クリントン氏、北朝鮮の核に圧力を強化へ~毎日新聞1月14日夕刊+朝日新聞、日経新聞15日社説
ヒラリー・クリントン氏が米上院外交委員会に堂々たる姿を見せた。
夫のクリントン大統領時代には「ジャパン・パッシング」を夫に働きかけ、中国ばかり注目していたので、てっきり中国贔屓の女だと思って、嫌っていたのだが、どうも少し変身したらしい。本物かどうかは見極めがいるが、どうも「日本重視」に心変わりしてくれたようにもみえるのだ。
◆毎日新聞1月14日夕刊報道
毎日新聞1月14日夕刊は総合面トップでこのニュースを報じた。見出しは<クリントン氏/北朝鮮核 圧力強化へ/国務長官公聴会/政策転換を示唆/「中東和平あきらめぬ」>だった。
ワシントン支局の草野和彦特派員は記事の中で、クリントン氏が「原則と現実の融合」に基づいた外交政策を推進する姿勢を強調し、ブッシュ政権の「硬直した理念主義」との差別化を明確にした、としたうえで、
<核不拡散重視の立場から、緊急課題の一つに北朝鮮の核問題を挙げ「これまでのすべての交渉内容を見直している」と述べ、圧力強化に向けた政策転換の可能性を示唆した。>
と書いていた。
<クリントン氏はブッシュ政権の北朝鮮に対する「敵視政策」が同国の核実験を招いたとする立場。核実験後、現政権は米朝交渉を通じて核計画申告などで譲歩を重ねてきた。クリントン氏は北朝鮮の申告で非公開扱いになったウラン濃縮計画やシリア核開発への協力について「信じるに足る理由が存在する」と指摘。6カ国協議の枠組みを重視する姿勢を見せながらも、問題解決に向け「タフな」対応を取ると述べた。>
というのだ。
6カ国協議関連のこれまでの文書をすべて読み、勉強しているというから、昔のオルブライト国務長官訪朝の失敗も反省しているだろう。これ以上、北朝鮮融和策に走らないよう期待しよう。
NHKの午後7時のニュースでもクリントン氏の国務長官指名承認公聴会を長い時間かけて放映していた。アーミテージ元国務副長官のインタビューも交え、クリントン氏が掲げた「スマートパワー」の解説を聞いていた。
もともと「スマートパワー」はアーミテージ氏とナイ元国防副長官が書いた報告書のタイトルだ。国力の落ちた米国が軍事力だけでなく、外交の力、ODAなどをうまく組み合わせながら国際的な威信を取り戻すための策である。
NHKによると同盟国重視も大きな項目として入っており、クリントン氏はアジアで日本を同盟国の1番目にあげたらしい。
NHKもクリントン発言の中の北朝鮮政策について大きく報じたが、米国ではこの部分は注目されていないようだ。
というのも、米CNNテレビのホームページは<クリントン氏が公聴会証言/アフガン・イラクを優先課題に>の見出しで報じたが、北朝鮮のくだりはなかった。
きっと米国内では政府も増す・メディアも北朝鮮に関心がない、というのが実態なのだろう。中東で戦火が起きているし、北朝鮮は表面上は静かなのだから。
◆米国では北朝鮮部分は注目されなかったのか?
CNNによると、
<クリントン氏は冷戦終結後『最大の危機』に直面している国際社会で米国の指導力回復を目指す方針を明言>
<オバマ次期大統領が最優先に位置づけるアフガニスタン政策に加え、米軍のイラク撤退に取り組む姿勢を表明した>
という。また、イラン政策については「まだいかなる選択肢もまだ取り下げられていないが、新たに従来とは異なるアプローチを取る可能性をにじませた、としている。
きっと親イスラエルのクリントン氏がオバマ氏に働きかけてイスラエルよりの和平案でまとめようとするのだろう。
そっちはヨーロッパとアメリカに任せておくとして、日本にとって重要なのが北朝鮮政策である。同盟国重視がどう具体化するのか。拉致問題の解決をゴリゴリ押していけば、北朝鮮は困り抜く。核開発を手放すまいと思っても、拉致解決まで日米韓が援助をしなかったら、中国だけが突出して援助するわけにもいかず、北朝鮮国内でいろいろの動きが出てくるかもしれない。
まあ、お手並み拝見といこうじゃないか。
◆日経新聞1月15日国際面記事
日経新聞1月15日朝刊国際面<クリントン米次期国務長官/対北朝鮮・イラン「直製外交の用意」/軍事力に頼らず>のまとめ記事に付けた項目別の発言要旨の中で北朝鮮について、
<核計画にはプルトニウムと高濃縮ウラン双方が存在すると信じるに足る理由がある。(核問題解決に)積極果敢に取り組む。>
という発言を紹介していた。
◆朝日新聞の社説は何を書いているんだか……
朝日新聞が15日第1社説<米国の新外交/「力」から「賢さ」への転換>で取り上げていた。北朝鮮がらみの部分だけ写しておこう。
<「米国だけでは難題を解決できないし、世界も米国抜きでは解決できない」。オバマ米次期政権の国務長官に指名されたヒラリー・クリントン上院議員が、こんな表現で国際協調主義を語った。>
という書き出しで、
<悪の枢軸や中東民主化といったスローガンを掲げて「力の論理」をむき出しにしたブッシュ外交からの決別宣言である。>
と持ち上げる。
<単独行動主義からの脱却を歓迎したい。>
というのは、その通りだ。中東和平での役割の大きさを説き、北朝鮮に関しては、
<アジア政策で急を要するのは北朝鮮の核問題だ。6カ国協議の枠組みを継続しつつ、場合によっては重油支援中断で圧力をかける構えも見せた。硬軟両様で臨むということだろう。>
とさらりと触れただけ。
<日米同盟を「アジア太平洋の平和と安定の礎石」と位置づけ、中国には「国際社会の全面的で責任ある参加者」になるよう呼びかけた。>
と簡単に触れた。朝日新聞社説らしいのは、
<新政権が日本重視か、中国傾斜かという、ありがちな議論には意味がない。この地域、そしてグローバルな課題に日米基軸で中国をどう巻き込み、協力していくか。その構想を持ってこそ健全な同盟関係が築かれる。>
と結びで書いたところか。こういう議論は無意味なだけでなく、有害なのだ。後で書く。
◆日経新聞の社説は良かった
日経新聞1月15日社説<オバマ大統領の登場を待つ世界と日本>には直接、クリントン演説には触れていないものの、オバマ外交の基本方針を論じ、示唆される部分が多かった。
社説はオバマ氏が就任直後にどこを訪問するかが注目される、として、常識的に言えば4月にロンドンで開く金融サミットだろう、と。だが、安全保障面で世界システムを考えればロシアかもしれない、と。また、イラク戦争を批判し、アフガニスタンでの戦いを重視する選挙中の発言から考えればアフガニスタン、パキスタンも考えられる、という。そして、
<実利的理由からオバマ政権が中国に傾斜する可能性もある。民主党の政策綱領にあるアジアにおける多国間の安全保障機構構想は日米同盟を相対化する恐れがある。>
と説く。朝日新聞の主張より、こちらのほうがずっと説得力がある。
朝日新聞の社説は日米同盟か米中か、という問いを「ありがちな議論」と一言で切って捨てる。これは戦時中だったら「そんな議論は非国民」と非論理的に切って捨てていたのの裏返しに過ぎない。つまり、真剣に考えよう、議論しよう、という態度が全く見えないのだ。朝日新聞がダメなところだ。
日経新聞社説の続きを読む。
<日本から特に求めたいのは、ブッシュ政権後期の融和的な北朝鮮政策の転換であり、関係者の一掃である。ライス国務長官、ヒル国務次官補らによる融和政策は北朝鮮を信頼できるとする幻想を前提とした。非核化に向けた検証措置をめぐる文書も作れず、失敗に終わった。日米同盟には不信感が残る。オバマ氏がリアリストなら、幻想を前提にして失敗した交渉を繰り返せないはずである。だからこそ米国の新政権発足後、時間をおかずに日米首脳会談が開かれるのが望ましいが、麻生政権は外交に目を向ける余裕があまりない状況にみえる。同盟強化への条件を欠く日本の内政の現実が痛い。>
である。
一方、朝日新聞1月15日朝刊国際面<クリントン氏/日本の役割拡大を/対北朝鮮、重油中断継続も>では北朝鮮の核問題でブッシュ政権が12月の6カ国協議で北朝鮮が核計画の検証計画の合意を受け入れなかったことから、関係国による重油支援中断を打ち出したが、クリントン氏は協議内容を精査する、としながら「中断維持も十分あり得る」とした、と書いていた。日本へのリップサービスでなければいいが。
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コメント
米メディアは違うにしても、クリントンが東アジアにも気を配っているという
ことは大変、ありがたいことだと思います。
やはり日中韓のみのアプローチでは、なにより北朝鮮の意図を無視している
ことになってしまいますし。
しかし、北朝鮮に圧力を強めるとは、いったい具体的にはどのような政策を
クリントンは考えているのでしょうか?
アラかんさんはアメリカにどのような具体的な政策をお望みなんでしょうか?
(他の記事で既出していたら失礼しました・・・)
投稿: コールフィールド | 2009年1月14日 (水) 22時08分
コールフィールドさんからのお尋ねですが、私は以前、黒井文太郎氏の著書の書評を書きました。そこで、北朝鮮の核についての基礎知識を得たのですが、核開発についてはあまりにも不透明な時期が多すぎて、今、北朝鮮が核爆弾をいくつ持っているか、も分からない状態のようです。
米国は衛星で北朝鮮を監視しているので、ミサイル開発やプルトニウム型原爆の開発など多くの機材の移動を伴うものは監視できるのですが、濃縮ウランを使った核兵器は高性能の遠心分離器がたくさんあれば機材の移動などを伴わずにできるそうです。現在はまだノドン・ミサイルに積載できるような小型核の開発は出来ていない、といいます。しかし、識者が言っているように時間をかければ開発に成功するかもしれません。
ミサイル搭載核を北朝鮮が持った時には日本の安全保障は危機状態に陥ると思っています。米国は本当に日本を守るでしょうか? まずそこから考えなければならない時代だろうと思います。
それが冷戦崩壊の意味だと思います。
日本の安全保障をどうするか。米国との安全保障関係をどうするか、などを真剣に考えなければ、日本は漂流するのではないか、と思っています。
いくらグローバル化しても国際政治の単位は国民国家だと思います。
日本人の生命・健康・財産を大切にしながら国際的に貢献するためにどうすればいいのか、そのために米国とどう協調していくのか、アジアとの関係をどう構築するか、などの中で北朝鮮問題を考えなければならないのですが、基本は国民国家日本の安全を守ることだ、と思っています。米国が戦後60年間と同じように日本を守ってくれるのか、そうでないのか。米国に安全保障の大きな部分を依存している日本人は凝視せざるを得ないのではないか、と思っています。
ですから、クリントン国務長官というかオバマ政権が北朝鮮政策で何をするか、分かりませんが危険なのは、今までのブッシュ政権のように核爆弾の1発、2発は黙認する、核拡散をしなければいい、という姿勢だろうと思っています。北朝鮮に核爆弾を持たせてはいけないのです。日本のそのような安全保障観を米国がきっちりと理解してくれるのかどうか。また、弱体な日本の政権が米国にしつこく何度もそういう主張を繰り返して行動させることができるのか、に注目していきたいと考えています。
投稿: アラかん | 2009年1月15日 (木) 12時21分