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2009年7月12日 (日)

ポール・ケネディ氏の「国家の復権」論はその通りだが、ウエストファリア体制の再現ではないはずだ~7月12日読売新聞朝刊[地球を読む]から

 読売新聞7月12日朝刊1面コラム[地球を読む]は英歴史家のポール・ケネディ氏の<国家の復権/中央政府の役割増大/テロ、金融危機の帰結>。グローバル資本主義の進展でいかにも国家という行動主体が後景に退き、国際金融資本が世界を支配しているかのような論が世界を席巻していたが、9.11とリーマンショックでそのメッキが剥げ、本来の権力主体である国家がまた権力をギラギラさせながら戻ってきた。これは戻ってきたのではなく、もともとそうだったのだが、勘違いをしていた人々が間違った概念を宣伝していただけだったのだ、という国家主体戦略論の勝利宣言のように読める。

 しかし、今の国家や国家間関係はポール・ケネディ氏が言うように500年前にできあがった国民国家、つまりウエストファリア体制の国家ではないのではないか? 当時は民主主義という概念はなかったから、王様が決めれば何でも決まっていた。今は国家とか中央政府がその王様の代わりを果たそうとしてはいるが、すべてを決めるわけには行かなくなっている。

 その原因が高度情報化され、地球が狭くなっており、世論という新しいファクターが政治権力を半分支配している、という変化ではないか、と思うのだ。

 中国ですらそうだ。中華人民共和国の建国以来、その政府のイデオロギーの正統性を担保してきたのは経済成長(中華民国や清時代より豊かになったという実感)と阿片戦争以来侵食され続けた領土の回復というナショナリズムだったことは通説になっている。毛沢東時代はこのイデオロギーの正統性に疑問が起きなかったため、ナショナリズムを使わずとも支配が出来た。だから、毛沢東も周恩来も「日本人民も日本軍国主義の被害者。賠償は求めない」と言い切っても国民の反発を受けることなく、対外関係を上手に仕切っていけたのだった。しかし、情報化が進み、米国や日本に留学した学生たちが欧米先進国の民主主義を知って以降は「民主」政治が求められるようになり、1989年の天安門事件は学生の運動に過ぎなかったものの、この運動に大衆が参加したら共産党政権で収拾できなくなる、という危機感から弾圧をした。しかし、予想外に欧米からの反発が強く、鄧小平は挫折する。江沢民の中国は共産党への求心力を高めるため、愛国教育を徹底した。共産主義教育だけでは統治ができなくなった時にでてきたのは、ナショナリズムに訴える「愛国教育」だった。そして、そのターゲットになったのが香港などを植民地にした英国、ポルトガルなどではなく、ましてや朝鮮戦争で戦った米国でもなく、遅れて近代史に登場して中国を侵略、敗戦した日本だった、という歴史的事実も広く共有されている通りだ。

 ところが、この「愛国教育」=反日教育が行き過ぎたため、民衆の反日暴動が起きるようになり、中国にとって最大に重要視している日中経済関係にまで影響するようになり、共産党政府は反日の扱いに困り抜いているのが現状だ。

 つまり、中国ですら「世論」に左右される政治になっている。

 ポール・ケネディ氏は「国家」「中央政府」の内情について言及しているわけではないので、ここに書いたことはケネディ氏への反論ではないのだが、ケネディ氏がウエストファリア体制という形で国家間関係を見ようとすると、その有効性には限界があることを認識してほしい、という願いがあるだけだ。

 ケネディ氏が書いている通り、一時は国家が霞み、投資銀行やベンチャー投資家や自由放任主義の経済専門家たちがいかにも世界を支配しているように振る舞っていたし、「大きな政府」は過去のものという論が席巻していた。

 テロとの戦争、つまり非国家主体による攻撃行動に対し、米国を中心とする国々があらゆる種類の治安措置を取り、共同行動で押さえつけようとしたもので、主体は国連という「世界国家」ではなく、有力な国家の連合だった。

 投資ファンドなどはリーマンショック以来、立ち直れない程の傷を受け、後始末を各国政府に任せざるをえなくなった。地球規模の大金融機関ですら今や政府の金融規制の中で踊らざるを得なくなったことも事実である。

 <要するに、国家が舞台の中央に戻ったのである。ほとんどの諸国で、国内総生産における政府部門の比率が急上昇している。政府支出と国家債務も同様である。すべての道は各国の議会に、中国の場合は中国人民銀行につながっているように見える。市場は金利の変更や米ドルの強さの再評価に関する本の少しの兆候にも不安げに目を凝らしている。>

 として、

 <権力の手綱を握っているのは政治的指導者である。>

 と結論付けている。それはそうだ。だがしかし、という面を強く出すのかどうか……。世界同時不況後の世界の秩序はまだ見えてきていないのではないか。

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