「悩む韓国、動く北朝鮮」なのか?+中朝貿易中断~朝日新聞、東京新聞11月21日、読売新聞19日各朝刊から
朝日新聞11月21日朝刊国際面は北朝鮮がオバマ米新政権をにらんで対米働きかけを強める一方、韓国に嫌がらせを続けている現状をソウルからリポートした箱田哲也特派員のまとめ記事だった。<悩む韓国 動く北朝鮮/オバマ新政権にらみ/南北交流中断を懸念/米との蜜月に期待?>の見出しで分かるように、北朝鮮の嫌がらせを受けている韓国・李明博政権内部の揺るぎや野党の言い分、「開城工業団地がストップしたら大変」と騒ぐ財閥などの動きを総合的に書いているように見えるのだが、スタンスが金大中、盧武鉉政権支持者寄りで書かれているようにも見える。
というのは、取り上げたテーマについて対立する両者の言い分を並列する形式は一見客観的に見えるが、大前提であるテーマ選び、つまり小さな意味でのアジェンダセッティングの段階で、この座標軸はどうにでも動かせるものだからだ。筆者の思想性が出ている記事と思いながら読む方がいいだろう。
記事は前文で、
<米朝関係は好転するとの見方が強まるなか、李大統領は打つ手を見いだせず、政権内部でも軟化を促す声がちらつく。>
と書いているように、困った李明博大統領、オバマ氏当選を好機に生き残り戦術を繰り広げる北朝鮮、という対比で終始している。
李明博氏側近はオバマ政権が硬軟両様で北に当たる、と予測するが、「太陽政策」を実行してきた金大中、盧武鉉政権時代の実力者たちは「オバマ政権が柔軟姿勢を取るだろうから、韓国もバスに乗り遅れずに太陽政策に戻れ」と言っているらしい。
国内にこんな勢力を抱えた李明博政権に同情する。韓国は昔から国論の統一が難しい国で、だからこそ「反日」という誰もが一致するアジェンダが必要だった、と思うのだが、今回は客観的に見て、青瓦台のオバマ政策分析が正しいと思う。
というのは、オバマ氏とクリントン前政権は同じではないからなのだが、この分析は長くなるので、ここでは書かない。
記事は金剛山観光と開城工業団地事業中断のおそれ、という北朝鮮の嫌がらせについて、金剛山観光はいいが、開城工業団地はいったん閉鎖されれば二度と企業が入居しないだろうから困る、という青瓦台幹部の話を入れながら「困った、困った」との声を特集しているようだ。経営者の一人が金夏中統一相に中台関係のように政経分離すべきだ、と申し入れた、として、韓国政府の中からも「一定の譲歩も必要」という声が出始めた、と書いていた。
そりゃあ、政府の中にもいろいろな声があるだろう。
だが、李明博政権は表面上であっても日米韓連携を崩さずに北朝鮮に当たる、と言っている。それが日本の国益にも合致するのではないか?
少なくとも今の日本政府の国益にあたるはずである。
金大中、盧武鉉両政権の無軌道な太陽政策が北朝鮮に原爆開発を許し、日本の安全保障上の脅威になるかもしれない段階にまで進んでいるのだ。
あえて、「太陽政策が正しい」という方向に導こうとする傾向記事はよほど神経を研ぎ澄ましながら読まないと、客観性の衣で誤魔化されてしまう危険性がある。ただ、筆者の考えでは、北朝鮮が原爆を作ったのは米国のブッシュ政権が対話を拒否して、北朝鮮を孤立させたからで、北朝鮮だけのせいではない、と反論するだろうが。
それは兎も角、金正日総書記の健康不安説にもかかわらず、北朝鮮の内部の権力機能に異常は見られない、北朝鮮はうまくやっている、というトーンで終始している記事だった。
まあ、特派員の名前が明示されており、そういう趣旨の記事だとわかった上で読めば何の問題もないが、いかにも韓国政府内の方向性が太陽政策に傾くかもしれない、という方向性は間違いではないか? もしもそうならば、これは大きな問題で、国際面で扱うような問題ではないだろういずれにせよ、期待と現実を混同してはならない。
少し古いが、読売新聞11月19日朝刊解説面[南北軍事境界線 遮断]は宇恵一郎編集委員が<融和策の復活狙い北が韓国揺さぶり/対米外交主導権争いの様相も>の見出しで、
<①北は、米とは対話、韓国には強硬姿勢のいわゆる「通米封南」外交に傾いている②金融危機にあえぐ李政権を揺さぶり、融和策に回帰させようとの狙いがある。>
とまとめていた。そういうことだろう、と思う。李明博政権は「非核・開放3000」という政策を掲げ、まず北朝鮮が核を放棄するならば、10年間で北朝鮮のGDPを1人当たり3000㌦レベルにすべく協力する、という保守派が主張してきた「双務性」を強調したものとなっているが、北朝鮮は「核問題は米朝が解決する課題で南にとやかく言われる筋合いのものではない」と反発し、揺さぶりをかけて、金大中・盧武鉉ラインに韓国の政策を戻そうとしている、と「書いていた。
宇恵氏が、
<それと関連して、保守派と進歩派が対立する韓国内の政治状況に対する揺さぶりだ。通貨ウォンが急落し、外貨が国外に逃げるなど、世界的な金融危機は韓国経済を大きく動揺させている。過去の例でも南北の緊張状態は、外資の流出を助長する。「経済大統領」として登場した財界出身の李大統領の基盤を揺さぶって、南北蜜月が続いた過去2代の政権時の融和的南北政策にかじを切り替えさせようという意図がある。>
と冷静に分析していた。続く言葉も面白い。
<李政権登場後、冷え切ったままの南北関係だが、意外なことに経済交流は活発だ。韓国統一院によると、今年9月までの南北交易額は約12億3000万㌦で昨年同期に比べ13.4%増えている。南北を往来した経済人たちは延べ約14万人と、昨年に比べ38%も増加した。政治的非難を韓国側がじっと耐えての南北交流が続けられている。>
である。これは意外だったが、逆に言えば北朝鮮崩壊後の青写真を各国が描き始めており、韓国は様々な利権を米国、中国、日本に渡さずに自分が全部取るためにも、我慢して、調査とデータ集めを続けているのだろう。
読売新聞はこの記事をきちんと解説面で解説記事として扱った。記者の主観がにじみ出た記事だと思うが、これでいい。一般の事実関係をリポートする記事に記者の主観を潜り込ませ、読者を誘導するような真似は、やはり正道ではないと思う。
東京新聞11月21日朝刊国際面<総書記の健康と関連? 貨車未返還でトラブルか/中朝貿易中断の怪/鉄鉱石やコメ9月から>にあるように、北朝鮮では現在、今までになかったことが進行していることは間違いないようなのだ。記事の前文は、
<北東アジア最大の鉄鉱石埋蔵量を誇る北朝鮮の「茂山鉱山」(咸鏡北道茂山)から中国への輸出や、中国から北朝鮮へのコメの輸出が9月から中断してることが20日、分かった。複数の関係筋によると、両国間の貨物列車の往来が今月に入って途絶えていることも判明した。中朝貿易をめぐる”異変”の理由は不明だが、北朝鮮の金正日総書記の健康悪化説との関連を疑う声もある。>
というものだ。
茂山鉱山の推定埋蔵量は30億㌧で、中国が北朝鮮から輸入する鉄鉱石の最大産地だそうだ。国境を接する中国吉林省延辺朝鮮族自治州和竜市の南坪税関を通じて陸路運ばれる、という。
延辺税関の統計によると昨年1年間の同税関を通じた鉄鉱石輸入量は70万㌧。今年は8月までに67万㌧を輸入したが、陸上ルートの輸入は今年9月からゼロになったという。
これにあわせ、中国から北朝鮮へのコメ輸出は9月以降ストップした。中国税関統計によると昨年、北朝鮮に輸出したコメの総量は前年の約2倍にあたる約8万㌧だった、という。
また、遅くとも今月に入って北朝鮮の新義州と中国遼寧省丹東を結ぶ鉄橋を通過する貨車の往来が確認できなくなった、という。中国が所有し中国から北朝鮮への物資輸送に使われた大量の貨車が北朝鮮で使いまわされ、未返却のままで、その数は2000~4000両に達するのだというからものすごい。
中国は今年夏ごろには両国間の鉄道協定破棄を通告し、北朝鮮への運行を中止したという情報もある、と書いている。これと金正日総書記の健康悪化説との関連を指摘する声もある、と書いている。
すべて噂の域を出ない話の羅列だ、ということを前提に言えば、中国が今、北朝鮮の新権力をある一定の方向に導こうと飴と鞭の政策を展開している、と見ることができるだろう。改革開放を迫っているのか、核開発をやめることを食糧支援の条件にしているのか、なにしろ1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年に冷戦が崩壊した後、旧ソ連の援助に頼ってきた北朝鮮は自立自助を求められたが、それができずに中国が細々と延命装置を作動させてきた、というのが現状だったと思う。その中国の態度の変化は注目にあたいする。ただ、今までもこのような一時途絶はあったので、この事態だけでそう大袈裟に考えることはできないが、食糧不足の北朝鮮にとっては、延命装置から流れ込む酸素とリンゲル液が細ったことを意味することは確かである。
李明博政権だって、こういう動きまで総合的に分析、判断して対北朝鮮政策を立案しているのだから、金大中・盧武鉉政権の「残党勢力」の言い分に比重をかける考え方は危険だと思うのだが…。
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