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2008年11月17日 (月)

クルーグマンの巨額財政出動って土建屋政治礼賛?+サミュエルソン氏インタビュー+白石隆氏寄稿~朝日新聞11月17日朝刊と読売新聞11月15日、17日朝刊

 朝日新聞11月17日朝刊3面[あしたを考える]はポール・クルーグマン米プリンストン大学教授が14日、ニューヨークで記者会見した内容を小此木潔、都留悦史両朝日新聞編集委員がまとめて書いたものだ。見出しは<大不況克服へ巨額財政出動せよ/債務増を心配する時でない>である。一読、訳が分からなくなった。これじゃあ、昔の自民党がお得意だった道路、橋、ダム、大型建築物などの大型公共事業による景気刺激策そのものじゃないか。構造転換には時間がかかり、即効性がないから、当面はこれで凌がないと、来年末には大変なことになるぞ、という脅しとも取れる。本当かいな? と疑いたくなる。

 クルーグマン氏は今年のノーベル経済学賞受賞者で、ニューヨーク・タイムズ紙などをベースにブッシュ政権の経済政策に物申してきたことはある程度知っているつもりだったが、ここまで野放図な政策をやる必要があるのか? こういう政策の後遺症の恐ろしさを知っているのか? 日本で最近、構造汚職の摘発が相次いだのは実はクリントン政権時代に「日本は内需拡大をしろ」と目標額を決めて公共事業増額を押し付けられ、本来はやめるべき公共事業まで続けざるを得なくなり、そこに官僚と業者、そして利権に群がる政治家が寄生して政官業の汚職トライアングルができて、この闇の権力が国家財政を蝕んだなれの果てなのだ。

 いま、クルーグマン氏の言うようにアメリカで60兆円規模の経済刺激を財政主導でやるとなれば、90年代から2000年代前半の日本の二の舞いになりかねないのではないか? それとも、政治システムが違うから、アメリカでは政官業の癒着は生じないのだろうか? 一時の平安を得るためにたがを外すことの怖さを日本人はアメリカの政権に教えられたのだ。今、日本の識者はアメリカの政権に「そんなことをしては駄目だ」と教えてあげるべきではないか、と思う。

 クルーグマン氏の立論は非常に論理的に見える。

 米国の失業率が来年末までに8%か9%まで悪化する。完全雇用状態を示す失業率(自分に合う仕事を見つけようとするための失業などを除いた失業率)は5%程度と見るのが妥当だ、という数字はノーベル賞受賞経済学者なのだから信用していいだろう。

 そして、失業率の変化とGDPの関係を示す「オークンの法則」が出てくる。完全雇用の下で経済の能力を過不足なく発揮して得られるGDPという実際にはありえない理想型と、実際のGDPの差をGDPギャップというのだそうだが、「オークンの法則」は「失業率が1%幅大きくなるごとにGDPギャップが2%幅拡大する」というものだ、と注釈に書いてある。

 この「オークンの法則」を使って大雑把に計算すると、アメリカはGDPの7%分も生産額が足りないという状況に直面しつつあり、このギャップを埋めるためには巨額の財政支出による景気刺激が必要。財政支出増が波及効果を含めGDP増にどれだけ寄与するか、を示す「乗数効果」を計算に入れると、GDPの4%である約6000億㌦(約6兆円)の支出でもやや足りない、というご託宣だ。

 政策金利の誘導目標になっているフェデラルファンド金利は0.29%まで下がる例も出てきており、すでに日本でとられた「ゼロ金利」政策が事実上実施されているようなものだ、と言う。つまり、金利政策が発動できない片手を縛られている状態なのだから、財政政策しか取れない。計算したら6兆円だから、6兆円出せ、とこういう単純な物言いなのである。

 じゃあ、どこにカネを出すのか? というと、医療保険を全国民に広げる法案とか、再生可能エネルギーへの転換などは時間がかかり即効性がないから、駄目だという。じゃあ何か? と言えばハドソン川をくぐる2番目の鉄道トンネルなど計画中の公共工事の前倒しとかの公共事業、地方への補助金アップ、失業手当増額、失業者への医療保険提供などをあげている。社会福祉的政策は「なるほど」と思うものもあるが、どうも柱は公共工事と見える提言である。

 日本ならば自民党議員や国土交通省の官僚たちが総立ちで拍手、狂喜乱舞するかもしれない「神のご託宣」である。

 クルーグマン氏はこれらの提言を自分でもおかしい、と思っているらしく、今、世界は「不思議の国のアリス」の不思議の国の状態にあり、貯蓄を高めること、健全な財政が悪で完全に無駄な政府支出が善といういつもの世界とは逆転した世界にあるのだ、と言う。つまり、無駄な公共事業の悪を知っていて提言しているのだから始末に悪い。

 クルーグマン氏は「こういう『奇妙な経済学』を永遠には続けたくないが、今我々はここにいる。完全雇用に戻り、フェデラルファンド金利が5%になれば、元の世界に帰れるが今は違う」と、あくまで例外としての劇薬を飲むように注文している。

 世界不況を克服するためには本来はG20のような国際協調の枠組みで各国、GDPの3%程度の財政支出を義務付けたいが、そうはできないから、アメリカ、日本などはやるべきことを苦しくてもやるべきだ、日本は景気刺激策をどんどんやれ、ゼロ金利に戻せ、と繰り返す。

 たしかに今の日本はまだデフレが続いている。それはこの前、書評を書いた「虚構のインフレ」の著者も主張している通りだ。しかし、少なくとも日本では「何でもあり」のバラマキ政策はできない。それは「失われた15年」の貴重な教訓である。

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 クルーグマン氏にしても、放漫財政をアメリカ政府に望みながら、ビッグ3支援については及び腰のことしか言っていない。

 本来はビッグ3の経済波及効果の大きさを考えれば、ビッグ3に公金を支出せよと言うべきだ、と思うのだが、米国民の反発が大きいのでそれは言えないのだ。

 だから、天下のクルーグマン氏もアメリカのお得意の「二重基準」ではないか、という批判だって受けかねないと思う。

 ビッグ3の工場を半分操業停止にした時の失業者数予測がすでに論議されており、その数字の衝撃度を考えれば、AIG救済とは違ったレベルでビッグ3を救済すべきだ、と私は思うのだが。

 クルーグマン氏は強調しているが、だれも今は財政赤字の増大など気にしていない、と思う。ただ、放漫財政の行く末を心配しているのだ。

 クルーグマン氏は微妙に論点をずらしながら、放漫財政を勧めている。苦しい離れ技である。狂信的クルーグマン信者は別として、この提言では、世界の目が曇っていない人々に訴える力は小さいのではないか、と思う。

◆サミュエルソン・インタビュー~読売新聞11月15日付

 読売新聞11月15日朝刊にポール・サミュエルソン・マサチューセッツ工科大学名誉教授(93)のインタビュー記事が載っていた。まだまだ頭がクリアなのに驚くが、ここでサミュエルソン氏も、

 <政府はウォール街と同様に失業者を支援すべきだ。フランクリン・ルーズベルト大統領は1933年、大不況から多くの失業者が出る事態に直面した。大規模な公共事業を起こして景気浮揚を目指すニューディール政策で失業者に仕事を与えた。効果があったのは財政出動を伴う政策で、それが資本主義を救った。こうした措置は、今回の打開策としても有効だ。紙幣をどんどん印刷してヘリコプターからまくような大規模な財政出動で、金を街の貧しい人や田舎の人に行き届かせることが必要だ。>

 とケインズの有効需要創出政策を強く勧めている。言っていることはクルーグマン氏と同じように見える。

 そうなのか?

 日本と違う事情があるのは分かる。つまり、アメリカでは軍需産業は軍産複合体で国家予算と密着しながら会社を大きくしてきたし、その生存を国家予算に頼っているが、日本のような道路族議員と官僚、業者との癒着はない。だから、今大規模な国家予算を公共事業に注ぎ込んでも癒着によるマイナスは限られている、とも見ることができるからだ。

 アメリカではそうなのかもしれない。そうなると、クルーグマン教授の提案を無碍に否定できなくなるが、どうも日本に住んでいると、官僚不信ばかりが湧き上がってきて、判断が歪むのかもしれない。

 それに、政官業の癒着でも、経済理論的には総需要の喚起にはつながることは間違いないのだから、大の虫を生かすのに、小の虫を殺すのは仕方ないのかもしれない、とサミュエルソン氏の発言を読みながら、段々と考えるようになってきた。

 だが、アメリカがまた調子に乗って日本にも公共事業の増額を、などと言ってきたら、先ほどから書いている論理で拒否すべきだ、とは思うのだが。

 といっても、財政出動するな、と言っているのではない。産業構造転換に結びつくような財政出動をどんどんしろ、と言っているのだ。分かりにくいかもしれないが。

◆白石隆・政策研究大学院大学副学長の論文~読売新聞11月17日付

 読売新聞11月17日朝刊1,2面[地球を読む]で政策研究大学院大学の白石隆副学長が<アジアと金融危機/改革による成長目指せ/ばらまき政策どう抑制>で書いていたことがヒントになるかもしれない。つまり、

 <危機の時には、すぐ票になりそうな、政治的に易しい「ばらまき」型景気対策への誘惑が大きい。それをどう抑え、マクロ経済の安定、改革による成長を実現するか。

 という問題意識である。白石氏が言うように対策は国によって違う。白石氏は97年~98年のアジア通貨危機で大きな危機を体験したタイとインドネシアの政府がバラマキ政策の誘惑に負けた事例をあげ、日本については次のように書いている。

 <わが国では10月17日の経済財政諮問会議において民間議員が「単なる短期的な総需要対策」、つまりばらまきを否定し、「中長期的な財政再建」と「改革による経済成長」の必要性を指摘した。しかし、それでも、政府は「家計への緊急支援」として2兆円の給付金支給を決め、一方、税制改革は3年の先送りとなった。>

 <こういうことはどこでもおこる。また今のような危機の時には危機対応の名においてばらまきの誘惑はますます大きくなる。それをどれほどうまく抑えることができるか、それによって国の将来は大きく違ってくる。>

 ということだ、と私も思う。

 整備新幹線建設とか、ダムとか、死んだ子が生き返る恐れもある状況である。普段は国の政官業癒着に適切な批判をしている地方自治体も自分のこととなると利権丸出しで金をほしがるのが日本の地方自治だ。

 農業の生産性をどう上げ、食糧自給率をアップするのか、石油頼みのエネルギー政策からの転換にどう踏み切れるのか、ポスト京都議定書に向けてどんな政策が取れるのか、など中長期的に転換しなければならない課題は目白押しだ。

 こんな時に道路、ダム、新幹線に金を注ぎ込んでほしくない、というのが私の言いたいことだ。

 確かに国によって事情は違う。

 だから、アメリカ経済については、クルーグマン氏やサミュエルソン氏の危機感あふれる提言を素直に聞くとしても、本来、アメリカ経済を抜本的に立て直す最良の道はイラクとアフガニスタンから撤兵することだ、と思う。できない相談だろうか。

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