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2008年11月29日 (土)

書評「若者はなぜ正社員になれないのか」川崎昌平著(ちくま新書)+「人生ゲーム」について

 川崎昌平氏の「若者はなぜ正社員になれないのか」(ちくま新書)を遅まきながら読んだ。2008年6月10日第1刷発行。定価700円+税=735円である。川崎氏は一種の変わり者、変人だと思う。しかし、そういう普通の人とちょっと違った変人が生きにくい世の中であることを実体験から書き記した本として面白く読ませてもらった。

若者はなぜ正社員になれないのか (ちくま新書) 若者はなぜ正社員になれないのか (ちくま新書)

著者:川崎 昌平
販売元:筑摩書房
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 なにしろエリートなのだ。1981年埼玉県三郷市生まれで東京藝術大学を卒業後、就職する気になれなかったので芸大大学院に結構な奨学金をもらいながら2年間通い、修士号を取得。ぶらぶらしていては何だから、と就職活動をしてみた、その記録である。26歳の経験だから、山口百恵の13歳とかひと夏の経験と違って分別があり、自分の行動に責任を取りながらの企業との一対一の勝負の記録である。たいしたもんだ、という思いと、芸大を出ているエリートだからできたんじゃないの? という僻目と両方ある。

 「知識無用の芸術鑑賞」「ネットカフェ難民」(いずれも幻冬舎新書)があり、川崎氏はすでに著述業で食っていけるのではないか、とも思う。日雇い労働に従事したり、ネットカフェで生活したことが自己形成に生きる人なんてそんなにいないと思う。そういう意味でも特殊ケースだろう。

 目次は定職がほしい▽とにかく落ち続ける▽「やりたいこと」が見つからない▽面接という名の地獄▽ハローワークへ行こう▽ウチで働いてみませんか?――である。川崎氏は温かく手を差し伸べてくれた企業にも入らなかった。自分の職業を物書きだ、と認識したからだろうが、この本の特徴はハウツーものにも使える、というところか。

 データとしても幾つか書いていた。

 文部科学省による学校基本調査の卒業生に占める就職も進学もしない者の割合(大学学部卒)の2004年データが約20%、およそ10万人いる、とか、厚生労働省と文部科学省の新規学卒就職率の推移で2005年3月卒の大学卒就職率が93.5%だったこと、就職率はあくまで就職を希望した人を分母にするのでこの数字に矛盾がないことなどを書いている。

 また、厚生労働省が発表した2007年版「労働経済の分析」で2006年時点のフリーターの総数は187万人であることも書いてある。白書によると、

 フリーターとは年齢15~34歳で男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者とし①雇用者のうち勤め先における呼称が「アルバイト」または「パート」である者②完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者③非労働力人口のうち希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」で家事も就業内定もしていない「その他」のもの――である、としている。

 一方「ニート」に近い概念とされる「若年無業者」の定義は構成労働省によれば、「非労働力人口のうち、年齢15~34歳で家事も通学もしていない者」とされ、その総数は06年には62万人である、と。就業の意思の有無がフリーターとニートを分けるのだ、と書いている。今、合計すると日本には200万人に近い「正規雇用の職を持たない若者」がいるということになる。、とあるのはその通りだ。

 あとは統計ものの利用はなく、ほとんどが自分の経験を書いている。それは面白いが、一般化できない弱点はあるし、結局、川崎氏は就職したくなかったのだろう、と思うと、読み返す気力はわかない。

 でも、1981年生まれの川崎氏の日常生活で「へぇ」と思ったのはゲームである。生涯で一度だけプレイしたロールプレイングゲームが「ファイナルファンタジー5」で、小学校高学年だった、という。ゲーム下手でどうしてもラスボスが倒せず、ラスボスがいそうな画面にたどりつけずに、クラスメートに「ラスボスのところまでレベルを上げてゲームを進めてよ」と懇願した記憶がある、という微笑ましい話だ。

 川崎氏は「ファイナルファンタジー5」を面白いと感じた、という。

 「ゲームのシステムが非常に秀逸かつ魅力的だった」「楽しませてくれた最大のポイントは『ジョブ』というシステムにあった」という。「主人公たちは、敵をやっつけ、経験値をため、レベルを上げ、武器をより優れたものにしつつ、長い物語を進むわけだが、その過程で何らかの職業を選ぶことができるのである。『白魔道士』とか『魔法剣士』とか『薬師』とか、とにかく多様な職業が用意され、選んだジョブによって戦闘シーンのアクションや覚える必殺技、魔法などが異なり、すべてのバリエーションを味わおうと思ったら、どれほど時間を費やさねばならないのか、当時は想像もつかなかったくらいである」とある。

 約15年後に川崎氏はそのゲームのジョブ(職業)を思い返して、次のように書く。

 <ジョブはあくまでもジョブにすぎずワークではない、ということになる。「竜騎士」や「猛獣使い」といったジョブをまっとうするために主人公たちはゲーム世界に生きるのではなく、最終的な悪いボス(名前は忘れてしまった)を倒すという目的が存在するのである。つまり「ラスボス撃破、しかる後の平和な世界建設」(そんなような目的だった気がする)こそがワークであって、「狩人」というジョブになることはワークではないのである。>

 そして、川崎氏は「ジョブ」と「ワーク」の関係を「やりたいこと」というお題目が見えにくくしているのであはないか、と問う。「音楽」をやりたいから「ミュージシャン」になる、「小説」を書きたいから「小説家」になる、というような傾向は「ジョブ」と「ワーク」を同一化するあまり、どちらに重きを置くにせよ、本質から乖離する結果を助長するようにも思える、と。

 この推論自体、どうこう言いたくないし、そうだろうなぁ、と思うのだが、私がハッと思ったのは、川崎氏の年代はすでにこのような抽象的思考に入るきっかけをゲームが担っている、「気づき」の元までゲームになっている、という素朴な発見である。

 川崎氏はこの年代には珍しく(と言っていいのだろうと思うのだが?)ゲームをやっていない、という。唯一のゲーム経験が「ファイナルファンタジー5」だった、というのだから。その川崎氏にしてこうなのだから、ゲームに浸っている若者はもっとゲームの影響力が大きいのではないか、と思ったのだ。

◆ついでに「人生ゲーム」について

 朝日新聞11月24日朝刊<人生ゲーム40歳/発売は高度成長期/ルーレット、米国へのあこがれ/職種にアイドル歌手、転職もOK/オーダーメードも登場>でタカラトミーのボードゲーム「人生ゲーム」が日本で発売40年を迎えたことを特集していた。

 <ドル札を模した紙幣のやり取り、株への巨額の投資…。億万長者を夢見て、波乱万丈の人生が疑似体験できると、子供から大人まで幅広い支持を集めてきた。現在は6代目(スタンダード版)。企画版を含めると、総出荷総数は1200万台を超えたという。>

 という前文だ。原型は1960年に米国で発売された「THE GAME OF LIFE」で、世界21言語に訳され、日本版は68年9月に発売。「人生山あり谷あり」というような宣伝がテレビコマーシャルに流れた、とある。

 記事で小泉信一記者は、

 <この年、日本のGNPが世界2位になった。大阪万博を2年後にひかえ、列島が高度成長に沸いていた。それまで盤上のゲームといえば、いかに早くゴールをめざすかという「すごろく」のイメージが日本人には強かった。「サイコロの代わりのルーレットが画期的でした」と開発チーム。「ヨットを買う」「牧場の跡継ぎになる」などのマス目に書かれた指示も、米国の生活へのあこがれを感じさせた。初代と2代目は米国版の翻訳だったが、83年発売の3代目から日本独自の内容になる。アイドル歌手など当世風の職種も登場。世相を反映し、転職できるルール改正も盛り込んだ。マス目には「お世話になった人たちにお歳暮をおくる」など日本風の指示も登場した。>

 と説明していた。

 面白かったのは記事につけられた<マス目に書かれた代表的な言葉>である。

▽初代(1968年発売)火星から使者がきた

▽2代目(80年発売)エベレスト登山成功

▽3代目(83年発売)ノーベル賞を授賞する

▽4代目(90年発売)リハウスでリフレッシュ

▽5代目(97年発売)カラオケでストレス解消/インターネットで自分のホームページを作る

▽6代目(08年発売)恋人と三ツ星レストランに行く/ブログが書籍になり大ヒット!

 である。その時その時の世相にあった内容にしている。6代目は今年6月に発売されたそうだ。9歳以上としていた対象年齢を6歳以上にして字を大きくしたそうだ。タカラトミーは「不況の影響か、中高年世代が自宅で家族そろって遊ぶケースが最近多いのでは」と言っている、というが、こういうゲームは懐かしいし、いいゲームだった。一人で楽しむのではなく、何人かでワイワイ楽しみながらやるゲームはもっと流行ってほしい。

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