票だそうだ~産経新聞7月13日ウェブ版(2009.07.13)
- 麻生案「7月14日解散→8月8日投票」VS中川秀直・公明党「会期末解散→8月30日か9月6日投票」熾烈なバトル~読売新聞、日経新聞7月13日朝刊(2009.07.13)


コメント