宮内義彦社長参考人招致へ~産経新聞1月8,10日朝刊と朝日新聞10日朝刊から
すべては鳩山邦夫総務相の1月6日夜の発言から始まった。
「正義感を持って対応する。『李下に冠を正さず』ということは大事だ」。
日本郵政がオリックスグループに「かんぽの宿」70施設の一括譲渡を決めたことに異議を唱える国民新党の亀井久興幹事長らが総務省に鳩山総務相を訪ねると、鳩山氏はそう言って契約撤回に向けて働きかける考えを表明した、という(産経新聞1月8日1面トップ<オリックス譲渡「出来レース」「経営の判断」/「かんぽの宿」新たな火種>)。
オリックスグループの最高経営責任者(CEO)である宮内義彦氏が小泉純一郎内閣で総合規制改革会議議長などを務め、郵政民営化推進派とされるだけに「お手盛り」批判は否めない。産経新聞は「鳩山氏が野党の追及を見越して先手を打ったようだ」と書いているが、「適正な商取引」とはいえ、そう見られる危険性が十分あったのに、なぜ宮内氏はこんな判断をしたのだろうか。
この問題はまだ謎がたくさん残っている。
しかし、1月10日までの新聞を見ると、大体の輪郭は浮かんできたので、一応まとめておこう。
事の次第は1月8日の産経新聞に詳しいので、エッセンスを書き出しておく。
鳩山氏は1月6日夜、都内のホテルで開かれた「九州選出国会議員の会」を中座する際に記者団に「オリックスは立派な会社だが、譲渡に国民が納得するか。出来レースと受け取られかねない。率直にまずいと思う」と語った、という。これが始まりだった。産経新聞は、
<唐突な発言に見えたが、実は鳩山氏は用意周到にチャンスを狙っていた。鳩山氏は昨年12月26日、新聞各紙の報道で譲渡話を知り「おかしいな」と思ったが、仕事納めだったこともあり、コメントは出さず、周辺に調査を命じた。調査結果を受けて、鳩山氏は①なぜオリックスなのか②なぜ一括譲渡なのか③なぜ不動産価格が急落しているこの時期なのか――の3点について日本郵政に問い合わせたが、納得のいく説明はなかったという。同時に鳩山氏は国民新党や民主党が国会での追及に向けて動き出したことを知り、「このまま問題を放置しておけば予算審議は大混乱になる」と判断し、異を唱えるチャンスを狙っていたようだ。>
そういうことだったのか。
もともと鳩山邦夫氏は郵政民営化には批判的な議員だったのだろう。
亀井久興氏は郵政民営化反対で自民党を離党、国民新党を立ち上げた人物だ。小泉純一郎氏の呪縛が完全に解けたということだろう。
安倍晋三政権で野田聖子氏らが復党し、平沼赳夫氏だけが残ったが、この時に郵政民営化の小泉路線の修正ではないか、と早くも言われていた。
あれから約2年。水面下では郵政民営化に反対する勢力が相当に力を盛り返してきたのかもしれない。
<宮内氏は平成3年(1991年)から18年(2006年)まで総合規制改革会議(現・規制改革会議)議長などを務め、行政改革や規制緩和の論客として数々の提言を行ってきた。郵政民営化の論議は経済財政諮問会議で進められたが、宮内氏も民営化推進派の一人とされてきた。>
この略歴は正しいのか?
鈴木善幸首相の1981年に第2臨調が発足し、土光敏夫氏が会長となり、それが1983年の第1次臨時行政改革推進審議会(行革審)、1987年の第2次行革審、90年の第3次行革審と進み、1994年には行政改革委員会ができた。
そして、1996年の行政改革会議に引き継がれてきた、という歴史があり、この流れは97年の行政改革会議最終報告で内閣機能強化、内閣総理大臣の指導性の強化を打ち出し、この報告に基づいて橋本龍太郎政権が1998年に中央省庁等改革基本法を成立させ、2001年には1府12省庁が誕生した。
この行政改革の流れの支流として生まれたのが規制緩和の流れだった。
臨調・行革審の各報告書、答申にも規制緩和は盛られていたが、規制緩和に特化した形で1995年に行政改革委員会規制緩和小委員会が設置されて、規制緩和が本格化する。
これはその後、1998年には行政改革推進本部規制緩和委員会、1999年の規制改革委員会、2001年の総合規制改革会議、2004年の規制改革・民間開放推進会議、2007年の規制改革会議と受け継がれて今に至っている。
そして、1995年に発足した規制緩和小委員会の委員長から2006年10月に規制改革・民間開放推進会議の議長を草刈隆朗・日本郵船会長に交代するまで11年間にわたってトップの座にいたのが宮内氏だった。
宮内氏がいかに橋本行革路線、小泉構造改革路線の内幕を知る立場にいたか、を物語る経歴だろう。
たしかに小泉構造改革では経済財政諮問会議が「改革の司令塔」であり、総合規制改革会議はその下にある、という位置づけだったが、実は規制緩和の段取りを決めていたのは総合規制改革会議だった。
構成員は経済界10人、学者5人で、労働界からの代表を入れずに、労働規制緩和を進めやすい体制を敷いたのが特徴だった。総合規制改革会議には奥谷禮子ザ・アール社長、佐々木かをりイー・ウーマン社長、河野栄子リクルート会長兼CEOという3人の人材派遣業トップも入っていた。
面白いのは五十嵐仁「労働再規制――反転の構図を読みとく」(ちくま新書)に紹介されているエピソードだ。
| 労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書) 著者:五十嵐 仁 |
1994年2月24日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」で大手企業トップら14人が日本的経営を提案するため泊り込みで激しい議論を繰り広げた。この「舞浜会議」で有名な「今井・宮内論争」が繰り広げられたそうだ。日本的経営対アメリカ的経営と集約されるその論争は雇用対株主価値、社会の論理対資本の論理、ステークホルダー論対株主価値論という内容だったようだ。
そして、この論争を盛り込んで日経連の「新時代の『日本的経営』」が1995年5月に発表され、その後の市場原理主義的な規制緩和を導いた歴史的文書といわれるのだが、この報告書を書いた小柳勝二郎日経連賃金部長は「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた。これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実として抓み食いされた」(朝日新聞2007年5月19日朝刊)と語っている、というのだ。
五十嵐教授も言うように「人中心」というのは「日本的」と近い概念なのだが、構造改革推進派(国際派)が都合のいい部分だけを抓み食いした結果、その言わんとしたことが逆の意味に転じてしまった、というのだ。
週刊エコノミスト2007年1月30日号の「立案者が証言する『歪められた規制緩和』」で小柳氏は雇用のポートフォリオについて「固定的でなく柔軟に対応できるような仕組みで弾力的な働き方を根底に置いていた」として、「身分の固定化を意図したものではなかった」との質問には「その通りだ。報告書にもはっきり「書いてある。この点、誤解があってはいけないので、私たちも非常に注意し、いろいろな場で説明した。しかし、『このグループに入ったらこっちに行かれない』という話にすり替わってしまった」と述懐している、とあった。
そして、五十嵐教授は抓み食いしたのが「平成の政商」といわれる宮内義彦氏と牛尾治朗氏だとズバリ書いている。
宮内氏が規制緩和にかかわったのは最初は経済同友会の回り持ちの順番だったから、ということのようだが、それが自分のビジネスにも役立つと気づいたのだろう、という。
有森隆+グループK著「『小泉規制改革』を利権にした男 宮内義彦」に「宮内は公人と私人(企業人)の立場を実に巧みに使い分ける。公人としては参入障壁が高い分野の扉をこじ開け、企業人としては先頭に立ってその分野に新規参入する。政治家や政府高官との結び付きを利用して経済活動上の利権を得たり、政策を自己に有利な方向に誘導したりする企業家を政商という。宮内は政商にほかならない」とある。
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「小泉規制改革」を利権にした男 宮内義彦 著者:有森隆とグループK |
五十嵐氏は宮内氏が上からの改革を主導してビジネスチャンスを作り出し、経済活動の利権を得た、ことを重視し「これを改革利権という」と言っている。
森功著「サラリーマン政商」では「かつて単なるリースを生業とするノンバンクに過ぎなかったオリックスは、規制緩和に合わせて業務を拡大させ続けてきた。いまやオリックスグループの機関事業に発展している不動産事業の成長はとどまるところを知らない。債権の買取総額が4兆3000億円に達したサービサー事業では、前年比5000億円増という驚異的な伸びを示している」と書いた。
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サラリーマン政商―宮内義彦の光と影 著者:森 功 |
宮内、牛尾両氏が所属する経済同友会と重厚長大産業のトップが多い日本経団連の路線対立が多くなり、今も続くのは底流にはこうした政商ぶりを嫌気した日本の昔ながらの経営者たちの矜持があるのあろう、と思う。
そういう経歴を知っていると、産経新聞のこの経歴は不十分だ、と思うのだ。
話を本題に戻そう。
産経新聞は譲渡の経緯を書いていた。
<日本郵政は昨年4月、年間約40億円の赤字を出している「かんぽの宿」譲渡に向けて公募を開始。27社が応じ、2回の入札を経て12月26日にオリックスの100%子会社であるオリックス不動産への一括譲渡が決まった。関係筋によると総額109億円で帳簿価額123億円を大幅に下回るという。>
これだ。政商宮内の本領発揮じゃないか。
<日本郵政は、かんぽの宿の事業を継承する子会社を設立し、4月1日にオリックスへ譲渡する予定だが、会社分割には総務相の認可が必要で、鳩山氏は「認可しないことも十分ある」と明言した。日本郵政の株式は100%政府が保有していることをテコに契約撤回を促す可能性も示唆している。>
鳩山いいぞ、やれっ、という声が大向こうから聞こえそうだ。しかし、である。
<ただ、自民党内の「改革派」には「経営の判断であり、どこがおかしいのか」(幹事長経験者)との意見も出ている。>
きっと中川秀直氏だろう。こんなこと言うなよなぁ、と思った。
<オリックスは7日、「当社が把握している限り、総合規制改革会議などの過去の答申中に郵政民営化というテーマは出ていない」とのコメントを発表し、宮内氏と郵政民営化の関係を否定。「一括譲渡は日本郵政が求めていた条件であり、オリックスは公正な手続きで譲渡契約を結んだ」(社長室)と説明した。日本郵政は「コメントできない」(報道担当)としている。>
というのが記事のすべてだ。
そういうことだろう。
五十嵐氏の著書にもあるように規制改革会議では郵政民営化はやっていない。だから、いいだろう、とゴネているのだ。往生際が悪いなあ。これが適正手続きなのかどうか。国会で相当にやられるだろうが、デュー・プロセスという概念よりも株と同じくインサイダー取引にあたるのではないか、と思う。
産経新聞の粘りはすごい、と思ったのは1月10日朝刊総合面<総務相「譲渡見直し」/かんぽの宿/民主、国民新も賛同>で民主党の枝野幸男衆院議員が宮内義彦氏の予算委員会への参考人招致を要求したことを書いていたことだ。
民主党は来週以降、衆院総務委員会でも宮内氏の招致を求めるのだという。国会に引きずり出すことが大切だろう。ようやく小泉構造改革の負の部分への切込みが始まろうとしている。
「100年に一度の大不況」などという脅し文句に浮き足立ってアタフタするのではなく、国民の財産が不当に安く政商に売り捌かれてしまうことを阻止できるかどうか、に注目しよう。
こういう社会不安の時には政商はチャンスとばかり甘い汁を吸う。歴史で実証されている。小佐野賢治にしても児玉誉士夫にしても国民が敗戦に打ちひしがれていた時、軍の退蔵物資を横流しして戦後の富を手に入れ、自民党結党時にカネを出すことで、罪を問わない裏約束ができた。今も戦後の混乱期のようなものである。政商は舌なめずりしている。鳩山氏はいいことを言った、と思う。
産経の10日朝刊に戻る。衆院予算委員会で「かんぽの宿」問題が取り上げられ、日本郵政の西川善文社長が参考人として出席した。国民新党の亀井久興氏の「不動産価格が下がる悪い時期になぜ焦って売るのか」と質問すると西川氏は「従業員が先行きの雇用を心配している。不採算事業なので、早く譲渡したい」と優等生答弁をしたそうだ。
面白かったのは鳩山総務相の発言。宮内氏が議長を務めた政府の規制改革・民間開放推進会議(現・規制改革会議)が平成16年(2004年)8月の中間報告で「公的宿泊施設の廃止または民営化」を盛り込んでいた事実を指摘し「法的に問題はなくとも国民から『出来レースだ』と疑念を抱かれる」と述べたことだ。
踏まれても潰されても死なない政商だから、このくらいの証拠ではギャフンと言わないだろうが、民主党が何か決定的な証拠を探せるのかどうか。期待したい。
朝日新聞は1月10日朝刊政策面トップ<かんぽの宿どこへ/オリックスへの売却案に総務相異議/なぜ不況時に なぜ一括 なぜ民営化旗振り役に/郵政「不採算、負担」>で今までの論点を整理していた。スタンスは宮内氏寄りだ。というのも前文の最後の文が「赤字事業を抱え続けるという『重荷』を背負う」で終わっているからだ。
大体、新聞記事のスタンスを見るには前文の結びの言葉を見ればいい。著者が言いたいことが凝縮されていることが多いからだ。この橋田正城という記者はなるべく公正に書こうと努力しているのだろうが、問題意識が足りないために、政府のスケジュール通りに進むかどうかだけを気にした文章になってしまっている。
ただ、内容は詳しい。少しピックアップする。
<かんぽの宿は法律で民営化から5年以内の譲渡、廃止が決まっている。そのため、日本郵政は昨年2月、専門家の助言を求めてメリルリンチ日本証券と契約を結んだ。4月には約3200人の雇用と全国70施設の維持などを条件に参加表明を募り、27社が参加。2度の競争入札を経て12月にオリックス不動産と約109億円で契約を交わした。>
<かんぽの宿は年間40億円の赤字事業だ。07年度の宿泊者数は208万人。平均稼働率は約70%と高いが、もともと収益事業ではないため、客室単価が安く、赤字体質から抜け出せなかった。西川善文・日本郵政社長は「不採算事業で持てば持つほど負担」としている。かんぽの宿を抱え続ければ、毎年数十億円の赤字が積み上がるだけに、日本郵政は売却先の選定を急いだ。>
これじゃあ、日本郵政の言うなりの記事じゃないか。
<オリックス側も「かんぽの宿は団塊世代など110万人の顧客を抱え、様々な新商品を提案できる」と経営の立て直しに自信を見せる。かんぽの宿事業の実質的な資産価値は負債を差し引くと93億円。オリックス側の提示額はこれを16億円上回り、応札企業で最高値だった。両社は、適正な手続きを踏んだ上での売却契約であることを強調する。>
そりゃそうでしょう。この資産価値は世界同時不況で不動産価格が軒並み下がっている中での価値なのか? そこが問題だと思う。今売る必要はないじゃないか。
<鳩山氏が認可しなかった場合、売却契約は事実上白紙に戻ることになる。>
そうか。白紙に戻せばいい、と僕も読みながらだんだんと自分が過激になってきているのが分かるので、このへんでやめておく。冷静に考えてもおかしい、と思うのだ。
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コメント
構造改革が、外国勢力と通じた、壮大な陰謀であったことが露呈しつつある。郵政民営化を巡る疑惑ばかりではない。私物化を進めた人物のつながりは相当大きなものであるが、潮目が変わったと云う事か。天罰を期待する以外にない。
投稿: Orwell | 2009年1月12日 (月) 13時48分