渡辺恒雄氏は只者ではない~文藝春秋09年1月号御厨教授インタビューから
文藝春秋09年1月号[連続インタビュー 麻生総理の器を問う]が面白かった。中曽根康弘元首相、塩川正十郎元財務相の発言も味わいがあったが、老境にあるはずの渡辺恒雄・読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆の発言は年齢を感じさせず、今でも大野伴睦時代同様、日本政治のフィクサーとして動いている現在進行形の「政治家」ナベツネの素顔を垣間見せてくれた。いつまでもナベツネではなかろう、とも思うのだが、この人を凌駕する人物がいない、という現実の裏返しでもあり、じっくり発言を聞いてみるしかないかもしれない。
聞き手はいずれも御厨貴・東大教授だ。渡辺氏の主な発言を抜き書きする。
▽やっぱり、臨時国会での冒頭解散をやるしかなかったね。たとえ負けていたとしても、自民党が比較第一党になっていれば、大連立か中連立かあるいは小連立になるかわからんが、イニシアチブをとることはできたはず。自民も民主も単独過半数は無理ですからね。
▽麻生首相就任前に中川昭一氏から「解散をいつやるべきか」と相談された。僕は「所信表明が終わったらすぐやるべきだ。ここでためらったら碌なことがないよ」と言いました。その後は本当に碌なことがない。
▽(冒頭解散をしなかったのは)自民党が行った選挙区ごとの情勢調査の結果が極めて悪かったからでしょう。例えば、北海道では中川昭一さんと町村信孝さんしか当選せず、武部勤さんなど他の自民党候補は全部落ちてしまう。麻生さんの地元である福岡県でも、麻生さん以外は全部落ちるという予測が出た。山崎拓さんも鳩山邦夫さんも全部ダメだと。そんな予想が出ていたから、解散を先延ばしせざるをえなくなったんだ。そもそも解散とは、明治の昔から野党懲罰のためにやるものだった。解散権を持っているのは総理大臣なんだから、負けると分かっているのにやるはずはない。もっともこの調査は、誰かの謀略によるニセモノで、与党過半数の勝機はあると、自民党四役の一人が言っていた。
自民党や民主党が秘かに調査をして、その結果を見て分析するのは当たり前だが、最近はそのニセモノが出回っている、という話は聞いたことがある。自民党のある調査では小数点1桁までしか出ていないはずなのに、そのペーパーには小数点2桁まであったのでニセモノと分かった、とか。こうなると謀略戦のようで、たまらないだろうなぁ。
▽いま麻生さんはなるべく解散を先延ばしして、その間に景気対策を行い、民主党の敵失を待つという戦略なんじゃないのかな。…いずれにしろ、経済が悪い状態で選挙をしなければならない。自民党にとって、いい条件はなにもないね。(敵失とは)例えば、小沢さんが代表を辞任するとかね。小沢さんの健康不安説が燻っている中で、今も民主党内には小沢退陣論があるんですよ。もしそうなれば、民主党が今度は代表選をやるしかない。分裂含みになるかもしれない。実際、参議院民主党から渡辺秀央さんと大江康弘さんが飛び出して、無所属議員らと改革クラブを作った。今は西村真悟さんが加わって5人になり、政党助成金がもらえる政党になりましたね。それ以外にも、僕が聞くところによると、新たに参議院民主党を飛び出そうという動きもある。誰もが知っている議員が僕のところにやってきて「民主党が嫌になったから離党したい」と言うんだ。すぐに自民党には移れないから、新党を作ると。今3人集まっていると言っていたけどね。
この辺がすごいと思う。大魚ではない小魚のような政治家の名前まですらすら出てくる。日々動いている永田町のリアルな動きに、ご老体が適切に対応している証拠なのだろう。読売新聞の政治部長の話も聞くだろうが、自分で取材するケースの方が圧倒的に多いのではなかろうか。政治が好きなのだ。好きこそものの、なのだろう。
▽昨年、大連立が失敗した時も小沢さんはいったんは代表を辞めると言ったのに、周りが必死になって慰留した。あの時慰留されなければ小沢さんは50人くらい引き連れて民主党を出ていたでしょう。そうなると民主党は万年野党のままだ。だから、菅直人さんや鳩山由紀夫さんは必死に「代表を辞めないでくれ」と懇願したんだ。あの時のしこりは、まだ民主党に残っている。
そういうことなんだろうなぁ。それが政治のリアリズムだろう。
徳島の当選5回、仙谷由人さんとか、個人的には正義派で、がんを克服してからのすごみと切れ味は自民党の総裁候補である与謝野馨さんと通じるところもあると思わせる人だが、こういう私の好きな「いい人」たちに限って「小沢嫌い」が徹底している。あの時、民主党幹部会が小沢提案の「大連立」でまとまるはずはなかったのだ。小沢氏は事前にそれを知っていたのだと思うのだが、そのへんはどうなっているんだろうか。ナベツネ氏もその辺の微妙な話は上手に避けている。
▽(自民党内も)中川秀直さんの一派などは完全に干されているしね。…ほかにも、加藤紘一さんや山崎拓さんなどは、麻生政権で何の役職ももらえず不満が高じている。彼らは民主党にパイプがある。
これも的確な分析だろう。加藤紘一氏など、選挙管理内閣の首相は自分しかない、と思い込んでいるようだ。その話はよく聞く。
以下の話は何と55年体制の誕生秘話的な話である。ナベツネ氏ならでは、というか、他の人では話しえない話だ。
▽1955年の保守合同の直前、鳩山一郎首相の「天の声解散」を受けて行われた2月の総選挙では、鳩山ブームに乗った民主党が124議席から185議席に躍進した。一方、吉田茂から緒方竹虎に総裁が代わっていた自由党は180から112議席に激減する。当時、兵庫県では自由党が八つ議席を持っていたのに、生き残ったのは淡路島出身の原健三郎だけ。今回も総選挙をやったら、自民党と民主党の間でそういう逆転現象が起きる可能性がある。何十年かに一回、そういう大逆転が起きるんだね。
55年総選挙の教訓はもう少し勉強してみよう。さすがにナベツネさんは詳しい。
▽(今まさにそういう大逆転の周期に来ていると?)そう思うね。また、55年の選挙では、自由党と民主党以外に、左派社会党が89、右派社会党が67で、労働者農民党と共産党を加えれば162あった。彼らがキャスティング・ボードを握ったんだね。54年の年末に吉田内閣が総辞職したのを受けて行われた首班指名選挙では、左右社会党が鳩山に投票した。今でもよく覚えているが、あの時、緒方をはじめ自由党の面々は「社会党が憲法改正を主張していた鳩山に入れるはずがない。緒方に投票するはずだ」と前日の夜まで言っていた。僕ら新聞記者は、取材の結果、社会党が鳩山に入れるということはわかっていたんだけれどもね。社会党は鳩山に投票する代わりに、年明けの解散を民主党に約束させていたんだ。いわば、解散予約だ。その解散総選挙の結果、鳩山民主党はめでたく第一党になったんだけれども、今度はその社会党に裏切られる。首班指名では自由党も鳩山に入れたのですんなり決まったが、議長選挙では自由党と左右社会党が組んで、民主党の三木武吉の議長就任を阻止して。その結果、議長ポストは第二党の自由党、副議長も第四党の右派社会党から選出され、鳩山内閣はまったく議会運営ができなくなった。当時、自由党の国対委員長だったのが佐藤栄作で、国会の常任委員長も自由党が片っ端から取ったしね。まさに、昨年以降の野党多数の参議院で法案が全部つぶされちゃうようなもので、にっちもさっちもいかなくなった。そこで、鳩山一郎の盟友だった三木が、業を煮やして4月に保守合同を呼びかける。三木は右派と左派が合流して社会党政権ができることを恐れていたんだね。それで、自由党の大野伴睦と会談を重ね、それぞれの党内の反対論をねじ伏せながら、11月の保守合同を実現させていった。
よく覚えているなぁ。そうかぁ、保守合同のそもそもは国会が機能しなくなったこと、国会運営を野党に奪われてしまったことがあったとは知らなかった。昔、升味準之助氏の政治史の本を読んだが、じっくり読まなかったので、保守合同は社会党政権への恐れからだ、とばかり思っていた。
▽(現在あの頃のような活力のある政治家はいますか?)いないですねえ。まあ、昨年の大連立を目指していた時の小沢さんにはその活力があったけどね。小沢さんは昨年7月の参議院選で勝ったけれども、衆議院選で民主党が大勝することはできないと考えていた。だから自民党との連立しかないと、僕にははっきり言っていたんだ。保守合同の時は三木や大野はそれぞれの党をまとめられたけれども、今回はそこまでできなかった。
▽(イザという時に力が足りなかったんですね?)そういうことでしょう。これは先ほど述べたキャスティング・ボード政治の問題とも関係するんだけど、保守合同の前年、緒方竹虎は「政局の安定が爛頭(らんとう)の急務である」という声明を出して保守新党結成を訴えていた。その中で「キャスティング・ボードによる諸修正は多数決政治の信条をあいまいにし、ややもすれば国会の運営を不明朗ならしむるところ、行く行く議院民主制に対する国民的信頼を薄くせんことを恐る」と書き、キャスティング・ボード政治、つまり第三党が政治を動かすことを厳しく批判していた。…保守合同はキャスティング・ボード政治を排することが一つの動機だったんだ。
なるほど、キャスティング・ボード政治か。公明党ねえ…。ナベツネがなぜ公明党を嫌うか、という根本的な理由が今分かったような気がする。なるほどねぇ。
▽今話題になっている定額給付金にしても、あんな2兆円のバラマキなんて、僕は本当に世紀の愚策だと思っているんだけど、元はといえば公明党が定額減税をやれと自民党に要求したのが発端だ。まるで尻尾が胴体を振り回すかのように、自民党が公明党の言いなりになっている。キャスティング・ボード政治の最たるものだ。
▽(ということは、昨年の大連立の動きの際に、小沢さんにもそうした動機づけがあったのですか?)小沢さんが、連立の条件として公明党を切れと言ったんだよ。だけれども、福田康夫さんはそれだけは呑めないと答えた。福田さんが僕に電話をかけてきて、「小沢さんを説得してくれ」と。そこで小沢さんに言ったら了解してくれた。まあ、これ以上は差し障りがあるから言えないが、いずれにしろ、あの時もう2、3人の実力政治家が協力してくれていたら、大連立はできたんだよ。そしたら、今のようなゴタゴタは何も起きていなくて、経済政策や社会保障の問題、消費税の問題だって、どんどん前に進んでいたはずなんだ。本当に悔やまれるね。
やはり噂は本当だった、ということだろう。「公明党を切れ」。小沢一郎ならば言うだろう。しかし、まだ全部が明らかになっていないから分からないが、小沢氏が主導したのか、ナベツネ氏が主導したのか?
▽小選挙区というのは実は中選挙区よりぬるま湯で自民党を弱体化させたんだな。
▽僕は小泉さんが天下を獲る4ヶ月ほど前に彼とサシでメシを食ったんだ。その時、僕は「小泉さん、あんた勝ちそうだよ。天下を獲ったら何をやるんだ?」と聞いた。彼は「民主党と大連立をやる」とはっきり言ったんだ。ところが、総理になった後、そんなこと言った覚えがないと言い出して、やりあったことがある。僕は確かにそう聞いたんだがね。
▽まともな政治家なら大連立を考えるんだよ。この間、安倍晋三さんがこう言っていた。「今自民党の政治家は自分の選挙区に創価学会の票が2万票あるから、公明党と手を組めば単純に2万票増えると思っている。でも、そうすることで実は従来の自民党票の3万票が民主党に流れているんだ」。だから、自民党の中には、公明党との連立をやめたいという実力者もかなりいる。
このナベツネ発言でこの間の古賀誠・自民党選対委員長の公明党批判発言の底流が理解できた。そういう感情だったのか。
▽(民主党が第一党になった場合、小沢さんは総理になりますか?)小沢さんは体力的な問題があるからね。岡田克也さんや前原誠司さんとかがもう一度復活するんじゃないか。彼らは政策的にも自民党に近いし、民主党の若い人には財政や金融が分かる人もたくさんいる。
ナベツネ氏はこの発言を繰り返している。小沢氏は「私は総理にはならない」とナベツネ氏に断言したんだろうし、今でもそう思っているんだろう。小沢氏の健康はそんなにひどい状態なのか? 無理をしすぎたのか?
▽自民党が比較第一党を取れない時は、潔く民主党に政権を渡し、そういう人たちにやってもらうしかないね。いずれにしろ、一度選挙をやってみないとね。選挙の前というのは政治家は動けないんだよ。…今度の選挙で負けた人たちは仕方がないからそこであきらめてもらう。勝ち残った人たちで、日本の政治をよくするための政界再編をやってもらうしかない。最初は連立でしょうが、最後には保守合同のようなこともあるかもしれない。
ということは、断片的な話をつなぎ合わせると、次は岡田首相か前原首相だ、ということになるのかな。それでもいいと思う。
でも、民主党はまた分裂もどきの騒動を起こすのではないか、とも思う。
本音を言えば、もう衆院副議長の横路孝弘氏ら旧社会党系の議員たち、特に旧総評系議員には引退をしてもらいたい、と思う。
安全保障問題で懸念がある親北朝鮮の議員たちは本来は民主党を離れればいいのだが、彼らは離党しないだろう。自民党の親北朝鮮議員もそうだ。彼らは選挙に強く、落選はしないから、である。
総評系労組の支援を受ける左翼政治家は裏で北朝鮮系のパチンコ屋などの金銭援助をいまだに受けているのだろうか?
いずれにしても、彼らの影響力を殺ぎ、政府の外交方針、安全保障政策決定には関与させないようにしないといけない、と思う。そうでなくても北朝鮮の核兵器の部品は日本から渡っているのだし、先日の共同通信のスクープによると、カーン博士のインタビューでパキスタンの核兵器開発でも日本製の機械が使われていた。
親北朝鮮の大物議員だった野中広務氏は辞職した。北朝鮮利権を取り沙汰された武村正義氏もいなくなった。親北朝鮮ということでは加藤紘一氏とか、山崎拓氏がまだおり、一人は首相候補だという。永田町に今後も残ることは確かだろう。その残り方が問題だ、と思う。社民党的な反対勢力として残る分には問題ないけれども、権力中枢に入ってくると、日本の安全保障は大丈夫か、という問題が起きるのではないか。
北朝鮮の対外政策がもっともっと頑なになり、6カ国協議に任せておけない状況になる可能性はある。また、そうした場合、オバマ新政権の政策が期待したようには日本に配慮せず中国と結んで、北朝鮮を適当に手なづけようとするかもしれない。つまり、日本にとって米国の核抑止力が事実上機能しない事態だって想定できる。その場合にどうするのか。
案外、極東の異変はありうるのかもしれない、と思うのだ。今の北朝鮮、朝鮮半島には何でも起きうる。何が起きても対処できるように、今からきっちり準備しておかなければならない。結果として、平和裏に終わればいいが、そうでないケースまで想定して、準備しておかなければならないのではなかろうか。
安全保障問題を考えた時、ナベツネ氏のような「心棒」が日本の政治には必要なのではないか、とも思ってしまう。そんなフィクサー政治でいいのか、これでは大野伴睦の時代と何も変わっていないじゃないか、とも考えてしまうのだが、申し訳ないが日本の今後を菅直人氏に任せるわけにはいかないだろう。
団塊の世代の空虚さが、団塊世代から政治の担い手を出せずに、政治混迷を生んでいるのかもしれない。
本来は「団塊」が実権を掌握して、「国際社会に伍して生きていける日本」に向けて「第3の革命」「第3の開国」を主導しなけばならなかったのだろうが、そんな根性を持続した「団塊」はいなかった、ということだろう。
だから、ナベツネ氏のような後期高齢者世代や小沢氏のような団塊よりも上の世代にいまだに永田町を牛耳られている。というか、お任せしている。委ねている。仕方のないことなのだろう。団塊は華々しく活躍することもなく、このまま線香花火が消えるように高齢者になっていくのかなぁ。団塊世代って精神薄弱者なのだろうか? 分裂症なのか? 現実が見えないことは確かなようだ。それと自分勝手で公共性がない。全部自分のことです。
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