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2008年11月21日 (金)

クロード・ルブラン氏とマイケル・オースリン氏が説く「アニメの限界」~8月4日朝日新聞、11月20日読売新聞や1年前の新聞など

 まず1年半前の記事から見る。朝日新聞2007年7月14日朝刊[世界発2007]のワッペンの付いたパリ沢村亙記者のまとめ記事<オタク文化 外交に一役?/和製アニメ・漫画 欧州席巻/政府、観光客誘致も狙う/中・韓、激しく追い上げ>である。

 <日本の漫画やアニメへの関心が欧州でうなぎ登りだ。6~8日にパリ郊外の国際展示場で開かれた欧州最大の漫画・アニメ紹介イベント「ジャパンエクスポ」には、過去最高の8万3000人が訪れた。和製ポップカルチャーを「ソフトパワー」の目玉にしたい日本政府もブームを後押しする。同様に「文化」を外交の柱に据える中国や韓国との競争も始まっている。>

 という前文。一覧表で次のように歴史を略述していた。

▽勃興期(70年代後半)=日本のテレビ番組がフランスの主要テレビに登場。「ゴルドラック」(邦題グレンダイザー)、「キャンディ・キャンディ」に人気沸騰。手塚治虫作品も紹介される。

▽冬の時代(80年代後半)=日本アニメ・バッシングが始まる。89年にロワイヤル氏(07年フランス大統領選候補)が和製アニメを「暴力的、女性差別的」と批判。地上波テレビから和製アニメがほとんど姿を消す。

▽コミック期(90年代前半)=アニメにかわってコミックに人気。ファン年齢層も20~30代にまで広がる。「AKIRA」「ドラゴンボール」は世界的ヒット。和製コミック専門店がパリに登場。

▽芸術志向と大衆路線(90年代後半以降)

97年=北野監督の「HANA-BI」がベネチア国際映画祭でグランプリ。フランスでもヒット。パリ日本文化会館が開館。

2000年=パリで第1回ジャパンエクスポ開催。3200人が集まった。「ポケモン」が世界的ブームに。

2002年=宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」がベルリン国際映画祭で金熊賞受賞。

▽多様化の時代(2000年以降)=日本料理やJポップ、ファッション、テレビゲームなど関心が広がる。

2003年~=日本の漫画「ヒカルの碁」の影響で若者の間で囲碁ブーム。

2006年=「真の日本料理レストラン」認証制度がフランスで始まる。ジャパンエクスポに5万6000人集まる。

2007年=国際マンガフェスティバル(仏アングレーム)で水木しげる氏が最優秀賞を授賞。

 本文はこの一覧表の説明のようなものだ。アニメ主題歌から広がったJポップ(和製ポップ音楽)やロリータファッションなども広がっている、と。ドイツやイタリアでも漫画・アニメ発の日本文化への関心が広がっている、と書いていた。また、「米アニメが優勢だった英国でも5月のロンドンエクスポ」に2万人が集まった」と。

 この記事で、

 <日本に詳しいジャーナリストのクロード・ルブラン氏は「漫画やアニメは平和で文化が豊かな国という日本のプラスイメージに確実に貢献している。それには漫画文化の健全な発展が不可欠なだけに、日本の漫画誌の最近の不調が心配だ。日本政府の支援は遅すぎる印象もある」と指摘する。>

 と早くもルブラン氏に注目している。

 バブル崩壊後、日本経済への関心は急速に冷えたが、日本語を学ぶフランス人は約1万6000人で微増傾向で、それを支えるのが漫画・アニメだそうだ。だが、中国語が猛烈な勢いで追いつき、追い越しつつある、と。中学・高校では日本語の2倍以上の1万人が履修。中国語を教える小学校も15校にのぼる、と。フランス政府は日本語の代わりに中国語の教員資格を増やし、日本語クラスを縮小して中国語クラスを増やす学校もあり、日本語教育関係者は危機感を募らせている、という。

 それから約1年後の読売新聞2008年8月19日朝刊解説面では[「ジャパン・クール」活用]のタイトルで永原伸編集委員が<海外で人気 漫画・アニメ・若者ファッション/ビジネス化熱く議論を>の見出しで、

 <①日本の若者ファッションや漫画、アニメが「クール」だと海外で高い人気を得ている②海外での人気がビジネスと結びついておらず、産業力強化への取り組みが必要だ。>

 と説いていた。

 産業構造審議会の基本問題検討小委員会が最近まとめた報告書で、ジャパン・クールに多くの紙数を割いている、と。

 業界用語が面白い。赤文字系というのが「CanCam」「JJ」「ViVi」「Ray」などの女性向けファッション雑誌が扱うエレガントなカジュアル・ファッションで、これらの雑誌のタイトル文字が赤で印刷されていることが語源だ、という。ストリート系とは「自分らしさ」志向、ガーリー系は「カワイイ・カジュアル」志向のファッションを指すそうだ。これらの雑誌はすぐに中国語に翻訳され、中国内で販売されている。特に赤文字系の「Ray」、OL系の「ef」、赤文字系の「ViVi」、ガーリー系の「mina」の各中国版が人気で、この4誌だけで女性向けファッション誌全体の販売部数の55%を占めている、という。

 ところが、これほどの日本発ファッションの人気ぶりなのに、それが日本のアパレル業界の海外進出に結びついていない。同業界の輸出総額は韓国と比べて5分の1、中国と比べると実に150分の1にとどまる、と書いている。

 人気とビジネスとのギャップを埋める方策として報告書はアジアの消費者がどんなライフスタイルを好むかを分析した「アジア消費マップ」を作成するよう提唱しているそうだ。

 経済産業省の西山圭太・産業構造課長は「赤文字系、ガーリー系といったカテゴリーの一つひとつが若者たちの嗜好、ライフスタイルになっていることに着目したい。例えば、携帯電話。赤文字系ファッションを好む人たちは、そのファッションにあった携帯を持ちたがり、間違ってもストリート系にある携帯は買おうとしない。こうした消費者の嗜好をきめ細かく把握してマップを作成し、商品開発や営業に役立ててもらう。赤文字系の洋服、アクセサリー、携帯をセットで売り込むといった業種横断的な取り組みも可能になる」と説明しているそうだ。

 ジャパン・クールが注目されてかれこれ10年になるが、「日本のアニメで一番儲けているのはハリウッド」と揶揄されるように、自国の産業力に結びついてきたとは言いがたい、という。

 永原氏は人口減、高齢化進展で日本の労働者人口は徐々に減少、近い将来、経済成長著しい中国に世界第2の経済大国の地位を譲ることになるだろうが、ジャパン・クールは日本の産業力ひいては国力の維持・強化の有力な武器になりうるので、その活用法を政府任せにせず、民間を含めた「オールジャパン」で検討すべき課題だ、と書いていた。

 ところが、2008年8月4日朝日新聞朝刊[地球観察]でクロード・ルブラン氏は7月3日~6日の「ジャパンエキスポ」について書いている。

 <フランスでは今や日本のマンガは市場全体の約40%を占める。英BBCなどの08年の調査では日本が世界に良い影響を与えていると思う人は56%で、ドイツと並んでトップだった。>

 と書き、

 <この状況を見れば、日本はそこから実利を引き出し、自国の利益を守ったり、世界に言い分を聞かせたりすることができるのではないか、と思うかもしれない。02年2月、当時の小泉首相は日本の文化伝統を全世界に紹介することを打ち出し、日本が新しい外交の時代に入ったことを示そうとした。>

 <自衛隊のイラク派遣は同盟国である米国との協調をはっきりと示したが、自衛隊が使う給水車には人気アニメ「キャプテン翼」のステッカーが貼ってあった。「翼」は現地でも大人気で、自衛隊員が標的にならないよう装甲車の役目を果たしたのだ。今や日本政府はこうした「武器」をさらに効果的なものにする努力を惜しまない。>

 として、ジャパンエキスポへの力の入れよう、「本物」和食レストランの動きなどに触れる。

 <こうした対応は長期の投資のようなものだ。欧州でもアジアでも、若い世代はマンガやコンピューターゲームのキャラクターとともに成長し、いつかは国の運命をその手に握る。彼らはサルコジ大統領よりもずっと日本を考慮し、好意を持つだろう。相撲についてのサルコジ氏の発言を見れば、彼が日本をどう思っているかわかる。「ポマードで光ったまげをつけた肥満男の戦いなんかに、どうしたら魅了されるんだ? まったく知性のないスポーツだ」。04年、彼はそう言い放った。>

 <この発言や、欧米の首脳が日本に対して時折見せる尊大な行動は、日本の「イメージ作戦」の限界をよく表わしている。米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する手続きに入ったのを見れば、日本の国益がいかに無視されているかがわかる。

 <リアルな政治は、魔法の力を持つマンガのキャラクターよりずっと強大だ。それについてはジャパンエキスポに来た若者たちも、文句のつけようがない。>

 ルブラン氏はフランスのジャーナリストで1964年生まれ、フランス国立東洋言語文化学院で日本語を学ぶ。仏クーリエ・アンテルナシオナル誌副編集長を務める知日家、と紹介してあった。

◆アメリカ人は日本を子供向け異国情緒文化の発信地と見始めている

 このルブラン氏の発言と同趣旨ではないが、日本人に「あまりアニメに期待しないほうがいいよ」と呼びかけたのが読売新聞2008年11月20日[論点]のマイケル・オースリン氏だ。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所研究員。元エール大学准教授、41歳。物凄く若い学者さんだ。知日派なのだろう。タイトルは<ポップカルチャー偏重/米の対日観 軽薄化の恐れ>である。

 過去200年以上にわたって日米は双方の文化に魅せられ、影響を与え合ってきた、として米国人が版画、生け花、仏教、儒教にまで関心を広めたこと、黒沢明の映画がジョージ・ルーカスに影響を与えたこと、庭園の美が全米に広がった。日本文化への関心は日米関係において重要な役割を果たしてきた。つまり、米国は日本を重大な国と受け止めてきた、というのが書き出し。

 しかし、今日の日米関係は劇的に変わった、という。過去10年ほど、米国人は日本文化を真剣に見つめるのをやめてしまった。代わりに、日本のアニメやポップカルチャーが人気を博し、日本を見つめる際に通すレンズとなった。米国の若者は黒澤映画の変わりにアニメを見るようになり、大学の中には源氏物語や安部公房の代わりにマンガを読ませるところも出てきた。言い過ぎかも知れないが、多くの米国人は日本を異国情緒に満ちた子供向け文化の発信地とみなすようになった、と書く。

 <何が起きたのだろうか。1990年代のバブル崩壊後、米国人は少しずつ、しかし確実に日本への興味を失った。いま、経済の超大国になると目されているのは中国だ。日本の政治的リーダーシップへの信頼は失われ、アジアで主導的な役割を演じると考える人はほとんどいない。米国の大学教授たちの中には、日本の国内政治やマクロ経済政策といった難しい課題ではなく、野球やアニメについて教える者も増えてきた。>

 この動きは日米の安全保障、経済関係には影響を与えないだろうが、米国での日本に関する焦点がポップカルチャーになったということは、米国人が日本の社会、経済、政治といったまじめな事項について話さなくなったことを意味する、という。

 <米国人の関心がポケモンに集まれば集まるほど、日本が今も東アジアで最古で最大、そして最も安定した民主国である事実は忘れられることになりそうだ。日本は世界第2位の経済国で巨額の対外援助を提供し、世界中で人道支援を実施しているというのに。>

 <さらに憂慮すべきは、米国で日本の言語、歴史、社会を理解する専門家の数がどんどん減っていることだ。大学でアニメの講座をとった学生たちが、日本を真剣な研究対象とみなす可能性は低い。日本といえばイチロー選手のことしか知らない米国人は、日本が日米同盟において偉大な役割を果たしている世界的大国と考えることはあるまい。米国の政策や米世論に影響を及ぼすことのできる日本専門家が米国にいなくなれば、将来、重大な問題が起きた時、米国が日本を緊密なパートナーとして頼りにする可能性は少なくなるだろう。>

 <私は日本のポップカルチャーに反対するものではない。ただ、深みのある長期的日米関係を、ポップカルチャーのみを基礎として築くことはできない。深い相互理解と相互への敬意がなくなれば、日米両国はアジアを発展させ、地域安保を維持し、自由主義を広めるパートナーの関係を維持することはできないだろう。>

 知日派の中にアメリカでもフランスでも、こうした見方が広がっていることは日本にとって危機ではないか。政治の論点が世界と同期していない、とは感じていたが、ここまで無視されるようになっていたとは。何もできずに竦んでいる政府や国会に任せず、国民が真剣に考える時なのだろう。

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