時間があったので、5月12日付の各紙社説を読んでみた。小沢一郎・民主党代表の11日午後5時からの辞任記者会見を取り上げた社説である。各社は政治部長論文なども1面に掲載。論説室だけでなく、編集局としての見方も示していた。それだけの大事件なのだろう。
特異だったのは産経新聞の政治部長論文で、小沢氏が首相になる可能性がなくなってホッとしている、と激白していた。この人は本当に小沢氏と肌合いが合わないのだなぁ、と思った。
その他の社説、部長論文に共通していたのは「辞任表明が遅すぎた。おかげで民主党も日本の政治も無駄な2カ月を過ごしてしまった」という小沢氏への批判、そして、「自民党が小沢氏を引き摺り下ろしたのでもなく、民主党の自浄作用で辞めさせたのでもなく、民意、世論が辞任に追い込んだのだ」という手前味噌とも受け取れそうな解説だった。
まあ、新聞とすれば、特に「政治とカネ」問題で神経質な反応を示す40、50代の女性たちを気にして、「企業から大金を貰った小沢氏はなぜもらったか、説明すべきだ」などと法律でも要請していないような要求を小沢氏に突きつけ、更年期の中年女性たちのカタルシスを満足させる必要があったのだろう。
各紙のタイトルを並べてみよう。
朝日新聞 小沢代表辞任/政権選択に向け再起動を
毎日新聞 小沢氏辞任表明/やっと政治が動き出す
読売新聞 小沢代表辞任/世論に追い込まれた末の退場
日経新聞 民主党は「小沢辞任」踏まえ政策勝負を
産経新聞 小沢代表辞任/判断遅すぎ、信頼を失う/後継選びで基本政策を競え
東京新聞 小沢民主党代表が辞任/態勢立て直しを急げ
論説委員も政治記者も辞任表明でホッとした、というのが本音だろう。
何しろ、先日までの状態が続いていたら、小沢氏辞任を他社に抜かれてはいけないし、最後まで辞めない可能性も残っていた。小沢氏は担当の記者には何もしゃべらないし、普通の政治家と違って「側近」にも本心はしゃべっていないようだ、となれば、取材に当たる記者はゴールデンウイークが吹っ飛んだだけでなく、「どこまで続くぬかるみぞ」で、徐々に小沢氏を取材するのが苦痛となり、小沢嫌いになるのはある意味、やむを得ないことだろうなぁ、とも思う。
今回の事態で小沢氏が予期しなかった「逆風」は「年寄りの反乱」だったのではないか、とも思う。朝日新聞の早野透氏、毎日新聞の岩見隆夫氏ら小沢氏が信頼していたベテラン編集委員たちが今回はそろって「小沢辞めろ」コールを繰り返した。ともに、いままでは小沢氏の応援団のような存在だった。政治家でも渡部恒三、藤井という二人の最高顧問をはじめとする「おじいちゃん」たちが、今までお世話になったことも忘れて(?)「小沢辞めろ」と「身内の反乱」を展開した。小沢氏は、これで気持ちがプッツンと切れたのだと思う。
小沢氏は連休中じっくり考えた結果、出した結論だ、としゃべっていた。世論調査の数字を見て、最終決断したらしい。
新聞社の世論調査が政治を動かした、ということなのだろうか。
その「世論調査政局」については、共同通信政治部の柿崎明二記者が「『次の首相』はこうして決まる」(講談社現代新書、2008年10月20日初版、定価756円)で詳しく分析していたので、そっちを見てもらうことにして、解説は省略する。
読売新聞5月11日朝刊1面<小沢氏続投「納得せず」7割/本社世論調査/内閣支持上昇29%>と2面トップ<民主、危機感募る/本社世論調査/代表辞任迫る声も>が最後の引き金になった可能性はある。
しかし、新聞の記事もテレビのワイドショーも鏡に映った姿である。実体通りではないが、そこにまったくない幽霊を描くことはほぼありえない。
元はと言えば、東京地検特捜部政局だった。東京地検が動かなければ、マスメディアがこんなに小沢氏を叩くことはなかっただろう。
東京地検特捜部が西松建設事件の関連という名目で、小沢氏の公設秘書を逮捕、起訴したことである。「政治資金を受け取った」と政治資金収支報告書にちゃんと記載して、ちゃんと届け出ているにもかかわらず、「書き方が間違えている」といちゃもんをつけて無理矢理逮捕した。そんな解釈しかできない逮捕だった。偽装を繰り返し、報告書に記載もしなかった悪質さが際立つ二階俊博・経済産業相のケースはどうも不問にするようである。報告書にちゃんと記載、法律を守って届け出てしている政治家を狙った。
その理不尽さについて、東京地検特捜部は最後まで説明しなかった。
東京地検特捜部の狙いは何だったのだろう、とずっと考えていたのだが、分からなかった。ただ、そうこうしているうちに、地検特捜部の狙った最大のターゲット、小沢一郎氏の引き摺り下ろしは完成したことになる。地検特捜部はさぞや喝采を叫んだことだろう。昨夜など、大宴会をしていたのではないか。
自民党にとってもこれで長期政権が見えてきた。地検特捜部様様である。
こう言っても分からない方々が多いだろうから、少しだけ説明しよう。
一言で言えば「選挙に強いという『小沢神話』を最大の求心力にして、寄り合い所帯と揶揄される民主党をまとめてきた」(日経新聞社説)小沢氏が不在となった場合の民主党の求心力の欠如である。
今後、民主党の新体制の下で、選対本部長なりに就任するかもしれない小沢氏が裏で票集めに尽力しようとしても、
<小沢氏は『政治資金について、一点のやましいところもない』と強調したが、事件について反省し、説明責任を果たそうとはしなかった。辞任するだけで、違法献金事件の批判や疑念を一気に払拭できると思っているのだろうか。政治とカネをめぐる国民の政治不信を増幅させたのに、こうした辞め方が党の信頼回復に結び付くとは思えない。民主党は自民党よりもクリーンな政党だというイメージを、大きく壊した事件であることを忘れてはなるまい。事件の説明責任が消滅するわけではない。有権者は新体制がどれだけ自浄能力を発揮できるか厳しい視線を向けるだろう。>(産経新聞「主張」)
という見方が今でもマスメディアの大勢なので、小沢氏は自由に動き回れないだろう。動き回れば「反小沢」の急先鋒、仙谷由人氏らが騒ぎ、党内は小沢VS反小沢で滅茶苦茶になり、総選挙どころではなくなる可能性もある。
私は肯んじていないのだが、小沢氏は野党共闘を重視する立場で社民党に配慮し、海賊対処法案の修正協議にも応じていない。
自衛隊を海外に出すのに、国会の事前または事後の承認すらない法案がこのまま法律としてできあがる可能性が強まっている。国会承認をつける法案修正には浜田防衛相も内々賛成しているのに、自衛隊とは別の組織にして海外に派遣すべきだ、という社民党の原理主義的な要望にがんじがらめにされ、政権担当能力すら疑われるような対応をしているのが現状なのだ。
しかし、それでも、政権を取れば180度態度を変えて、自民党内の反小泉勢力と手を組み、政界再編をするのだろう、と考えて我慢して見ていた。
ところが、小沢氏のいない民主党はもう方針転換どころではない。最有力候補である岡田克也元代表は、人はいいのだが、こっちもまた原理主義者で、融通が利かず、そのような芸当はできない、と思う。
鳩山由紀夫氏は頭はいいのだが、しっかりした考えがないのか、「宇宙人」のあだ名の通り、ブレが大きく、安心できない。菅直人氏は所詮、市民運動家の頭しか持ち合わせておらず、国家の経綸についての腹が据わった覚悟など、もともとない。松下政経塾の面々は幼稚すぎる。
つまり、民主党には政権を担えうに足る人物はいない、と思う。
だから、新聞は麻生首相に打撃、のような見出しで報じているが、それはあくまで表面的な見方で、じっくりと考えれば、有権者が民主党を選ぶインセンティブそのものが失われる、という結論にならざるを得ないだろう、と思う。
そうなれば、国家組織の大改革は実行されない。官僚は安泰だ。東京地検特捜部も官僚組織なので、官僚の世界の中では「でかした」ということで、法務官僚の持ち分を増やしてもらえる。天下りポストも増えるだろう。
そういう様々な効果が出る「小沢辞任」なのである。
政権交代は遠のいた。というか、もう政権交代は近い将来、起きないのではないか。
それでもいい、と思う。
ただ、その場合、麻生首相には小泉路線からの大胆な脱皮を宣言し、実行してもらわねばならない。そうしなければ、日本が滅びる。
このままで生き残れるほど国際社会は甘くない。中国の脅威にどう対処するか。アメリカの没落をどう補完するか。途上国をいかにして味方につけ、国連安保理常任理事国になるか。なれないことがはっきりした場合、国連以外に頼るべき集団を創設できるのか。課題は山積しながら、何一つ手をつけていないのが現状なのだ。
そうした「大きな物語」を語る記者がいなくなった。
「政治とカネ」もある意味、大切な論点ではあるが、それだけではない、という常識的な考えを理解できる記者がいなくなってしまったようだ。
断罪されるべきは小沢一郎氏ではなく、日本国民の窮乏化を図った小泉純一郎氏と竹中平蔵氏ではないか。
特に竹中氏は改革を掲げながら、その「改革利権」を手にして、貧乏人だったのが、いまや六本木ヒルズ族である。事業をして稼いだ、という話は寡聞にして聞いたことはない。政府の閣僚審議会委員などをしながら、宮内義彦氏らと組んで1億円の物件を1万円で手に入れたら、濡れ手に粟で六本木ヒルズにも住める。
東京地検特捜部は摘発対象を間違えたのではないか、と思っている。
しかし、新聞社の社説を読んでも、そういう趣旨の話は皆無だ。
小沢氏を誹謗中傷するだけで新聞の役目が務まると思ったら大間違いだ、と思う。
◆野中広務氏の読売新聞インタビューには考えさせられた
ただ、その中で唯一、じっくり読んだのが読売新聞[談論]面の[小沢代表辞任]についての識者インタビューだった。ここで野中広務自民党元幹事長が<本当は政治から身を引くべき>の見出しで語っている内容は重要だ。
野中氏は先ほど私が書いたように、
<これまで菅代表代行や鳩山幹事長が小沢氏を擁護してきた。党内が難しい中で、民主党は小沢氏が独裁者として治めるしかなかったからだ。今後それがどういう風に収斂していくのか、今の状態では政権なんて遠い状態で、民主党政権は遠のいたと思う。>
と前置きしながら、1992年に東京佐川からの献金事件で議員辞職し、93年脱税で逮捕された「金丸事件」を引き合いに、小沢氏の心に「司法に対する偏見」があるのではないか、と言う。
<金丸さんの時も局面打開しなかったら徹底抗戦する立場だった。ああいう政党が政権を取ったらどうなるのかという不安を官僚含めて永田町の状況を知っている人は非常に恐怖心をもっていると思う。>
と、検察を含めた官僚に小沢氏への恐怖心が非常に強かったことを強調する。
思い出す。あの当時、理念で対立したわけではなかった。小沢氏の「手法」に反発して、竹下派の後継会長に小沢氏がなることを橋本龍太郎、小渕恵三、野中広務氏らが一生懸命防いだのだった。その「裏に回る手法」への反発である。
<だいたい、以前問題になった(小沢氏の政治団体による)不動産の取得などは異常だ。最近になって企業・団体献金の廃止などと言い出した。今まで一番献金を受けてきた人がああいうことを言うというのは鮮やかではあるが、目くらましだ。>
と自分の経験から紡ぎ出された「重い言葉」を吐き出している。
◆佐々木毅氏の無責任極まるコメント
この部分を読み、この読売新聞の特集面の左側の佐々木毅・学習院大学教授の<民主、一皮むけるか正念場>を読み、奇妙な違和感を覚えた。
佐々木氏は小沢氏が中心となった非自民の細川連立政権樹立の理論的バックボーンとなった人物である。
当時も、田中角栄→金丸信→小沢一郎という集金政治の流れは誰の目にも明白になっていた。小沢・羽田派が自民党から飛び出す竹下派内権力闘争の過程で、各紙は小沢氏の金脈も人脈も書き尽くした。だから、当時の各社の政治記者はほとんど小沢氏らの「改革か守旧か」のスローガンを、「何をバカバカしい。自分が守旧の親分のくせに」とまともに取り合わなかった。
その時に、「いや、そうではない。小沢は本気で勝負してきた」と小沢氏の言い分を正面から受け止めて肯定的に書いていたのが岩見隆夫氏であり、早野透氏だった。そして、民間政治臨調なる奇妙な組織で小沢氏を応援したのが佐々木氏だった。
つまり、佐々木氏は小沢氏の汚さを十分知りながら、日本政治変革のために目をつぶったのである。
それが、今は小沢批判の急先鋒だ。「もっと早く辞めるべきだったという議論は当然だ」といけしゃあしゃあ、と書いている。
あまりの変節漢ではないか。「志」を大切にしなければならない政治に関わる人として失格だと思う。
話が横道に逸れてしまった。
野中氏の論に戻る。ここからが重要なのだ。野中氏は、
◆「小沢学校」というシステムが問題とされたのか?
<私が衆院議員になったばかりの1980年代、建設省(現在の国土交通省)に「小沢学校」と呼ばれるものがあった。毎年暮れの予算編成の時、事務次官室の奥の技監の部屋に政治家が夕刻から地元の産物と酒を持って、次官、技監、官房審議官、局長らと一緒に酒を傾けながら、予算の報告を刻々聞くのが当時の慣わしだ。小沢氏は夜遅く来て上座にドンと座る存在だった。小沢氏らに認められなかったら「小沢学校」には入れなかった。私も建設政務次官経験して古賀選挙対策委員長らとやっと入れた。小沢氏は当時から隠然たる力を持った存在だった。>
<西松建設の事件がどこまで発展するのか分からないが、(辞任について)私は来るべきものが来たのかな、と思う。事件は「小沢学校」からの流れで起きたことだ。本当は政治の世界から身を引くべきだ。>
というくだりである。
東京地検特捜部がもしも、この野中氏の問題意識を共有しているとしたら、大変な事件に発展しかねない要素をはらんでいる、ということだ。
「天の声」という言葉があった。公共事業で予算がつく。そこまでは自民党政調と大蔵省(現在の財務省)の連携プレーだ。
予算がつくと、今度はどこにいつ、どれだけのカネを実際に出すのか、という「箇所付け」が始まる。この箇所づけをするのが、この「小沢学校」だった。そして、天の声は金丸信からその座を受け継いだ小沢氏だった。その後、小沢氏の離党でこの座を得たのが中村喜四郎氏だったが、彼も逮捕されている。このシステムは表面上はなくなったことになっているが、なくなってはいない。
東京地検がこのシステムを睨んで捜査を行ったのだとしたら、ことはそう簡単ではない。
確かに法律改正で談合はできにくい制度になったが、それは裏に潜っただけだ。談合は「必要悪」だからだ。荒ぶる強欲資本主義の「勝者の論理」だけで建設業界が競争したら、中小建設業者は軒並み倒産する。それだけでなく、グローバリズム、人の国際化を進めて、韓国の建設業者らが韓国人の作業員を引き連れて日本の工事を落札すると、日本の工事関係者が失業する。
だから、国際化の流れの中で様々な工夫がなされており、この裏システムはうまく機能してきた。
だが、アメリカの要望で一層の自由化、人の国際化を進めざるを得なくなった小泉政権で、検察は談合の摘発に走り、裏システムを虱潰しに壊しにかかった。セーフティネットなしに壊すのだから、無茶苦茶だった。失業者は増える。そのうえ、労働規制の自由化という美名の下、労働者切り捨てが進む。グローバル・スタンダードの実態である。
小沢氏は壊される寸前の闇システムに何とかリンゲルを注入しながら延命させた。小沢政権を発足させ、大改革を実行するまで何とか生き残らせる必要があったからだ。
ところが、アメリカと組んだ小泉・竹中勢力は東京地検と手を組んだのか、地検の捜査の矛先が竹中氏ではなく、小沢氏に向かうようになった。
もしも、野中氏が書いているように「小沢学校」というシステムを全面的に叩き潰すための摘発だったとしたら、ことは容易ではない。
新自由主義勢力の総力をあげた巻き返しかもしれないからだ。
再分配による「機会の平等」を大切にする「小沢政治」を否定し、強者の政治を続ける、という経済界の強い要望も背景にはあるのだろう。
政官業の癒着関係はいまや「小泉改革」を継続しようとする「構造改革派」に引き継がれ、その「改革利権」を貪っているのは「小泉改革派」なのだ。
再分配派を根絶やしにしよう、とする画策の中に今回の事件があったとすれば、小沢氏辞任は、もっと大きな政治絵図面の中で検証されるべきだ。
各社の社説や政治部長論文に不足しているのは検察批判だけではない。そうした「大きな物語」を語る視点の欠如こそが問題だ、と思う。
参考に各社の5月12日の社説をメモしておく。この日の社説はいずれ、何度も政治学者の論文で「先が読めなかった新聞社」として引用されるのではないか。
◆日経新聞<民主党は「小沢辞任」踏まえ政策勝負を>
民主党の小沢一郎代表が記者会見で辞任を表明した。西松建設の巨額献金事件で3月初めに小沢氏の公設秘書が逮捕されて以降、各種世論調査で小沢氏の辞任を求める声が大勢だった。逮捕から2カ月余りが経過したが、小沢氏が説明責任を果たしたとは言い難い。辞任は当然だ。
小沢氏の辞意表明を受けて、民主党は速やかに後任の代表を選ぶ必要がある。秋までに必ず衆院選が実施されるという政治状況のなかで、次の首相候補となる野党第1党の党首選びは極めて重要だ。民主党は新党首の下で態勢を立て直し、政策で勝負を挑んでもらいたい。
小沢氏は記者会見で「衆院選での必勝と、政権交代の実現に向け、挙党一致の態勢をより強固にするために、あえてこの身をなげうち、民主党代表を辞することを決意した」と、辞任理由を語った。
13日には麻生太郎首相との党首討論が予定されていたが、小沢氏は大型連休中に自ら進退を決めたことを明らかにした。事件の引責辞任との見方は明確に否定した。
小沢氏は偽メール事件の責任を取って辞任した前原誠司氏の後を継いで、2006年4月に民主党代表に就任した。2007年の参院選で大勝し、参院で与野党逆転を実現した。選挙に強いという「小沢神話」を最大の求心力にして、寄り合い所帯と揶揄される民主党をまとめてきた。
しかし秘書の事件以降は、小沢氏が代表を続けることのマイナス面の方が目立った。政権末期の様相を呈していた麻生内閣は「敵失」で支持率が回復基調に転じ、4月下旬の本紙世論調査では前月より7ポイント上昇して、32%まで戻した。
各種世論調査での次期首相にどちらがふさわしいかという質問でも、麻生首相が再び小沢氏を逆転するようになった。民主党内では「小沢氏では選挙を戦えない」という不満がマグマのようにたまっていた。
小沢氏の秘書が逮捕されてから、民主党は思考停止に陥った感があった。衆院解散・総選挙を求める勢いが弱まり、2009年度補正予算案の審議でも精彩を欠いている。次期衆院選のマニフェスト(政権公約)の策定作業も停滞していた。
衆院選は間近である。選挙の争点を明確にするためにも、代表選で政策論争を深めたうえで、政権公約を練り直す作業が急務である。小沢氏の辞任で政局の潮目が変わる可能性が出てきたが、政策への信頼感を高められなければ、政権交代は絵に描いたもちになりかねない。
◆産経新聞<小沢代表辞任 判断遅すぎ、信頼を失う 後継選びで基本政策を競え>
民主党の小沢一郎代表が、西松建設の違法献金事件をめぐる混乱回避を理由に、代表を辞任すると表明した。
そもそも小沢氏と一心同体である公設第1秘書が、政治資金規正法上の違法行為を犯したとして逮捕・起訴された事件である。当初から小沢氏の政治的かつ道義的な責任は明確であり、代表辞任は遅すぎたと言わざるを得ない。
秘書の起訴後、小沢氏は1カ月以上、代表に居座り続け、巨額な政治資金の使途などについて説明しようとはしなかった。きわめて遺憾であり国民の信を失っていることを理解していない。離党もしくは議員を辞職するような事態であることを認識すべきである。
小沢氏の続投を容認し、秘書逮捕から2カ月余にわたり、十分な自浄能力を発揮できなかった党執行部の責任も重大だ。
新代表選びでは、信頼回復の方途を模索すると同時に、基本政策を含めた論争を徹底すべきだ。
小沢氏は会見で「今日でも政権交代は可能だが、さらに万全にするため」と辞任の理由を述べ、続投への批判が党内外にあり、自分自身が挙党態勢の支障になっている点は認めた。
≪説明責任は果たされず≫
同時に「衆院選を通じた政権交代の実現が国民生活重視の政治への転換を可能にする」と述べ、新体制を支えていくという名目で引き続き衆院選対策の実務に取り組む強い意欲も隠さなかった。
これでは、辞任要求が拡大する前に自発的に辞任し、影響力を残したということではないのか。小沢氏は「政治資金について、一点のやましいところもない」と強調したが、事件について反省し、説明責任を果たそうとはしなかった。辞任するだけで、違法献金事件の批判や疑念を一気に払拭(ふっしょく)できると思っているのだろうか。
政治とカネをめぐる国民の政治不信を増幅させたのに、こうした辞め方が党の信頼回復に結び付くとは思えない。民主党は自民党よりもクリーンな政党だというイメージを、大きく壊した事件であることを忘れてはなるまい。
事件の説明責任が消滅するわけではない。有権者は新体制がどれだけ自浄能力を発揮できるか厳しい視線を向けるだろう。
この5年間を見ると、平成16年に菅直人氏が年金未納問題、17年には岡田克也氏が衆院選敗北、18年には前原誠司氏が偽メール問題で、それぞれ任期途中で代表を辞任した。
小沢氏自身、16年にいったん党代表に内定した後、年金未加入問題で就任を辞退したことがあるほか、19年には自民党との大連立構想をめぐり混乱を招いたことから辞意を表明し、その後撤回した経緯がある。
≪個人依存から脱却を≫
小沢氏が19年の参院選を勝利に導き、政権交代の可能性を高めた力量、手腕が大きいことは多くの人が認めるところだろう。しかし、そのために「政局至上主義」と呼ばれる国会戦術を押し通し、社民党などとの野党共闘を優先した。外交・安全保障政策がゆがめられていないか。異論を唱える動きが広がりを持たない党の現状を直視する必要がある。
今回の事件でも、小沢氏個人の力量に依存しすぎていたために、有権者の多数が辞任を求めていても、党内で党首の責任をほとんど追及しなかった。その背景にも、党内での政策論争の不足が指摘されよう。
今国会で、民主党はソマリア沖での海上自衛隊を主体とした海賊対策に強い疑問を示し、海賊対処法案の早期成立に応じようとしていない。
在沖縄米海兵隊のグアム移転をめぐる日米両国の協定締結承認案には、反対の方針をとっている。日米同盟や国際協調行動にかかわる具体的な政策対応で、民主党の政権担当能力を疑わせる事例が進行している。
新代表選びに手を挙げる候補者は、こうした基本政策に関する論争を避けてはなるまい。
内閣支持率の急落などで、一時は政権の危機も取りざたされていた与党は、小沢氏の秘書の逮捕起訴という「敵失」によって息を吹き返したにすぎない。 民主党の新体制にどう対応するのか。自民党への不信は払拭されていない。 違法献金事件では、複数の自民党議員への資金提供をめぐる疑惑も指摘された。政治資金の透明化へ与党の努力が必要なことに変わりはない。
◆朝日新聞<小沢代表辞任―政権選択に向け再起動を>
民主党の小沢代表がようやく辞意を表明した。妥当な判断だ。もっと早く踏み切っていれば、民主党が被った損失は小さくて済んだろう。
西松建設の違法献金事件で公設第1秘書が逮捕されてから2カ月余。代表の職にとどまった小沢氏に対する世論の逆風は強まる一方だった。それが、超低空飛行だった麻生内閣の支持率を上向かせることにもなった。
《容易でない党勢回復》
このままでは、秋までに必ずある総選挙での勝利、つまり年来の目標である政権交代の実現が遠のく。そんな危機感からの決断なのだろう。
昨夕、記者会見した小沢氏は「政権交代の実現に向け、あえてこの身をなげうち、職を辞する」「身を捨て、必ず勝利する」などと述べた。
もう一つ、これまで小沢氏批判が大きな声にはならなかった党内に、辞任を促す動きが表面化してきたことも、決断を後押ししたに違いない。
秘書の逮捕以来、小沢氏は全面的に検察と争う姿勢をあらわにしてきた。昨夕の記者会見でも「一点もやましいことはない」と強調した。辞任すれば検察への屈服ととられかねない。そうした思いが、小沢氏の身を固くさせていた面もあろう。
検察はまだ捜査終結を宣言してはいないが、焦点は近く開かれる事件の初公判に向き始めている。小沢氏とすれば、公設秘書の逮捕という強制捜査の手法や、献金の違法性などについて、今後は裁判の場で争っていくということなのだろう。
(このひどさ。二階氏までいかないだろうが、それは頬被りしよう、と読者に呼びかけているようなものだ。)
民主党はただちに新代表選びの作業にとりかかるが、党勢の回復は容易なことではない。
この事件が表面化する前、民主党の勢いには政権交代前夜のおもむきさえあった。それが一気に失速しただけではない。この2カ月というもの、国会に提出された多くの法案や予算案について、すっきりとした対応が定まらず、総選挙向けのマニフェストづくりの作業はほぼストップしていた。
《開かれた代表選びを》
小沢氏がなぜゼネコンから長年にわたって巨額の献金を受けていたのか。公共事業をめぐる政官業の癒着を厳しく指弾し、「国のかたち」を抜本的に変えると主張してきた民主党なのに、その基本姿勢と矛盾するのではないのか。そうした世間の批判に小沢氏本人だけでなく、民主党もほおかむりしてきた。
この不信感の集積を、ぬぐわねばならないのだ。新代表になればまた自動的に支持が取り戻せると思っているのなら、大きな間違いだ。
代表選挙は、複数の候補者が政見を競い合う形にすべきだろう。国会審議への影響は最小限にしなければならないが、民主党が目指す政策や理念についての論争を党外に積極的にさらし、有権者にもその是非を考えてもらえる工夫をする必要がある。
そして、何かといえば「小沢氏頼み」になりがちだった党の体質を、新代表のもとで刷新することだ。
偽メール騒動で混迷した党の苦境を引き受け、小沢氏が代表に選ばれたのは3年前。その真骨頂は2007年の参院選での与野党逆転だった。
自民党の手の内を知り尽くし、選挙戦術にたけた老練さ。抜群の知名度。民主党内にも有権者の側にも、かつて自民党の中枢にいた小沢氏の過去や体質への懸念がなかったわけではない。それでも、どこかひ弱な民主党にとって、その腕力は政権につくのに欠かせない「劇薬」と受け止められた。
副作用もあった。小沢代表になってから、社会保障財源のための消費税引き上げ、公共事業受注企業からの献金禁止といった民主党独自の政策が、いつの間にか政権公約から姿を消した。高速道路の無料化や子ども手当などの政策には「財源の裏付けがない」という与党などの批判が浴びせられた。
外交面でも、例えば「第7艦隊で米国の極東におけるプレゼンスは十分」などといった、小沢氏の迷走発言が続いた。
《自民も問われる責任》
小沢氏がトップダウンで進めようとした自民党との大連立構想こそ頓挫したものの、小沢時代の民主党は「政策より政局」「何はともあれ政権に」の権力志向があまりにも前面に出ていなかったか。
内政、外交の両面で、政策を練り直す作業を急がねばなるまい。
民主党が態勢を立て直すことになれば、今度は麻生政権が改めて問われることになるだろう。
一時は10%台前半に落ち込んだ内閣支持率こそ上向きだしたものの、世論調査では相変わらず6割の人が麻生内閣を「支持しない」と答えている。軽く見ていい数字ではない。
麻生首相で本当に選挙に勝てるのか、そんな不安の声が再び自民党内で大きくなる場面もあるかもしれない。
次の総選挙を、真の意味で国民による政権選択の選挙にすること。それが政治、とりわけ2大政党の自民、民主両党に課せられた責任だ。
深刻な不況をはじめ、少子高齢化、人口減少などさまざまな面で、日本は大転換期にある。そんな中で迎える総選挙だ。両党とも指導者の魅力と政策の説得力を競わねばならない。どちらが先に態勢を整えられるか。残された時間は少ない。
◆読売新聞<小沢代表辞任 世論に追い込まれた末の退場>
厳しい世論に追い込まれた末、「政治とカネ」に関する説明責任を果たさないまま、遅きに失した退場と言えよう。
民主党の小沢代表が記者会見し、辞任する意向を表明した。西松建設の違法政治献金事件で公設秘書が逮捕、起訴された問題の責任を取ったものだ。
小沢代表は、「来る衆院選での必勝と、政権交代の実現に向け、挙党一致の態勢をより強固にするため、あえてこの身をなげうつことを決意した」と強調した。
大型連休中に進退問題を熟慮した結果、自らの辞任が次期衆院選での民主党の勝利に貢献する、と判断したという。
《説明責任は果たされず》
小沢代表は公設秘書の政治資金規正法違反罪での起訴後、いったんは代表続投を表明した。
だが、党内では、「小沢代表の下では次期衆院選を戦えない」との危機感から、代表の自発的辞任を求める声が広がっていた。小沢代表は、この声を覆すだけの反論ができなかった。
小沢代表は「この種の問題で起訴という事例は記憶にない」などと検察批判を展開したが、政治家に極めて近い公設第1秘書が起訴された事実は重い。
今後、秘書の公判が始まれば、小沢代表側と西松建設との関係が国民の目にさらされるだろう。建設会社から長年、巨額の政治献金を受け取る行為は、古い自民党的な金権体質そのものだ。衆院選への影響は計り知れない。
読売新聞の最新の全国世論調査では、小沢代表続投について「納得できない」との回答が7割を超えている。
一時は20%を切った麻生内閣の支持率は上昇し、30%に迫りつつある。麻生首相と小沢代表のどちらが首相にふさわしいかという質問でも、麻生首相が小沢代表を上回り、その差を広げている。
こうした厳しい世論の背景にあるのは、小沢代表が西松建設事件の実態について、説明責任を果たしていないことだ。
鳩山幹事長らは再三、小沢代表に国民向けの説明を行うよう進言したが、実行されなかった。小沢代表の辞任記者会見でも、事件で「心配をかけた」支持者への謝罪はあっても、政治献金に関する具体的な説明はなかった。
小沢代表は自らを「口べた」と称するが、野党第1党党首として首相を目指す以上、そうした言い訳は通用しない。自らの立場を国民に説明し、理解を得るのは、首相に不可欠な基本的資質だ。
民主党の国会対応が最近、精彩を欠いていたのも、小沢代表の進退問題と無縁ではない。
小沢代表が避け続けていた首相との党首討論も、ようやく13日開催が決まったが、小沢代表辞任で再び先送りされる。
《民主党は政策を見直せ》
民主党に今、求められているのは、迅速かつ民主的な手続きによる後継選びと、新たな党首の下での結束だろう。後継代表には、岡田克也副代表や鳩山幹事長などの名前が挙がっている。
次期衆院選が迫る中での代表交代だけに、党内には、混乱を懸念する声もある。
民主党は、小沢代表ら自民党出身者のほか、旧社会、旧民社党系など、様々な出身の議員で構成される「寄り合い所帯」の政党だ。小沢代表以外に党を束ねる強力な指導者がいないというのが、代表続投の主な理由だった。
だが、小沢執行部の退陣は、小沢代表主導による政局・選挙一辺倒の姿勢を是正し、政策の見直しを図る好機でもある。小沢代表が決定した政策や方針には異論を唱えられないような風潮は当然、改めるべきだ。
民主党はかねて、最低保障年金制度や子ども手当の創設など、20兆円以上の新規政策の財源が不明確だ、と批判されている。今後、社会保障費の増大が見込まれる中、消費税率の引き上げを封印したままで本当によいのか。
民主党の弱点とされる外交・安全保障政策の論議も、避けてはなるまい。インド洋での海上自衛隊の給油活動やソマリア沖での海賊対策などで、より現実的な政策を打ち出し、政権担当能力を示すことが必要ではないか。
《衆院選の時期にも影響》
小沢代表が新体制でどんな役割を担うかも一つの焦点だ。
小沢代表はこの20年間、常に日本の政界で重要な地位を占めてきた。代表辞任が「小沢時代」の大きな節目となるのか、あるいは影響力を保持し続けるのか。
民主党の代表交代は、今秋までに必ず行われる衆院解散・総選挙にも影響するだろう。
民主党の新たな代表と執行部、その打ち出す政策が、国民にどんな評価を受けるのか。麻生首相はその点を見極めながら、解散のタイミングを探ることになる。
自民、公明の両与党も、漫然と対応することは許されまい。政権公約(マニフェスト)の策定・充実などを通じて、新しい民主党との政策競争の準備を急ぐことが求められよう。
◆毎日新聞<小沢氏辞任表明 やっと政治が動き出す>
民主党の小沢一郎代表が11日、代表辞任を表明した。今年3月、公設第1秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕されてから2カ月余。世論調査では辞任を求める声が一貫して6割以上に上り、国会も民主党が守勢に回って緊張感のない審議が続いてきた。このままでは次の衆院選に大きな影響が出ると考えたのだろう。むしろ遅すぎる決断だった。
しかし、小沢氏の進退問題という呪縛から民主党はやっと解き放されたと前向きにみることもできる。近づく政治決戦に向け、民主党は新代表のもと早急に態勢を立て直さなくてはならない。そして機能停止のような状況に陥っていた政治が再び動き出すことを望みたい。
《決め手は厳しい世論》
連休中に熟慮したという小沢氏はこの日の記者会見で「政権交代の目標を達成するには党内の結束・団結が不可欠だ」「私が代表にとどまることで挙党一致に差し障りがあるとすれば、それは本意ではない」と何度も強調した。
民主党内では小沢氏辞任を求める声が公然と出ていた。事件の引責辞任ではなく党内の結束が乱れるのを避けるため辞任するということなのだろう。捜査状況や今後、公設秘書の裁判がどうなるかという見極めのほか、衆院解散・総選挙が近いとの判断もあったと思われる。
だが、小沢氏の進退を決した一番の要因は、世論の厳しさではなかったろうか。
衆院選を間近に控えた時期に東京地検特捜部が捜査に乗り出したことに対しては「小沢氏をねらい撃ちしたものではないか」という疑問が多くの国民の間に今も残っている。しかし、その一方で、毎日新聞の4月の世論調査では「小沢代表は直ちに辞めるべきだ」が39%、「衆院選前に」が33%で合わせて72%に上り、他の調査でもこうした声は決して収まることはなかった。
毎日新聞も小沢氏は自ら身を引くべきではないかと再三、指摘してきた。小沢氏が否定しようとも西松建設側が公共工事受注に何らかの期待があって献金したと供述している。利権をめぐりカネと票が動くことこそ、政官業癒着の本質であり、族政治そのものだ。ところが小沢氏は自民党政治を打破するといいながら、なぜ、ゼネコンから巨額の献金を受け続けてきたのか。素朴な疑問に小沢氏は結局答えられなかった。
次の衆院選で首相を目指す民主党の代表が「古い自民党の体質を引きずっている」と多くの有権者を失望させた責任は大きい。決断が遅れたことを含め、そうした点に関して、小沢氏が記者会見でほとんど言及しなかったのは残念だった。
小沢氏は2006年4月、偽メール問題で前原誠司氏が代表を辞任した後、代表に就任した。2007年7月の参院選で圧勝しとかく「風」任せの選挙を続けてきた民主党議員に「地元回り」の必要性を説く一方、支持組織固めも進めた。
《与党の戦略も変化》
1989年、自民党幹事長に就任以来、小沢氏は絶えず政界の中心にいた。自民党当時の「普通の国」論など日本政治の先駆的役割も果たした。ただ、自民党顔負けのバラマキ型政策を重視する姿勢には民主党内に異論も多かった。国連中心主義の外交理念も党全体のものにはなっていない。党首討論をはじめ、表舞台に顔を出したがらない姿勢に疑問を感じる議員も多かった。
オバマ米大統領に見るように、日本でもオープンな場で、強く分かりやすいメッセージを国民に向けて発信する力がリーダーには求められている。密室での駆け引きに剛腕を発揮してきた小沢氏だが、今回の辞任はそうしたスタイルの政治が終わりを告げていることも意味しているように思われる。
民主党は新たな代表選びに入る。今のところ、代表経験者の岡田克也副代表を推す声が中堅・若手に強い一方、鳩山由紀夫幹事長や菅直人代表代行の就任を求める声もある。
小沢氏の進退問題で揺れている間、次期衆院選のマニフェスト作りも停滞しているのが実情だ。言うまでもなく衆院選は、政権と首相を国民が選択する選挙だ。この首相候補のもとで、どんな政策を実施し、日本をどう具体的に変えていくのか。代表選びは、党の顔と党の政策を一致させ、国民に分かりやすく提示する形で進めてもらいたい。
今年度補正予算案など国会審議も緊張感が薄れている。何より民主党が早期の衆院解散・総選挙を求めなくなったのが大きな要因だ。新代表と新執行部は直ちに国会運営の立て直しも進めなくてはならない。
新代表以下、民主党の新体制をどう国民が評価するか。それ次第で、麻生太郎首相はじめ与党の解散戦略も大きく変わるかもしれない。政治が動き始めることを期待しよう。
◆東京新聞<小沢民主党代表が辞任 態勢立て直しを急げ>
小沢一郎氏が民主党代表を辞した。不信を晴らせず総選挙の陣頭に立てるはずもない。自然な結論だろう。失った信頼回復へ党の態勢立て直しが急務だ。
ある程度予想はされていても、いざそうなってみると衝撃度は大きい。政権選択の総選挙決戦を目前に、野党第一党の党首が司令塔降板を宣言したのだから。
辞任表明の記者会見に小沢氏は吹っ切れた表情で登場し、挙党一致へ身を投げ出す、と述べた。
進退があいまいなままでは、近づく総選挙を好機と位置づけてきた政権交代は幻になる。民主の大勢は代表辞任を好感し、一方、自民など与党からは、民主支持率の復調を警戒する声が出た。
《世論に逆らえずついに》
西松建設の違法献金事件で秘書が逮捕・起訴された。小沢氏は記者会見を重ねたが、説明責任を果たしていない、辞任すべきだ、との世論は各メディアの調査でもすさまじく、6割を超していた。
しかし小沢氏は「当面」の条件付きで続投を表明、「総選挙勝利を行動基準に判断する」と進退の最終判断を先送りしてきた。
3年前の代表就任以降、参院選圧勝などで政権に手が届きそうなところまで党勢を拡大した。
総選挙で勝ち、政権交代できるのも自分、との自負から、この窮地も脱出できると考えていたかもしれない。総選挙を前に野党を狙い撃ちにしたかのような東京地検の捜査に、納得がいかないとの憤慨もあったのだろう。
だが、かつて自民を離党して政治改革の旗を振った当人が、古い自民の象徴といえるゼネコンからの巨額献金集めをしていた。世間は失望し、疑念を持った。
「政治とカネ」を抱えた「小沢首相」を想像できる国民はまずいない。それ以前に首相候補として総選挙を戦えるはずもない。世論に追い込まれた格好だ。
《後継選びが党の試金石に》
世論が求めた「説明責任」は、言ってみれば「辞任要求」であったのだ。辞任の最終決断まで小沢氏や周辺が多くの日数を要した。遅きに失した感は否めない。
小沢氏は辞任表明会見で、自ら身を引くことで挙党一致をより強固にする、それが政権交代の大目標につながる、と語った。
違法献金事件については「一点のやましいところもない。政治的責任で身を引くのではない」と気色ばんだ。
多額のゼネコン献金を必要とした理由は何か。多くの国民は小沢ファンも含めて聞きたかったのではないか。辞任会見でもここを避けたのは遺憾である。 13日には麻生太郎首相との党首討論が予定されていた。
首相は小沢氏の辞任について早速「何について責任を取ろうとしているのか、なぜ今なのか、国民は理解できないのではないか」とこき下ろしている。
国会日程を飛ばすのは、らしいといえばそれまでだが、小沢氏は敵に背を見せてしまった。
民主党はその答えを用意しなければならない。速やかな後継代表の選出と、国会終盤に臨む態勢の立て直しである。
「西松建設ショック」以降、民主は事件の負い目もあってか、国会論戦で迫力不足が目についた。企業献金全面禁止の主張も、議員の世襲制限も、有権者には“当座しのぎ”としか映っていない。
党の危機対応能力が疑われる事態は遅まきながら辞任会見で決着した。
党内に反転攻勢のムードは高まろうが、失地回復は簡単なことではない。早速問われるのは、後継の新代表を混乱なく選べるかである。お家芸ともいえる騒動が続くようでは、民主への失望を増幅することになりかねない。
陰に陽に辞任を迫ってきた反小沢派と小沢支持グループとの確執を不安視する向きがある。右から左までの出自や政策、路線の違いから、互いにこの人物だけは新代表に受け入れたくない、という陰口も飛び交う。
後継選びの過程そのものが政権交代への試金石になりそうだ。自民などから聞こえる「政権を担当するには未熟」批判に応えられるか、ぜひ大人の対応を見せてもらいたいものである。
総選挙へ事実上のカウントダウンが始まっている。民主党は小沢氏が必ずしも熱心でなかったマニフェスト(政権公約)を完成させる作業を加速させるべきだ。
《首相も解散で応えよ》
新代表のもとで民主は国会論戦を再活性化し、政権与党との対立軸を国民に明示することだ。
「敵失」で支持率が回復傾向の首相にも、同様の注文をしておきたい。野党党首交代で衆院解散・総選挙は遠のく、との観測もあるようだが、それではいけない。
歴史的決戦にふさわしい態勢づくりは与野党双方の責務である。
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