中曽根康弘元首相、出井伸之元ソニー会長、佐々木毅氏、北岡伸一氏~各紙への寄稿やインタビュー
朝日新聞11月8日朝刊3面[経済危機の行方 世界は]のインタビューシリーズは中曽根康弘元首相。<モラルなき拝金主義 背景に/米国に代わりG20を司令部に/日本主導でアジアの声上げよ>のタイトル。ここで中曽根氏はアメリカへの怨みつらみをオブラートに包みながら露呈している。面白い言葉だけ拾う。
<米国の市民は、借金は返さなければいけないものだと小さい頃から教えられているはずだが、政府当局は双子の赤字など意に介してこなかったようにも見える。少なくとも是正を長い間怠ってきている。サブプライムローン問題を見ても、監視を怠ったという一面がこの事態につながったところがある。ブッシュ政権が、その時流に乗ってきた面は否めない。イラク戦争はその象徴だ。>
<米国は時々人道的な主張を前面に出すのだが、政治の現実を見れば独善が優越してきた。今回の経済異変は、そうした米国のあり方自体をも問い直すことになり、実際、米国の国際的評価の低落は、米国自身において反省されてきていると思う。>
<富にはモラルが付着していなければならないということだ。今回の異変は、極論すればモラルなき拝金主義からきている。情報社会であり、コンピューターによる世界ネットワークの時代であることを考えれば、人類の堕落を防ぐにはモラルというものがますます不可避のものとなる。さもなければ、コンピューターの持つ速さや、原子力その他による兵器の発達などにもかんがみて、ちょっとした人間の過失や思惑、悪意によって世界的危機に至ることが今後ないとはいえない。政治、経済、社会、あらゆる面において、モラルがもっと深く食い込んでこなければ、人類自体が危うい。そういう時代に入りつつある。>
<このG20を恒常化し、さまざまな課題に対する基本戦略司令部にすることが望ましい。…自由と民主主義と資本主義の3者連携の時代はまだ続くだろうが、その資本主義の内容自体は、新しい情報社会の出現によって再点検されるべき要素がかなりあるということだ。>
<麻生政権は…今起きている問題の歴史的意味や今後日本が世界に示すべき政策にまで思いが至っていない。本来なら今回の事態は、日本が主導して世界に新たな態勢づくりを訴えるチャンスでもあると思う。アジアの総意、いわばアジアの「連合意思」といったものを形成し、欧米に説いていくということがあってよい。>
<モラルということから物事を考えれば、偏狭なナショナリズムは排除される。世界的な基準、普遍性、人類的運命を考えて進むべきであり、進むしかない。>
何か禅問答のようではあるが、老師の言いたいことはビンビンと伝わってくるようだ。
毎日新聞11月7日夕刊[特集ワイド~この国はどこへ行こうとしているのか]はソニー元会長、出井伸之氏(70)。<毅然と 品位保て>の見出しだ。
出井氏は1937年東京都生まれ。早大政経学部卒。60年ソニー入社、95年社長、2000年CEO、05年最高顧問。日本経団連副会長や政府の「IT戦略会議」議長も務めた。06年創業のクオンタムリープ代表取締役。趣味はゴルフ、読書、映画鑑賞。最近は東野圭吾の「容疑者Xの献身」「秘密」など長編小説を楽しんだ、とあった。また、本文にあったが、ドバイの王族とパーティーで知り合ったのが縁で07年11月、ドバイの政府系ファンド「ドバイ・インターナショナル・キャピタル(DIC)アドバイザー。07年6月には中国のインターネット検索サイト最大手「百度(バイドウ)」の社外取締役に就任している。
面白かったのは、出井氏が06年6月号の「論座」で「日本は80年代に『坂の上の雲』と思ったが、雲で自分のいる位置が分からなかっただけ」と書いたが、このインタビューでは「アメリカは今、『坂の上の雲』にある。アメリカは好調が続いて坂の上の雲の中に入り、自分自身が見えないのでしょう。国家も人間も成長している時(坂の途中で)は、パワーがあるように見えるけれど、坂の上に行くと急に周りが見えなくなる」と話したことか。出井氏はよっぽど「坂の上の雲」が好きなんだなぁ。
各国のGDPが世界に占める割合のグラフは面白かった。中曽根氏が「G20を基本戦略司令部に」と言っていた背景も分かる。
2003年のGDPは先進国が49.5%で新興国は50.5%と1ポイント新興国が上回った。出井氏は「この03年に、実は世界の軸が変わっていたかもしれないよ」と言うのだ。
2030年は先進国が36.4%、新興国は63.6%とさらに差が広がり、「世界経済は第二次世界大戦後、米ドルを基軸通貨とするブレトンウッズ体制に変わった。今の金融危機はこの変化に匹敵する。先進国だけでは世界のマイノリティーだけの集まりになる。ここがポイントです。金融危機で世界の軸が変わったんですよ」と、G20について、その意義の大きさを強調する。
その2030年に世界に占める各国の割合は中国が24%、米国17%。03年に12%で世界2位だった日本は4%。出井氏の言葉だ。
「今までのような米国への従属はありえない。だから、世界に敬意を払われる国にならなければならない。日本は過度にペシミスティックになっている。けれども、世界から見るとまだ経済格差は少なく、増えたとはいえ犯罪も少なく、水も安心して飲める。こんないい国は世界でも少ない。1億2000万人が住む日本は、毅然としていることが大事だと思う。日本が世界に誇れるのは『平和』『安心・安全』『教育』。世界の中で日本は品位ある国として歩んでほしいね。いつも戦争ばかりの米国に比べたら、60年間も戦争をしていない日本は超優等生だと思う。『どう生き残るか』と『将来への先行投資』。この方程式をどう解くかに日本の行方はかかっているんだよ」。
東京新聞11月9日朝刊[時代を読む]は佐々木毅学習院大学教授。<迷走気味の麻生政権>がタイトル。
給付金支給を実務的感覚から「これは厄介なことになるな」と思った、という。制度設計もしていない思い付きの支給提案だからであろう。麻生首相の10月30日の記者会見で道路特定財源の一般財源化に伴い地方に1兆円を移す件も現行で7000億円が地方道路整備臨時交付金として配られており、1兆円がその別枠なのか全体で1兆円なのか論争になっているが、記者会見で記者がきちんと聞かなかったのが悪い、と。
その通りだ、思う。しかし、佐々木教授にはもう少し大きな枠組みの問題提起をしてほしかった。せめて、次の言葉で満足するか。
<世界は二十年ぶりに「チェンジ」のサイクルに入ったという予感がする。この大統領選挙はその号砲である。麻生政権において唯一つはっきりしているのは、日本の政治の「チェンジ」だけは阻止したいという執念である。>
この「チェンジの時代に入った」という認識は正しいと思う。ニュージーランドの総選挙で左派から右派への政権交代が起きたのも、その一環だろう。今は政治学者には物が言いにくい時代なのか? 佐々木氏のクリアカットな提言を読みたい。
日経新聞11月11日朝刊[経済教室~米次期政権と日本の対応㊤]は北岡伸一・東大教授。1948年生まれで元国連代表部次席大使、専攻は日本政治。見出しは<大転換期 共同で乗り切れ/道義的指導力を再生/悩める米国を積極支援せよ>である。「傷ついたモラルリーダーシップを立て直せ」は米国への注文だろう。中曽根元首相と共通する見方だ。
米国の問題は経済、軍事ではない、という。世界の中での米国経済シェアは昨年、21%と1960年の24%から実はあまり変わっていないし、軍事力は圧倒的。傷ついたのは米国のモラルリーダーシップだ、という。その再確立が米国の最大の外交課題だ、と。米国を偉大ならしめてきたのは自由と民主主義の擁護者としてのモラルリーダーシップ(道義的指導力)である、と。
面白いのは、渡辺靖慶応大学教授同様、北岡氏も共和党の善戦に注目していたことだ。1984年のレーガン再選時は民主党はワシントンDCを含めて2州しか取れなかったが、今回は反ブッシュの嵐の中でマケイン候補は20州あまりを獲得して善戦した、という。つまり、オバマ大統領に対する抵抗感はまだまだある。そのためにも経済問題は重要で、ここで失敗すると、米国は極端な保護主義に走りかねない、と懸念する。
日本は北朝鮮問題でも悲観するな、という。最後には経済支援の鍵を握っているのだから、と。これはその通りだ、と思う。
<焦る必要はない。検証可能な全面的な核計画の廃絶を強く主張していくべきである。>
という主張にも全面的に賛成だ。そして、北岡氏は米国が世界をどうするか、で悩んでいるのだから相談相手になるベきだし、その場合、安全保障上の幾つかの不必要なタブーを解いておくことが望ましい、という。集団的自衛権は保持するが行使できない、という解釈などがその最たるものだ、と。北岡氏の話で「へぇー」と思ったのは、
<アフガニスタン問題の根源の一つは、麻薬問題なのだが、日本は明治・大正期に台湾の麻薬を撲滅させた経験もある。ケシを全部買い上げて廃棄するような方法もあるかもしれない。>
という話である。知らなかった。また、「オバマが親中になるか親日になるか、かなりの程度、日本自身の選択なのである」という言葉もその通りだと思う。米国が手を携えて国際社会に対峙しようと思うパートナーであるかどうか、日本の変革にかかっている、という意見だ。
<日本は、自らの潜在的能力を自分で拘束し、進んで二流の国家になろうとしている。自己卑小化とでもいうべきだろうか。これでは頼りになるパートナーにはなりえない。米国は「チェンジ」を選んだ。「イエス・ウィー・キャン」と叫んだ。今度は日本の番である。>
北岡氏の「チェンジ」と佐々木氏の「チェンジ」の内容が違うのが面白いが、それでも「チェンジ」は必要だろう。
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