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2008年12月 2日 (火)

森信茂樹教授の納税者番号導入提言と公務員の責任問題

 森信茂樹中央大学教授(58)が日経新聞12月2日[経済教室]で<求められる給付付き税額控除導入/「納税者番号」を前提に/社会保障と税一体で/勤労意欲と再配分を両立>のタイトルで今回の麻生政権の2兆円バラマキを批判、必要な世帯に行き渡るような政策を実行すべきだった、として、欧米で活用が進んでいる給付付き税額控除制度を導入するよう提言している。

 たしかに少子高齢化で国家資源が急減する中、貧困層など支援が必要な層に手厚く資源配分するには、今の縦割り行政を大胆に見直して内閣府などが社会保障も税も担当する必要があるのだろう。

 ただ、その時、森信氏も言うように納税者番号がないと効率的な行政はできない。というか、はっきり言って官庁は何もできなくなり、お手上げ状態になるだろう。所得の捕捉ができなければ減税もできず、給付の根拠も薄弱になるからだ。

 そこで古くて新しい「国民総背番号制」の問題が出てくる。

 「国家公務員は国家そのもの」(佐々木毅学習院大学教授)という矜持を持って行政運営に当たっている多くの公務員がいることは十分承知しているのだが、中には信用できない公務員もいるのは事実だ。そのうえ、社会保険事務所ぐるみの不正などが明らかになれば、公務員の信用はさらに地に落ちる。

 今のままの公務員に私たちのプライバシーを預けていいものか? と不安の念が生じるのはやむを得ないだろう。

 随分前の新聞だったが、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)を合憲とした最高裁判決に関する各紙社説を比較した毎日新聞3月9日の社説ウオッチング<住基ネット判決 便利さと怖さの緊張感>が参考になる、と思う。

 「時代の要請にかなった」(産経)判決で「住基ネットを行政の効率化のためにもっと活用」(日経)し、政府・与党が導入を検討中の社会保障番号と「統合作業も進め」(産経)「議論を深め」(読売)「連携させ精度を高めることが新しい社会保障カードにも必要」(日経)というのが一般的な世論になりつつある、と書いている。

 住基ネットは自治体が管理する住民票情報をコンピューターで結ぶものだ。

 社説ウオッチングの内容をダイジェストする。.

 小渕恵三政権当時の1999年8月に住基ネット導入の改正住民基本台帳法が成立したが、日本弁護士連合会(日弁連)は参考人質疑で「住基ネットが定着すると住民票コードは各省庁や市町村が別々に保有する膨大な情報を集積する個人識別番号となり、国民総背番号制につながるおそれがある」と反対した。小渕首相は「個人情報保護法制の整備が住基ネット稼働の前提条件」と約束し、やっと改正法を成立させた。

 森喜朗政権は2001年3月、個人情報保護法案を閣議決定。政府・行政が持つ個人情報の使用統制から始まったはずの議論が民間の個人情報取扱事業者規制にすり替わり、報道の自由を脅かす内容となったため、猛反発を呼んだ。2001年4月就任の小泉純一郎首相は02年末に法案を廃案にした。しかし、01年9月の米同時テロと03年3月のイラク戦争開戦を受け、5月にはメディア規制部分を削除した新しい個人情報保護法が成立。6月には武力攻撃事態法など有事関連法も成立した。

 02年8月の住基ネット第1次稼働時に東京都杉並区、福島県矢祭町などが「住民のプライバシーが守れない」と不参加表明。個人情報保護法制の未整備が主な理由だったが、03年8月に住基ネットが本格稼働し、05年の個人情報保護法全面施行で政府は「住基ネットに反対する理由はなくなった」と主張した。

 しかし、大阪高裁は06年11月「防衛庁がかつて約800の自治体から自衛官にふさわしい人についての情報をもらっていたこと」(朝日)などを指摘、名寄せによる危険性にも着目、住基ネットに違憲判決を出した。

 一方、最高裁判決は①住基ネットの扱う情報は氏名、住所などで、個人の内面にかかわる秘匿性の高い情報ではない②住基ネットの仕組みに外部不正アクセスで情報が容易に漏えいする具体的危険はない③公務員による情報の目的外利用は懲戒処分や刑罰で禁止されている――として「プライバシー侵害の危険なし」と判断した。高裁判決前後も相次いだ住民票コードのネット大量流出や、他人になりすまして住基カードを不正取得し携帯電話の契約や銀行口座を開設するなどの不正行為は考慮されなかった。

 反対論の底にあるのは「自衛隊や刑務所、学校などでの情報流出があった。社会保険庁職員による年金記録ののぞき見もあった。公務員が不正利用をしないという保証はどこにもない」(東京)という公務員不信だ。だから「公務員に対しても個人情報保護について規定を強化」(毎日)することを求めている。

 そして、筆者は「情報化社会は便利だが、デジタルデータ化された個人情報は関門がなければバキュームのように国家に吸い上げられる。あれだけ個人情報を大切にする米国でも9.11後、国家が個人情報をやみくもに収集し、貧困層青年をイラクに送り込む資料にしたといわれる。便利に流されるのか、時にはやせ我慢をするのか、個人に覚悟を迫る時代である」と記事を結んでいた。

 3月の最高裁判決以降、年金記録問題が大きく燃え盛り、官僚不信が広がったが、逆にすべての情報をネットで結ぶ必要性も認識されてきたようにも見える。

 森信氏の言うことは正しいのだろう。

 ただ、今の公務員法のまま国民総背番号制を導入されてはたまらない、という国民の気分にも配慮してほしい、と思う。

 公務員は個人の責任を問われないのが一般的だ。公益に奉仕し、なおかつ上命下達の組織の中で動いているから、個人判断が問われることはない、という理屈らしい。

 しかし、一般企業がここ数年、コンプライアンスを重視し、社内統制も格段とレベルアップしているトレンドを知れば、公務員だけなぜそういう流れと無縁なのか、疑問が生じるだろう。

 公務員は個人責任を問われるべきだ。「天皇の官僚」だった明治憲法下の官僚制が敗戦後も生き残ったとしても、それを今こそ変革すべきではないか。

 その大変革は内閣の二つや三つが吹っ飛ぶ改革になるだろうから、大連立政権でも何でも強力な政治的リーダーシップを持った政権でなければ実行不可能だろう。

 その改革ができて初めて国民は総背番号制を受け入れると思うのだ。

 森信氏は朝日・日経・読売3紙が共同運営するネットの「あらたにす」で12月1日、「注目点満載の予算編成」という論文を掲載していた。

 人物紹介には、1950年広島県生まれ。73年京都大学法学部卒業後、大蔵省入省。英国駐在大蔵省参事(国際金融情報センターロンドン所長)、主税局調査課長、税制第二課長、主税局総務課長などを経て、99年大阪大学法学研究科教授。2003年東京税関長、05年財務総合政策研究所長、06年中央大学法科大学院教授、07年ジャパン・タックス・インスティテュート(japantax.jp)所長、東京財団上席研究員。この間、東京大学法学部客員教授、コロンビア・ロースクール客員研究員を歴任した。主な著書に『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書ラクレ)、『わが国所得税課税ベースの研究』(日本租税研究協会)、『日本の税制』など、とあった。

 大蔵官僚出身だが、広い視野で国民負担問題を考えている人のようだ。

 ここでは、麻生首相の「地方へ1兆円」発言の迷走ぶりを批判している。

 <そもそも来年度から道路特定財源制度はなくなるのだから、「そこから1兆円」というような思考方法自体がおかしい、ということに気が付いていない。一般財源化するということは、揮発油税収が消費税や所得税と同じく一般会計に入り歳入予算となり、別途全体のバランスを考えながら歳出使途を決めることになるわけだが、揮発油税収から1兆円を地方へ、という発想は、いまだ目的税・特定財源制度を前提とした発想だ。>

 というのはその通りだ。面白かったのは、

 <気になるのは、マスコミは地方(というか地方分権)に甘いことだ。今回の「地方の一般財源として1兆円交付する」ことが、なんとなく肯定的にとらえられているが、談合、裏金、汚職、機能しない地方議会等々地方の問題は国の比ではない。分権し地方自治体に任せたら、それだけでうまくいくというのは幻想だ。任せていくしかない(地方分権)のであれば、規律や監視を厳しくする制度を併せ導入していくべきだろう。>

 というくだりだ。厳しいマスメディア批判であるが、その通りだろう。メディア関係者はもう少し勉強しなければならない。

 消費税問題に触れて、少しだけ社会保障と税の問題に触れているが、スタンスがぶれないのはいい。ただ、森信氏のようなプロフェショナルにも公務員の責任問題が大きな国民的反発の原因になっていること、何らかの対策を取らなければ、いずれ変な場面で爆発しかねないことを認識していただきたいものだ。

(12月14日追記)森信先生、コメントいただきありがとうございました。なかなか難しいでしょうが、年金問題にしても医療問題にしても、会社から追い出された若い非正規労働者たちが泊まるあてもなく街にあふれる年末年始を想像すると、「今を逃すと改革の機会が遠のく」などというような、いつもの言葉では足りない切迫したものを感じます。子々孫々、日本人として誇りを持って生きられる希望あふれる社会システムの制度設計をよろしくお願いします。頑張ってください。

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コメント

偶然このブログを拝見しました。大変貴重なコメントをいただきました。ご意見を踏まえて考え方を進めていこうと思います。ありがとうございます。森信

投稿: | 2008年12月13日 (土) 23時20分

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