社会保障番号と納税者番号についての森信茂樹・中央大学法科大学院教授の提言~1月15日アラタニスより
「あらたにす」のヒット数が少ないらしいが、私は毎朝チェックして、<新聞案内人>の提言を読むのを習慣としている。今朝の<新聞案内人>は以前、このブログにコメントをくれた森信茂樹・中央大学法科大学院教授の「『番号」の議論が始まる~社会保障番号と納税者番号」だったので興味深く読んだ。森信教授は「国民総背番号制」導入の検討を与党に強く求め、その視点を「行政の利便」ではなく、「弱者の保護」に転じるべきだ、と言っている。焦点のプライバシー保護との関係では会計検査院にチェック機能を持たせればどうか、という提言だった。
基本的に賛成だが、いくつかコメントしたい。森信教授の文章を引用しながら見ていこう。
<今年の政策課題のひとつは、社会保障番号や納税者番号といった番号制度について議論を深めることではなかろうか。>
として、昨年11月の社会保障国民会議(座長・吉川洋東大教授)の最終報告書(「社会保障に関する情報・データの開示、国民一人一人のレベルで社会保障の給付と負担を分かりやすく示すための社会保障番号制」導入の必要性をうたう)▽12月24日閣議決定の「中期プログラム」(税制抜本改革の基本的方向性として、「納税者番号制度の導入の準備を含め、納税者の利便の向上と課税の適正化を図る」)▽直前決定の与党の税制改正大綱(「納税者番号制度については…社会保障番号との関係の整理等を含め…国民の理解を得て、早急かつ円滑な導入をめざすべきである。…与党内に納税者番号に関する検討会を立ち上げ、制度の導入に向けて精力的に議論を行うこととする」)を例示し、
<これらを総合的に解釈すると、国民利便のために、社会保障番号の導入検討を進め、それを納税者番号の導入に続けていくということになる。>
とまとめている。その通りだ。っして、番号制導入についての各紙社説のバラバラ具合に話を転じる。社説がバラバラということは、国民合意形成がなされていないことの一つの具体例だ。「社会保障カードと社会保障番号を導入するメリットは大きい」(読売2008年8月17日)▽「国民に役立つ社会保障番号の制度設計を」(日経07年6月22日)は積極導入論。一方、朝日社会保障番号の検討は、「混乱の中で拙速に決めることは避け、中期的な課題として検討すべきだろう」(07年6月29日)と消極論。
<朝日の慎重論の背景には、「個人情報が一つの番号に整理され、国が情報を串刺しに管理することには、国民の抵抗感が強い」(同年7月15日)という懸念があるようだ。>
という森信教授のお説通りだ。そして、政府・与党が番号制度に触らなかった理由は「朝日の社説にあるプライバシーの問題を乗り越える自信がないから」だろうこともお説ご尤もである。そして、提言になる。
<私は、プライバシーへの懸念に対しては、プライバシー基本法の策定と政府の行動を監視する機構の設立(例えば会計検査院の機能拡充)で対応するセットで、まず国民の受益に直結した社会保障番号を導入し、次にそれを活用した納税者番号を導入することが必要だと考えている。プライバシーの問題に対しては、国民の漠たる不安を理由に議論そのものを避けるのではなく、突っ込んだ議論を行うべきだ。>
と会計検査院の拡充をあげる。「国民のばくたる不安」なのだが、なぜ「ばくたる」なのか。はっきりとした理屈にならないが、何かおかしいのではないか、という感情だろう。私はこの「漠たる」が案外重要ではないか、根深いのではないか、と思っている。
なぜならば、以前も書いたようにこの感情は戦中の軍人と「新官僚」中心の国家体制を憎む国民感情が現在の官僚不信につながっているのではないか、これは戦中世代が死に絶えても国民の記憶として長く残るのではないか、と思っているからだ。
だから、実は会計検査院の機能強化という手段が国民に受け入れられるか、危惧するのだ。本来は国家公務員法と関連法を改正し、官僚個人の不法行為の責任も問われることを明記し、罰則も重くし、なおかつ情報公開を確立する。といっても、現時点での情報を公開すると新左翼系弁護士と共産党だけが利用するかもしれないので、福田康夫前首相が意欲を燃やしたように公文書公開制度の充実を図ることが大切だ、と思う。
森信教授の文章の続きを見てみよう。
<これまでの納税者番号導入論が、適正課税の確保や徴税事務効率の向上といった、徴税側の理由に偏っていたのに対して、今後は、一定所得以下の人を対象とした給付付き税額控除のような新たな税制を導入する際の低所得者・家族単位の所得捕捉や、税制優遇のついたポータブル年金の管理といった、国民・納税者利便の立場からの検討を行うことだ。>
という主張である。これにも賛成だ。「おためごかし」とか「目先を誤魔化すのか」などの批判がおきるかもしれないが、小手先ではなく、制度の根幹にこのような思想を置いておくことは大切だ、と思う。
いずれにしろ、今年は番号制度の論議が本格化するだろう。その時に、官僚の誤魔化を排除して、官僚の責任の明確化ができるかどうか、が勝負だろうと思っている。
| 固定リンク
« クリントン氏、北朝鮮の核に圧力を強化へ~毎日新聞1月14日夕刊+朝日新聞、日経新聞15日社説 | トップページ | 「オバマ政権は北朝鮮に融和的」とケネス・キノネス氏が予想~1月15日毎日新聞朝刊[世界の目] »
「財政・社会保障」カテゴリの記事
- 坂村健東大教授の国民カード構想は検討に値する+技術進歩と法の壁の問題も~3月18日産経新聞[正論]と3月22日毎日新聞朝刊[時代の風](2009.03.18)
- 「リハビリ棄民」という「小泉人災」を告発する多田富雄氏の論は説得力がある~朝日新聞3月2日朝刊寄稿(2009.03.02)
- 面白きこともなき世を面白く:高杉晋作=榊原英資=近藤勝重~毎日新聞2月18日夕刊から(2009.02.18)
- 赤木智弘氏の「人間爆弾」のような衝撃的な発言~毎日新聞1月9日朝刊[論点]より(2009.01.09)
- 社会保障番号と納税者番号についての森信茂樹・中央大学法科大学院教授の提言~1月15日アラタニスより(2009.01.15)


コメント