米韓連合軍の軍事作戦計画(オプラン)~黒井文太郎氏の「週刊現代2008年10月25日号」記事から
週刊現代2008年10月25日号[スクープ! 米軍の「北朝鮮制圧」作戦]が面白かった。あまり早くに、発売直後に内容をここに書いては、著者である「軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏と本誌取材班」や講談社側に迷惑をかけると思い、少し時間をおき、週刊誌が古本になるのを待って、略述させてもらうことにした。
<「核兵器を奪取せよ」――ブッシュ大統領の決断 金王朝崩壊後に向けて極秘オペレーションが始動していた>というサブタイトルがついていた。
北朝鮮は10月7日に黄海に向けて2発の短距離ミサイルを発射実験を行った。9月には中朝国境でミグ戦闘機を投入した大規模軍事訓練をした。原油も乏しい北朝鮮がなぜそんな無駄遣いをしたのか? という疑問への答えから始まる4ページ特集。内容がしっかりしていて、読ませた。特に北朝鮮に関する米軍の軍事シナリオについて詳しかったのが勉強になった。
黒井文太郎氏は2007年1月2,3,4日のブログで3回に分けて「北朝鮮に備える軍事学」(講談社+@新書)の内容を略述させていただき、相当に北朝鮮の軍事問題の基礎について学ばせていただいた。その際に黒井氏の略歴を書き忘れていたので、今、改めて書いておこう。
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北朝鮮に備える軍事学 (講談社+α新書) 著者:黒井 文太郎 |
黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年に福島県いわき市生まれ。月刊「軍事研究」記者などを経て「ワールド・インテリジェンス」編集長。ロシアや中東などの海外取材歴が長く、国際軍事情勢やテロ問題を専門とする。著書には「日本の防衛七つの視点」、「紛争勃発」、「自衛隊交戦」(以上宝島社)、「アルカイダの全貌」(三修社)、「世界のテロと組織犯罪」(ジャパン・ミリタリー・レビュー)、「世界のテロリスト」(講談社+@文庫)、「イスラムのテロリスト」(講談社+@新書)、編共著には「最新!自衛隊『戦略』白書」、「今こそ知りたい 自衛隊の実力」、「生物兵器テロ」、「北朝鮮<空爆>へのシナリオ」(以上宝島社)などがある。
黒井氏はこの二つの北朝鮮人民軍の行動を、本当はしたくなかったのだが、米軍におびき出されて仕方なくやった行動、と見ている。この「おびき出し作戦」こそ、極秘オペレーションでコードネームは「作戦計画5030」だ、というのだ。
「作戦計画5030」の内容を要約する。
<2003年に策定された作戦計画5030は、米軍の情報部門が主導。圧倒的な軍事力による揺さぶりをかけることにより、朝鮮労働党の高官や朝鮮人民軍の幹部を動揺させ、金正日体制の内部崩壊を誘導するという作戦。>
具体的内容として6点を挙げている。①(米軍が韓国軍と合同で)大規模な軍事演習を行い、朝鮮人民軍に臨戦態勢を強いて疲弊させる②北朝鮮の国境付近に偵察機を頻繁に飛ばすことで、北朝鮮側の戦闘機が発信する回数を増加させ、燃料を枯渇させる③党高官・軍幹部への取り込み工作を強化する④北朝鮮国民を動揺させる情報を流す⑤兵器の売買ルートを遮断する⑥外貨の獲得ルートを遮断する――である。そして、
<この作戦計画の最大の特徴は、韓国軍と関係なく、米軍単独でも実施できる点だ。…米軍はこの作戦計画をすでに実行に移しており、韓国側も今年2月に保守派の李明博政権が誕生してからは、全面的に協力する姿勢に転じている。>
として、8月には米韓軍が大規模な合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」を実施し、11月には沖縄米海兵隊も参加する大規模な米韓合同上陸演習を実施する予定だ、という。さらに、北朝鮮を挑発する偵察飛行を今夏から格段に強化し、8、9両月で計260回偵察飛行した、という。ミグ戦闘機も参加した北の軍事訓練はこれに対応したもので、慢性的に不足していた北朝鮮空軍の燃料貯蔵量が危機的水準まで下がり、作戦計画5030は着実に成果をあげている、という。
極東アジアを管轄する米太平洋軍は現在計19の具体的軍事計画を立案。米韓連合軍の対北朝鮮作戦が五つ含まれており、他に「概念計画(コンプラン)」がある、と書いてあるが、その後、ここで取り上げた「概念計画5029」は「作戦計画(オプラン)」に格上げされたので、全部で六つになった。「作戦計画5030」以外の作戦計画は次の通り。▽作戦計画5026=北朝鮮の核施設を限定的に爆撃する。▽作戦計画5027=北朝鮮軍の南侵が明白となった段階で進撃して北朝鮮主要部を占領し、金正日政権を打倒する。▽作戦計画5028=朝鮮半島での局地的・偶発的な武力衝突に対応する。▽作戦計画5029(論文段階ではまだ概念計画5029)=北朝鮮の内部崩壊に際し、核・ミサイル施設を制圧する。
特に金正日重病説以後、発動間近態勢になっているのが「作戦計画5029」だ、という在韓米軍関係者の解説が掲載されていた。
<この計画は北朝鮮国内で内乱が発生した場合、米韓連合軍が、まずは休戦ライン(38度線)と海上を固めるものです。ただし、内乱の中で軍事勢力が北朝鮮国内の核を確保しそうになった場合は、すばやく特殊部隊と騎兵隊で進軍し制圧、核を奪取します。具体的な作戦計画化の正式採用を急いでいます。なぜなら、”核兵器&核物質の奪取”が、目下の最優先事項だからです。>
<ただ、偵察衛星などで把握できるような核施設は、米軍が容易に制圧できますが、すでに数個は完成しているであろう核爆弾、および正確な保有量すら判明していない核爆弾の原料のプルトニウムを残さず見つけ出すためには、北朝鮮兵士と言葉の通じる韓国特殊部隊の参加が欠かせません。そこで、米韓の特殊部隊の合同作戦が必要となるのです。>
<プルトニウムが保管されている可能性が高い場所として、寧辺、恵山、三池淵(サムチョン)、吉州、金東谷(キムドンゴル)、煕川(ヒチョン)、亀城の核施設と、平壌と平城のいくつかの原子力研究施設が挙げられます。また、ミサイル発射基地である舞水端里(ムスタンリ)、東倉里(トンチャンリ)も二次的なターゲットとなります。まずはこれらの計12ヵ所に対して、迅速な制圧作戦が実施されます。>
黒井氏は、
「こうした作戦に投入されるのは、韓国軍の陸軍特殊戦司令部(特戦司)や海軍第5特殊作戦旅団UDT/SEAL、海兵隊の特殊捜索隊などだ。米軍では海軍特殊部隊SEALs(米本土より派遣)、陸軍のグリーンベレー(沖縄・トリイステーションおよび米本土から増援)、場合によっては、海兵隊の偵察部隊フォース・リーコンも投入される」
、また
「これらの特殊部隊は米韓両軍のヘリ部隊、あるいは在韓米軍第501軍事情報旅団、烏山基地のU-2S偵察機やE-3早期警戒管制機、沖縄・嘉手納を拠点とする各種米空軍偵察機の支援を受け、さらに米国防総省の通信傍受機関であるNSA、CIA、韓国国家情報院、韓国軍情報司令部などの情報バックアップを得て、迅速に核兵器捜索に当たる」
という。「ただし」、とこの在韓米軍関係者は言う。
<そうした時間的余裕がなく、核爆弾がいまにも使用されそうな兆候があった場合には、施設ごと空爆するというオプションも検討されます。そのため、2006年10月に北朝鮮が核実験を強行したのち、概念計画5029に『核施設への先制空爆攻撃』計画が、急遽追加されたのです。>
ワシントンの米国国務省幹部の話では、
<北朝鮮問題でブッシュ大統領が懸念しているのは、イランやアルカイダへの核流出の一点だけです。いまや現実にその脅威が浮上してきたため、『絶対に阻止せよ!』と号令がかかったわけです。>
作戦計画5029にはそれ以外にも大量の難民発生や大規模災害などに対する項目もあるが、それは補完的なもので、主眼はあくまで”核兵器・核物質の奪取”だ。
米国防総省所属の情報機関DIA(国防情報局)の極東地域担当将校の話では、
<実は「5029」には裏のシナリオが存在します。それは、北朝鮮が完全に無政府状態に陥った場合に、米韓連合軍が治安維持部隊として北朝鮮内に進軍し、主要部を制圧するという計画です。ただしこの場合は、中国が北西部の国境地帯から人民解放軍を進軍させることも甘受せざるをえません。>
これに関して、米国務省幹部は米中がその場合、6ヵ国協議を外部から北朝鮮を管理する枠組みに格上げする方向で基本合意しており、両国軍当局も北朝鮮が無政府状態に陥った場合に治安維持部隊として北朝鮮に入ることを想定して極秘交渉を始めている、と語っている。
また、中国人民解放軍幹部も北朝鮮の混乱は中国の混乱につながるため、当然、人民解放軍が進駐。人民解放軍の進駐は中朝が交わしている覚書にも明記してある、といいながら、アメリカ側とも有事の際の北朝鮮の平和維持の枠組みについて話し合いを非公式に始めている、と認めている、という。
さらに、DIA将校によると、米軍の対北朝鮮攻撃計画には、管轄する太平洋軍の枠外の極秘軍事計画もあり、それは米軍の核戦略オペレーションを統括するネブラスカ州に本拠地を置く米戦略軍が策定しているコードネーム「概念計画8022」と「作戦計画8044」で、これらはともに、反米国家(米政府は「ならず者国家」と呼んでいる)への軍事攻撃計画だ。特に8022は北朝鮮やイランの核開発が危険水域に入った時に米戦略軍が指揮する核による先制攻撃を定めたものだ、という。
すでに作戦計画5030が始動しているが、いざ有事となれば朝鮮人民軍との全面戦争(作戦計画5027)になることも充分考えられ、場合によってはこの概念計画8022=核攻撃に踏み込む可能性も否定できない。ブッシュ大統領はこれまでしばしば敵対国への核による先制攻撃に言及している、と書く。
<金王朝崩壊が秒読みになった現在、アメリカは、これだけ幾重もの軍事計画を準備しているのだ。>
として、北朝鮮有事の際の対応計画すら策定していない日本に「平和ボケ、しっかりしてくれ」とはっぱをかけていた。
実は、黒井氏の「北朝鮮に備える軍事学」の第3章が<米軍「戦争計画」の全貌>なのだが、簡単にしか触れていなかった(ので、前に書いた「略述」では無視した)が、今回の週刊現代記事は、これを補完しているものかもしれない。
以上が「週刊現代」を教科書にしてのお勉強だったが、この「6ヵ国協議を管理手段」という発想は昔の日本占領を思い出させる。マッカーサーを中心とするGHQの日本占領の法的裏づけは米大統領ではなく、戦勝国連合の日本委員会だったはずだ。英国、豪州など戦勝国である。
北朝鮮占領は失敗したイラク占領方式ではなく、成功した日本占領方式でやろう、というわけなのだろうか?
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